十大組織長会談 死屍柴ヒルイ推参
「キャッホー。遅刻だ遅刻―。副会長飛ばすんだー」
「ジョン大変だ。ベンちゃんのエンジンがこれ以上回らないぞ!」
「なんだってー」
僕は両手を上げて驚いた。僕の愛車のベントレーちゃんの調子が悪いなんて。まだ作られて九十年しか経っていないって言うのになんてこった。
「いや、信じるんだ。この子はルマン二十四時間レースで優勝した車だよー。きっと秘めた力を見せてくるはずさ」
「そうだった。行くぞー。ベンちゃん見せてやれ、ジャックザリッパ―先生の生まれた国で作られた君の力を!」
副会長のジェイコブちゃんがベントレーちゃんのアクセルを踏み込んだ。
「行けー!」
ブヲォンと、ベントレーちゃんが唸ると、速度をぐんぐん上げていった!
「速いぞー速いぞー! よしあいつを抜くんだ! 負けるなー」
僕は必死に応援したが、ベントレーちゃんは前を走る蕎麦の出前のスクーターを抜くことは出来なかった。
「ジョン。ダメだった。俺ではこいつの性能を引き出せないようだ」
「そんな事ない。ジェイコブちゃんもベントレーちゃんも頑張ったよー。あの運転手さんが凄腕なんだよー」
僕は四十キロほどで前を走る運転手さんを指差した。
「ジョン……君にそう言ってもらえると助かるよ」
副会長のジェイコブちゃんはハンドルから手を離し、ライオンのマスクの目元に手をやった。
そんなジェイコブの姿を見て、僕もウサギのマスクの目を覆う。
それから二十分以上かけ、僕とジェイコブちゃんは三十キロで失踪するクラシックカーであるベントレーちゃんに揺られ、目的地に辿り着いた。
「いやー。いつ来てもここは立派で気が引けるねー。正装しないといけないから肩が凝っちゃうよ」
タキシードの肩をもみながら話していると、ベントレーちゃんは超高級ホテルの表口を通過し、裏口を目指した。
表口は表世界のビップ達の入り口であり、僕らのような日陰者は裏口から入るんだよー。裏口に辿り着くと、そこには狩谷ちゃんが立っていた。
「ヤッホー。遅くなってごめんねー。朝から色々慌ただしくて、少し遅刻しちゃったよー」
「左様ですか」
狩谷ちゃんは笑みを崩さずに僕らにお辞儀をした。
さすがはヒルイちゃんの従者だ。待ち合わせの時刻から一時間は経ったというのに、一切怒らないなんてね。
「それじゃあ僕は狩谷ちゃんと一緒に部屋に向うから、ジェイコブちゃんは車を止めてから来てねー」
「ああ、任せろ。きっとこいつを無事に届けて俺も駆けつけるぜ!」
あいつ言葉を拳を握り締めて言うジェイコブちゃんに狩谷さんは一瞬だけ苦笑いを見せた。
「それではお先に失礼します。ジョン・ドゥ様行きましょうか」
僕は狩谷ちゃんに案内され裏口を潜った。そこには大きなエレベーターがあった。狩谷ちゃんは慣れた手つきでキーを押し、エレベーターを動かした。
ちなみに番号は4448だ。
さすがはヒルイちゃんの従者だー。この番号はジェイコブちゃんも知っているので、僕は安心してエレベーターに揺られた。
エレベーターはゆっくりと三十階を目指し昇っていく。
「ねえ狩谷ちゃん、皆は揃っているのー?」
「はい。組織長様にその護衛の皆様、そして候補者の方々もいらっしゃています」
「おー。ちなみに欠席者はいる?」
「いいえ。組織長様は本日は二代目死屍柴ヒルイが誕生しますので、代理者ではなく本人に来ていただいています」
狩谷ちゃんはそう言うと、チラリと僕の顔を見てきた。
「が、お電話で申し上げたとおり……彼岸花の代表者である、阿乱須美子様が宿泊棟のほうから姿を消しましたので、お見えになっていません」
「そっかー。須美子ちゃん気分屋だから逃げ出しちゃったのかなー」
「ジョン・ドゥ様。ご主人様は盛り上がったからよしとしようと仰いましたが、少し戯れが過ぎる気がします。管理者としてもっと配慮していただかないと困りますね」
エレベーターの表示を眺めながらも狩谷ちゃんは殺気を僕に向けてきた。




