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死屍柴ヒルイの後継者  作者: 也麻田麻也
第二回戦 第三試合
63/153

第二回戦 五朗丸対零7

 勝敗を決したのは互いのリーチの差だった。

 百八十センチ程度の零と百九十四センチの俺ではかなりの差があった。


 先に到達したのは俺の拳だ。零の顎から下を吹き飛ばすような威力の拳が先に顔を捉えた。


 勝った。


 俺は勝利を確信したが、零は足を踏ん張り吹き飛ばされずに耐えると、拳を振り抜き体が流れた俺のわき腹に、右拳を捻り込むように打ち込んできた。


「うぐっ」

 息が洩れ、胃の中にある朝食が喉までせり上がって来やがった。痛いや重いよりも零の拳は硬かった。

 それは、常人の二倍の密度を持つ俺の腹筋を容易く突き破る一撃だった。


 今すぐ膝を着きたかったが、零の攻撃が続きそれを許してはくれなかった。よろめく俺の顎に掌底を打ち込み、顎を跳ね上げさせ、硬く握り締めた拳を俺の鳩尾に深く突き刺した。


「があぁっ!」

 涎を撒き散らし、俺は地面に顔から落ち、腹と首を押さえ呻き続けた。


 痛み以上に呼吸ができない辛さがあった。こんな経験は生まれて初めてだ。

 ああ、これが……敗北か。


 高一の時のナイフに脅された時とは違い、全力を尽くした上、実力で負かされた敗北。


 悔しいが……悪くない。


 耳にトントントンと、零の足音が聞こえてくる。


 ああ、そうか。俺がやっているのは死屍柴ヒルイの後継者を決める戦いだった。勝負は相手を殺すか、ギブアップさせるかでしか終らない。十字も九門も死んで終わりだったな。そして俺もここで終わりだ。


 心残りが無いといったら嘘になる。俺より強い化け物がいることは分かったが、もう一つの夢は叶えてないからな。

 もう一つの夢、それは馬鹿みたいだけど……ダチを作ること。 


 あぁあ、ダチが欲しかったな。


 そう思った俺の背中に衝撃が走った。


 そして俺は……「がはぁっがはぁっ」っと、むせた。


「なあっ! なんだ今の……」

 てっきりナイフを突き立てられると思っていた俺は混乱した。背中に痛みは走ったが、それは刺すような痛みではなく、叩くような痛みだったらだ。


「呼吸を楽にさせるために背中に張り手入れたんだよ。少しは楽になっただろ?」


「……確かに。……って、はぁ? 意味わかんねえよ?」

 なんでこいつが俺を助けてんだよ? 俺は敵だろうが。


「意味わかんねえって、お前はどんだけ馬鹿なんだよ。別にこれは相手を殺すだけじゃなく、ギブアップさせても勝ちだろうが。ルールくらい覚えておけよ」

 零はイラ付いたようにボサボサの髪を掻き毟った。


「そんくらいは覚えてんよ。なんで殺さなくて、ギブアップさせようとしてるんだよ!」


「あぁん? さっき言っただろうが、お前は化け物なんかじゃなくてただの人だって教えてやるってよ。覚えてねえのかよ、馬鹿が」


 そう言うと、零は疲れたかのように俺の隣に腰を下ろした。


「だから、そのくらいは覚えてんだよ! 俺が聞きたいのは、お前が俺に勝ったんだから、俺が教えられたって事になるだろうが」


「俺はお前に肉弾戦で勝ったけどな、こんなの勝ったうちに入らねえよ」


 勝ったうちに入らねえって、俺は倒れて、零は口の端から多少血を流しているくらいだ。誰がどう見たって勝敗は明らかだ。

「お前の圧勝じゃねえかよ」


「辛勝だよ」

 少しだけ眼光を緩めていった。


「どこがだよ」


「五朗丸がそのままハンマーを使っていれば少しは危ない場面もあっただろうし、身体能力自体はお前のほうが一回り俺より上だよ」


「どこがだよ」

 俺は同じ台詞を言った。


「昨日から思っていたんだけどよ。五朗丸、お前戦い方習ったことねえだろ」


「ああ」

 三叉のスコーピオンにも多少は武術の経験者はいたが、俺に教えるようなやつはいなかった。だから俺はこの一年間身体能力と反射神経だけで戦ってきていた。けれど、それで十分だった。実力の半分も出さなくても勝てるような雑魚しかいなかったからな。


「やっぱりな。俺の顔をお前の拳が捉えたよな?」


「クロスカウンターの時か?」

 俺の腕と零の腕が交叉した時の事だ。


「あの時俺は顔を回して威力は逃がしたんだよ。大振りだったから反応もしやすかったかし、上半身と下半身の動きがバラバラで威力も分散していたから、そんなダメージにはならなかったな。けど、額で受けた蹴りはやばかった。俺がお前の膝が伸びきるタイミングでぶつけなければ、首の骨が逝っていただろうな」

 零は前髪を掻き揚げると、額を見せてきた。俺のけりを打ち返したせいで、額は紫色にうっ血していた。

「お前は身体能力はすげえよ。俺の知っている裏世界の住人の中でも三本の指に入るくらいにはな。けれど、それだけだ。実力で考えれば三本の指どころか、十指にも入れねよ」


「マジかよ。俺より強いのが十人もいるのかよ」


「十人どころじゃねえよ。まあ、俺の中では十番以上二十番以内って所だな」


「裏の世界ってすげえな」


「今のお前となら百回やれば九十回は勝てるけど、戦い方を習えば、素手でやり合って勝てるかどうかは五分五分だろうな」


「武器ありだったら?」


「お前がどれだけ強くなろうが、千回やって千回俺が勝つよ」

 答えながら、零はタバコをまた取り出し、百円ライターで火をつける。すると、一仕事終ったかのようにうまそうに煙を吐き出した。

「……お前も吸うか?」


 タバコを勧められたが、俺は手を左右に振る。

「いらねえ。そもそも俺は未成年だぞ。進めるんじゃねえよ」


 俺がそう答えると、零は今日一番眼光を鋭くした。思わず体がビクッと震える。

「お前年下かよ! 少しは敬語使えよ!」


「一歳二歳先に生まれたからっていばんじゃねえよ」


「上下関係嘗めてるんじゃねえぞ」

 そう言うとまた髪を掻きむしる。

「まあ、友人間での敬語とか面倒くせえし、よしとするか」


 零は眼光を緩めて諦めたかのように少しだけ笑った。

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