第三回戦 零対八王寺
「四百三十八……四百三十九……四百四十」
俺は朝の日課の腕立て伏せをしていた。
親父から毎朝腕立て腹筋を五百回ずつやれといわれてはや十年。最初の頃は辛くてサボりたい日もあったが、今では五百回くらい、楽にこなせるようになっていた。
「四百四十一……四百四十二」
高そうな絨毯に顎を伝い、汗が垂れるが俺は気にせずに続けていた。
「四百四十三……四百――」
数えながら腕を折ると、ドンドンドンと、ドアを乱雑にノックされた。
「……四百四十四」
腕を伸ばし不吉な数字を口にして俺は立ち上がった。
ドアののぞき窓から通路を確認すると、そこには教師の姿があり、その顔にはどこか焦りの色があった。
数字といいろくでもないことが起きていそうだな。
ガチャ。扉を開ける。
「もう時間か?」
「ああ。悪いが急いで準備をして……八王寺の部屋の前に来てくれるか?」
「……八王寺か……分かった」
俺は返事をし、扉を閉める。
昨日に引き続き今日も起きたようだな。
八王寺が殺人鬼に襲われ、殺された。
「チッ」
俺は舌打ちし、髪の毛を掻き毟る。汗で指先が濡れ、汗が飛び散るが俺は気にしなかった。
「生き残ったのに死んでんじゃねえよ……馬鹿が」
俺は日課の腕立てと腹筋をやめ、シャワーに向った。
親父には悪いが、残りは夜にやらせてもらおう。
そして、いつまでもあんたの指示に従い生きていくのは止めさせてもらう。俺は俺の考えで生きていく。
熱いシャワーを頭から浴び、俺は制服に着替え部屋を出た。
円形の廊下を進み、八王寺の部屋に来るとそこには一神と五朗丸と四家の姿があった。四家はまだ頭が起きていないのか。目を閉じ頭をフラフラと動かしていた。
「おい。四家寝るな! 起きろ」
教師が声をあげ肩を揺すると、四家は半目を開けた。
「眠い」
見て分かるよ。こいつはマジで大丈夫なのか?
そう思った時、筋トレもしてシャワーも浴び目が冴えていると思っていた俺の頭もまだ寝ていたことに気づいた。
「チッ」
自分自身の馬鹿さ加減に思わず舌打ちをする。なんですぐに気づかなかったんだろうか。
「おい、二ノ宮はどこにいるんだよ?」
「……いない」
教師が四家から俺に視線を移し答えた。
「いないって言うのは……どっちの意味だ?」
死んだからいないのか、ここから抜け出したからいないのか。
「逃げ出したんだ。入り口の鍵を開けてな」
「入り口ね」
この宿泊棟の鍵は内側からも外側からも開閉には鍵が必要な作りになっていたはずだ。
「鍵はあんたが持っているもの以外に存在するのか?」
「食料品を運ぶ用に裏方のコスモス情報局に俺のとは別にもう一本渡されている。けれどそれはさっき確認した。二ノ宮が持っていない事は間違いないな」
その話を聞き俺は昨日一日の二ノ宮の様子を思い出した。
なるほどな。
「つまりこれは衝動的殺人じゃなく、計画されていた物だって事か」
快楽殺人の会の殺人鬼にしては頭が回るな。
親父の言った通りだな。この候補者選びに呼ばれたやつは一癖も二癖もある。
俺だって油断すれば足元をすくわれるってな。
すくえるもんならすくってみろよ。




