第三回戦 零対 対 戦者不明
バスに乗り込み渡されたアイマスクを付けると発進した。
昨日は隣の席にゴルフバックを置いていたが、へし折れた斧は使い物になりそうにないので置いてきたので、俺は二席を悠々と使いながらバスに揺られた。
数十分揺れを感じると、車は止まった。
「皆さん着きましたよ。私の役目もここまでですね。皆様の中の誰かが死屍柴ヒルイ様になられましたら、是非ともコスモス情報局をご贔屓に」
セールスマンのような鈴木だか松田だか言う運転手の声が耳に届いた。
やっと着いたか。
「それではアイマスクを外して降りてきてください」
アイマスクを外すとそこは駐車場だった。蛍光灯の明かり以外光源がない事を考えると地下駐車場だろうな。
俺はバスから降り、並べられた車を見た。ああそうか、ここはホテルの駐車場か。俺は停められた車を見て場所が分かった。
「うわっ、すげぇ」
五朗丸が驚きの声をあげる。
停められた車はどれもが一千万は優に超えるだろう超高級車ばかりだった。こんな馬鹿げた車だけが集うような地下駐車場はそうそうないだろう。
「それではこっちに来てくれ」
教師が先頭になり歩き出すと、非常口の扉を開け中に入っていく。狭く薄暗い通路を歩き、また扉を潜ると、狭っ苦しい空間に出た。
そこはエレベーターホールだった。教師はエレベーターの操作パネルを開き、中の電子キーを押す。四四四八、死屍柴と。
決戦の場所はここか。
エレベータに乗り込むと、教師はたった一つだけ表示された三十階のボタンを押す。
「これからお前達はヒルイさんや十大組織長の前で戦ってもらう。五朗丸はどうなるかはヒルイさんが来てから判断する事になるが、お前も準備だけはしておいてくれ」
「その時は零とやるのか?」
五朗丸がチラリと俺に視線を移し行った。あんまり戦いたくないといった感じだな。
「それはまだ分からないな。お前と零は一度戦っているからな」
「俺もあんまりダチは殴りたくねえし、殴られたくもねえから、他のやつとだと助かるな」
五朗丸が歯を見せ笑いながら言うと、教師は振り返り五朗丸を睨んだ。
「ダチだと?」
「……ッ! なんか文句あんのかよ!」
「あるに決ってるだろ。これは死屍柴ヒルイと言うこの裏の世界の楔であり防壁である御方の後継者を決める戦いだぞ。甘ったれた考え方で望むんじゃない」
「甘ったれだと!」
五朗丸のゴルフバックを掴む腕に力がこもると、エレベータがかすかに揺れた。足に力を入れ臨戦態勢をとったんだろう。
「五朗丸!」
叫ぶと教師と五朗丸の視線が俺に注がれた。二人の目はいつ殺だしても可笑しくないほど、敵意が表れていた。
「エレベーターの中で揉めんな。お前が動けばこの箱は止まるし、最悪落下するだろうが」
「……悪い」
「それから百鬼先生よ……ダチ作るのが悪いことなのか?」
髪をかき乱しながら俺は教師を見つめる。
「……いいや。友達だろうが恋人だろうが作るのは構わない。けれどな……お前達が目指すのはそういう次元すらも超越した存在である死屍柴ヒルイと言う御方なんだよ。お前らの背中にはこれからヒルイさんの使命が乗りかかる。友情や恋愛なんて甘いものにうつつを抜かしてはいけないんだ」
俺を見つめ返す教師の瞳は澄んでいて嘘偽りがないということが分かった。
「……なるほどな」
と呟くと、エレベーターは目的地に着き、ピンポーンと独特な到着音を鳴らした。
「着いたな」
教師は呟き、先頭で降りていく。
そこは赤い絨毯が敷かれた広い通路で、先には木製の重厚な扉が門番のように佇んでいた。ドアノブは金でこの扉一枚で数百万はしそうな代物だった。
教師は鍵束から金色の鍵を取り出し扉を開ける。
「おいおいおい! こんな豪勢な部屋で戦えっていうのか?」
五朗丸が宿泊棟が安く見えるほどの豪勢な部屋を見回しながら中にずかずかと入っていくと、教師が五朗丸を制止した。
「五朗丸! あんまり部屋を歩き回るな。ここは十大組織長が会談で使う部屋なんだぞ。間違ってもそのソファに座ったりするなよ!」
「分かったよ」
ソファに伸ばしていた手を引っ込める。
「それから、この部屋では戦わない。お前らが戦うのはこっちだ」
そう言うと教師は壁際まで歩きスイッチを押した。
すると、ずっと言う音と共に部屋の壁が真ん中から左右にスライドしていき、隠し部屋が姿を現した。高級ホテルの最上階をぶち抜いて作られたこのフロアの半分近くを占める、三百畳ほどの訓練部屋が。コンクリートで覆われただだっ広い部屋が。
「ここがお前達の決戦の場だ。ここで戦ってもらう。全員中に入ってくれ」
俺達は促され、訓練部屋に入る。すると教師は中にも付けられたスイッチを押した。また壁が音を奏でながら閉まっていく。
教師が腕時計をチラリと見る。
「あと数分でヒルイさんはじめ組織長の方々がお見えになるから、各自体を動かすなり、体を休めるなりして待っていてくれ。開始するまではこの壁は開かないからな」




