十大組織長会談 死屍柴ヒルイ推参5
僕が飲むのを諦めて手を引っ込めると、橘ちゃんがササカワちゃんの顔を曇らさせていた。
「シスター、あんたの人を見る目だけは私も買ってるんだよ。私や一神の才能にいち早く気づいたんだからね。だけどな……あんたは人を育てる才能はないんだよ。だから山百合からはあの程度の人材しか出せないんだよ」
「あの程度ですって?」
シスターが僕のように紅茶に伸ばした手を止めた。
「ああ」
クスッと笑う。
「私の使っていた鎌を使っているというのに、実践から離れた十字に苦戦し、高々殺人鬼風情に殺される。シスター。あなたは自分の立場を少しは理解したほうがいいんじゃないかい?」
「……どういう事ですか?」
「分からないのか? 山百合はあくまでも黒百合に送れる才あるものを育てるのが役割であり……」
そこで視線を鏡ちゃんに移した。鏡ちゃんはまた体をビクッと揺らした。
「マーダエージェンシーは山百合に人材を送る事と、山百合に入らなかった人材を黒百合に送るのが役目だ。お前達はその事をちゃんと理解すべきだな」
「……はい」
橘ちゃんの後輩である鏡ちゃんは納得したかのように返事をしたけれど、ササカワちゃんは納得していないかのように、笑みを浮かべつつも、目を冷たく光らせた。
けれど、それはほんの一瞬のことだった。一瞬。橘ちゃんが一言呟くまでの間だった。
「分からないなら……潰すぞ」
「……ッ! 失礼しました」
そう答えたササカワちゃんの瞳は酷くうろたえていた。
そりゃそうか。同じ十大組織長とはいえ、橘ちゃんともめて生き残れるようなものは僕以外に誰もいないだろうからねー。
五大組織が作られた当時、裏世界には他の追随を許さない四人がいたんだよねー。
一人は言うまでもなくヒルイちゃんだね。一騎当千と言う言葉では表せないほどの圧倒的な戦闘力を持っていて、四人の中でも群を抜いた存在だったみたいだよー。
そして残りの三人は竜胆組組長の竜胆虎四郎に、赤きガーベラの初代組合長の殺し屋アンラッキーに、我らが快楽殺人の会彼岸花の先々代会長の三代目殺人鬼ジョン・ドゥだよ。
三人はヒルイちゃんには及ばないけれど、唯一近い力を持っていたから、その三組織は他の裏世界の組織を抑えることが出来たんだよね。そして、その三組織の補助をする組織として、裏世界の司法をつかさどる逆桜と、武器補充調達を行う紅花商会が五大組織に呼ばれたんだ。
けれど、今はもう竜胆ちゃんは衰え、アンラッキーちゃんは片手と両足を失い戦えない。唯一ヒルイちゃんに比類すると言えるのは、先々代を殺した先代を十一年前に殺した僕くらいだからねー。
そして今ではヒルイちゃんも引退を表明した。
四人の傑物はみんないなくなっちゃったね。
いいや、もしかしたら四人がいなくなったのはもっと前のことかもしれないね。そう、十年前のあの日がすべての契機だったんだね。
西の精鋭二十人とヒルイちゃんが三日三晩殺しあったあの日がね。
ヒルイちゃんの力があれば、いくら凄腕の裏世界の住人と言えども、三日は長すぎるんだよね。きっと全盛期の力があれば半日も掛からず皆殺しに出来たんだろうな。ヒルイちゃんは十年前には衰えていたんだね。
竜胆ちゃんは殺し屋達の掃討に励んだけれど、以前の竜胆ちゃんだったら、百や二百の殺し屋だったら一人で切り伏せていたんだろうな。今でも一級品の腕は持っているようだけれど、水仙連合会に押されているのを考えると、依然とは比べ物にならないくらい落ちているんだろうね。
そしてアンラッキーちゃん。彼も十年前には衰えていたんだね。力も勘も。アンラッキーちゃんは竜胆ちゃんとは違い、自分に匹敵する後継者を育て上げていたから、戦場から離れちゃっていたんだよね。だから黒百合の幹部に負けちゃった。そして、後継者も失っちゃった。
もし茜ちゃんがあの時死んでいなければ、今のような十大組織ではなく、五大組織のままだったかもしれないのにね。
十年前のあの日にこの裏世界は終っていたのかもねー。
全ては新たな死屍柴ヒルイに比類する者の出現によってね。




