十大組織長会談 死屍柴ヒルイ推参7
「はい。狩谷でございます」
『ワシじゃ』
おお、電話口から低くて渋い声が聞こえるね。
初めて声を聞いたのか、ずっとパズルを続けていた門脇ちゃんなんか手を止めてぷるぷると震わしているね。
まあ、それも仕方ないか。いくら衰えたとは言え、一騎当千を超える男、生きる伝説死屍柴ヒルイちゃんだもん、一言一言に乗るプレッシャーが尋常じゃないからねー。
「いかがしましたか?」
『……』
狩谷ちゃんが聞くと、ヒルイちゃんは押し黙った。間が伸びるに連れて、ビップルームに緊張が走ったね。
「ご主人様?」
狩谷ちゃんが聞き返すと、ヒルイちゃんがポツリと呟き、ビップルームに衝撃が走った。
『番号何番じゃったっけ?』
「……ご主人様……死屍柴です」
『死屍柴って、ここには数字しかないぞう』
「ご主人様! 4448です!」
『ああ、そうじゃった。っと、おっ開いたのう』
子供のように喜んだ声が聞こえると、ピッツーツーと電話が切れたね。
アハハハハ。やっぱりヒルイちゃんは面白いなー。
「……ご主人様が今お見えになりますので、皆様少々お待ちください」
「やっとですか。時間は有限だというのに、ジョン・ドゥさんからヒルイさんまでどれだけ僕の時間を無駄に消費される気なんですかね」
呆けたかのようなヒルイちゃんの電話でプレッシャーを感じなくなったのか、門脇ちゃんは震えの止まった手でピースをはめ込みだす。
「おっ、おい。それ以上は言わないほうが良いぞ。それ以上言ったら、狩谷さんに半殺しにされるだろうし、ヒルイさんに言ったら、お前の有限の時間が終焉の時を向かえっぞ」鏡ちゃんが声を潜め言った。
「ふっ、何を……」
冗談を言われたと思ったのか、門脇ちゃんは真剣な眼差しの鏡ちゃんを見て、嘘偽りない本音だと分かったようで、目を見開いた。そして、慌てて狩谷ちゃんに視線を移す。
狩谷ちゃんは笑みを浮かべながらも、内ポケットに手を入れていた。あー、後数秒鏡ちゃんが止めるの遅かったら、きっとナイフを取り出して、首筋に当て、言った事を訂正させていただろうね。
「……冗談ですよ……」
唾を呑み込み門脇ちゃんが答えると、狩谷ちゃんがすっと手をポケットから出し温和な笑みを投げかけてきた。
「左様でございますか」
門脇ちゃんが黙り、組織長は各々葉巻を吸うや、カップを傾けるなどしてヒルイちゃんの到着を待っていると、門脇ちゃんを除き、申し合わしていたかのように、一斉に扉に視線を移した。
おっ、ヒルイちゃんが来たようだねー。
扉の外からは殺気でも狂気でも邪気でもない気配がびんびんと伝わってきた。
これは、ヒルイちゃんだからこそ出来る芸当だよねー。
扉の外からは圧倒的な存在感が漂ってきていた。
ガチャッ。
金のドアノブが回った。
来たようだね。僕らが緊張や苦笑いや笑みを浮かべながらドアノブを見ていると、ガチャガチャッとドアノブが再度回った。
あっ、これは……鍵掛かっているなー。
狩谷ちゃんが、「はぁー」っとため息を漏らし、扉に近づいて行くと、豪奢な飾り付をけされた扉がドガァンッと音を立て、吹き飛んできた。
「くっ」
狩谷ちゃんは咄嗟に体勢を下げ、飛んでくる扉を避けた。
「ご主人様! ノックをしたら開ける手はずになっていると言いましたよね!」
「おお、そうじゃったのう。悪いのう」
珍しく声を荒げた狩谷ちゃんに、ヒルイちゃんは扉を蹴破った姿勢で心の篭っていない謝罪の言葉を述べた。
「待たせたのう。仲間達」
ゆっくりと足を下ろすと、快活な笑みを向けてきた。
ヒルイちゃんは七十五歳の後期高齢者だというのに、筋骨隆々の逞しい体つきをしていて、背も百八十五センチはあるので、実年齢よりもはるかに若く見えた。
まあ、それでも六十代後半くらいには見えるんだけどねー。
深く刻まれた皴と、銀色に近い白髪が長い年月を生きてきたと物語っているね。
ヒルイちゃんは長い髪を掻き揚げると軽快な足取りで唯一開いた上座の席に腰を下ろし、足を組んだ。
喪服のように黒いスーツ姿で足を組むヒルイちゃんはマフィアのドンのように威圧感満載だったね。
「待たせたのう」
笑みをゆっくりと消していくと、幾千幾百の人を殺して死屍累々を積み上げてきた傑物、死屍柴ヒルイの目に変えた。




