第三回戦 零対殺人鬼
「お前は問題児だとは思っていたが、他人が後継者になるところを見に来ただと? ここは二代目死屍柴ヒルイの後継者を決める場所だ。観覧気分ならば帰ってもらおうか」
教師はゆっくりと腰に手を回し特殊警棒を引き抜こうとした。
「やめろ」
今度は俺が教師の腕を掴みとめる。
「放せ。お前も俺に危害を加えたとみなすぞ」
「あんたが警棒を手にしないっていうなら放してやるよ」
俺と教師は見詰め合った。お互いに睨み合うように。
「ここでお前にまで怪我を負わせれば運営に支障が生じる。折れるのは今回だけだぞ」
教師の腕から、力が抜ける。
「五朗丸。お前も武器を下ろせ」
「でもよ……」
「いいから下ろしてくれ。俺は自分のことで誰かが怪我をするのは嫌いなんだよ」
「……分かったよ」
渋々といった感じで五朗丸は武器を下ろした。
それを確認し俺は五朗丸の元に近づいていく。すると、教師が口を開いた。
「零に五郎丸もう問題を起こすなよ。特に五郎丸。お前は二ノ宮や十字同様、問題行動が多すぎるぞ。これからヒルイさんや組織長の方々が来るんだから、礼儀正しくしろよ」
学園ドラマの教師のように注意すると、ずっと傍観者をしていた四家が口を開いた。
「ニノちゃんは問題なんか起こしてないよ?」
小首を傾げて言ってくる。
「何言ってんだよ。三月に八王寺に二人も殺しただろ」
教師が反論すると、四家はまた首をかしげた。
「おい。二ノ宮がやっていないってどういう事だ」
俺は壁沿いに居る四家に大股で近づいていき詰め寄る。
「うん? だってニノちゃん鎌欲しいって言ってたんだよ」
鎌が欲しいって……確かに八王子の武器を発表する時に言っていたが、それがなんだと……あっ。
シャワーも浴び、学校で頭が起きたと思っていた俺だったが、どうやらまだ起きていなかったようだな。
四家に二ノ宮が犯人じゃないと言われ、やっと矛盾に気づくなんてどんだけ馬鹿なんだよ。
彼岸花の殺人鬼が犯人ならしっくり来るんだ。目を刺し殺すという猟奇的な殺し方もな。眉間についた傷も犯人が二ノ宮と物語っている。
けれど……説明できていねえ事があるじゃねえか。
なぜ、八王寺は二ノ宮を招きいれたのか。
「なあ、四家聞いていいか?」
「うん?」
瞼を重そうにしながらも、目をごしごしと擦りこっちを見てきた。話す気はあるようだな。
「今朝トイレに起きたからドアのノックに気づいたって言ったが……昨日の朝はどうやって起きたんだ?」
「うーん」
四家は上を見つめ考え出した。
「えっと、八王寺ちゃんにいっぱいノックされたから起きれたよ」
「じゃあ、その前の百鬼先生のノックでは起きれなかったのか?」
「ノックしてもらったみたいだけど、寝てたからわかんなかったよ」
「そうか。分かった」
俺は向き直り、教師を見る。
「なあ、百鬼先生よ。聞いていいか?」
「なんだ?」
「昨日男子だけを集めた時に女子に四家が寝ているだろうから起こして来てくれって言ったよな?」
「ああ言ったが何か問題でもあるか?」
教師は平然とした態度で聞き返してくる。どうやら俺の質問の意図が分かっていないようだな。それならそれでいい。今から嫌でも分かるんだからな。
「なあ、なんで部屋に入って起こさなかったんだ? 三月のように死んでいるかもしれねえのにな」
その瞬間教師の顔が曇った。一瞬だったが。
畳み込むなら今だな。
「あんたは四家が生きているって分かったんだろ? だから見なかった。そりゃそうだよな。昨日あんたが殺したのは……三月だけだもんな」
「……おい、零。何を言ってるんだ? 俺は四谷の寝息が聞こえた――」
「動じるなよ」
と、俺は教師の言葉を遮る。
「あの分厚い壁とドアで寝息が聞こえるはずがねえだろ。そこは、部屋の鍵を開けて中に入ったが、寝ていたので出て来たって言えよ」
「……ッ!」
教師が目を見開き自分の失態を恥じる。
「別に鍵を開けたと言っていたとしても、俺は別に良かったんだよ。あんたが中を確認したって言う事の確認は取れないんだからな。俺は事実だけを根拠にお前の犯行を暴くよ」
「俺は中立な審判だぞ。俺が何のために候補者に手を出すというんだよ?」
両手を広げ、うそ臭い笑みを浮かべながら、無実を謳ってくる。
あぁ、イライラしてきた。これはタバコを吸えないからだけじゃないな。こいつが偽っているからだろうな。事実を。あぁー。イライラしてくる。
「なあ、三月の時はベルトもズボンのホックも開いていたから気にしなかったんだけどよ、八王寺はなんで殺人鬼を招きいれたんだ?」
「……」
教師が言葉を発さずに固まる。
「可笑しいんだよな。三月を殺した殺人鬼がいるかも知れねえのに……部屋を開けるなんてよ。それに二ノ宮が犯人だとしたら、八王寺は彼岸花の殺人鬼を招きいれたことになるぞ。あいつはそんなに馬鹿なのか? そうじゃないだろうな。あいつは殺人鬼だと疑っていなかったから部屋のドアを開けたんだよ。訪ねてきたあんたをな。三月もそうだろうな、訪ねてきたのが教師なら、何かしらの連絡があると思ってドアを開けた……」
俺はたっぷり間を空けてから続けた。
「あんたが犯人だろ。百鬼先生?」
「……どこにも証拠はないというのに、俺を犯人扱いするって言うのか?」
自分の犯行を教師は認めなかったが、今のあいつからはきな臭い臭いがぷんぷんしてきて、俺を更にイラつかせた。
「証拠なんかいらねえだろ。刑事ドラマでも名探偵の出てくる小説でもねえんだ。ここは人殺しの集まる場所、疑わしければ……吐かせればいいだけだろうが」




