第三回戦 零 対 対戦者は誰
そこから俺達は各々時間を潰した。
一神は精神の集中をしているのか、電池でも切れたのか壁の一点を見つめ身動きせずに佇んでいた。
五朗丸は暇そうに壁沿いに腰を下ろし、キョロキョロと他の候補者を見ていた。
四家は壁にもたれかかり、目を瞑っていた。これは集中ではなく、睡眠だろうな。時折頭をガクッと落としていた。
教師は腕を組み、腕時計をちらちら見ていた。
後数分といっていたがもう十数分経っているのに壁が開かない事を不思議に思っているようだった。
俺はとりあえず朝の筋トレの続きでもしようと思い、腕立て腹筋を行った。制服が少し窮屈だったが構わず続け、筋トレをノルマ分まで終らせたが、扉はまだ開かなかった。
何かイレギュラーなことでも起きたのかと思いながらも、俺は手持ちぶたさを解消するために胸ポケットからマルボロの箱を取り出し、一本抜き取り口に咥え、百円ライターで火を着ける。
しかし、ライターのオイルが切れたのか、火花は上がるがガスに引火する事無く、ただカチッカチッとむなしい音だけを上げ続けた。
「……なあ、誰かライター持ってないか?」
五朗丸が手を横に振り持ってないと答える。
「ない」
期待はしていなかったが、一神も持っていないようだった。
四家は薄目を開け、首をゆっくり横に振る。
「俺も持ってないな」
頼みの綱の教師も持ってないようだ。
「はぁ」
と、ため息を着き、俺は外に取りに行くために壁のスイッチに歩いていく。
確か灰皿がしまってあるところにマッチがあったはずだな。
スイッチに手を伸ばすと、教師が俺の腕をがっと掴んだ。
「勝手に出るんじゃない」
「じゃあ、あんたが持ってきてくれるのか?」
タバコを口に咥えたまま聞く。一音一音発するたびにタバコの先端が上下に揺れる。
「俺も中に入ったら外から開けてもらうまで出ては行けない事になっている。だから諦めろ」
「……だからってさすがに待たせすぎじゃないか? 数分待つくらいなら我慢できるけどよ、さすがに数十分も待ったら一度くらい開けても良いんじゃないのか?」
「ダメだ」
教師が即答すると、俺の腕を掴む手に力がこもった。
意地でも開ける気がないのが伝わってきた。指示された事を全うしようとしているって訳か。
俺がその手を見ていると、横からもう一本手が伸びてきた。五朗丸の手だ。
五朗丸は俺の手ではなく、教師の手を掴んだ。
「零の手を離せよ」
「……零がもう扉を開ける気がないならすぐにでも離す」
五朗丸に顔を向けながら、チラリと視線を俺に送った。
「……分かったよ」
俺が答え、伸ばした腕から力を抜くと、教師が手を離した。
「悪いな。長くタバコを吸わないとイライラして来るんだよ」
「あんまりルールを乱すなよ。それから五朗丸。俺は中立な審判の立場なんだ。零の為にだとは思うが、俺に危害を加えるような行為はするなよ。それなりの処分を下すぞ」
「はぁっ? 処分? 言わせて貰うが俺は一度失格になってる人間なんだよ。処分なんかでビビルと思うなよ」
五朗丸は腕を放すと、掴む対象を胸倉に変えた。
にやけた笑みを浮かべながら挑発するかのように教師の胸倉を掴む。あの馬鹿。
俺が止めようと口を開くよりも早く、教師が五朗丸の腹を蹴り飛ばした。
やっぱり五朗丸は気づいていないようだな。
あいつはコスモス情報調査局護衛部にいると言っていた。つまり、裏世界の序列十一位の組織の実戦部隊にいるということだ。
そしてこの候補者選びの審判役に抜擢されているって事は、コスモス情報調査局のトップクラスの人間と言うことだろう。
それを相手に舐めて掛かっては五朗丸といえどやられるに決っている。
五朗丸はコンクリートの床を転がり仰向けに倒れると、手を使わずに足の反動と体のバネだけで起き上がった。
腹が痛むのか顔を苦痛に歪めながら教師を睨む。
「やってくれたな……」
「俺に手を出したら、それなりの罰を与えるといっただろ」
「ふざけるなよ」
五朗丸はゴルフバックを引き千切り、中からハンマーを取り出す。
「チッ」
俺は舌打ちすると五朗丸を制止する。
「五朗丸止めろ。これ以上揉めれば、お前が三回戦に復帰するってのも、なくなるぞ」
「関係ねえよ! それにな、俺はヒルイの後継者なんてのにはこれっぽっちも興味がねえんだよ。俺がここまで来たのは……お前が二代目ヒルイになるところを見たかったからだ」
友達を自慢する子供のように五朗丸は笑った。
あの馬鹿と思いながらも、俺も微かに笑うと、教師からぞわりと殺気を感じた。




