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死屍柴ヒルイの後継者  作者: 也麻田麻也
第二回戦 第三試合
62/153

第二回戦 五朗丸対零6

「……ッ!」

 当たりだった。中一からずっと一人だった。だから俺は求めていたんだ俺のような化け物を。俺と一緒にいてくれる、人じゃない怪物を。

「そうだよ! こんな化け物みてえな力持っていたら、誰も俺の周りには寄ってこねえんだよ! 俺の周りにいるやつは門脇のような俺の力を利用しようとするやつか、俺の力を侮って近づいて死んでいくやつだけなんだよ! だから俺は自分の力を見せ付けているんだ! このハンマーだって手錠を丸めたのだってな!」


「お前の場合、猫のような毛を逆立たせる威嚇じゃなく、ヤマアラシだったんだな。針を立てて近づいて死なないようにしていた。けれどそのせいで自分の周りには誰もいなくなった。ヤマアラシのジレンマに似ているな」


「誰だって近寄ってきたやつが死ぬのは嫌だろうが! 誰だって近寄ってきた奴が……怯えて去っていくのは嫌だろうが!」

 

 何も知らずに、生まれた時から一人だったなら俺はこんなに苦しまなかった。

 化け物として生を受け、化け物として暮らしていたんだったらこんなに悲しまなかったんだ。

 けれど、俺は小六までは普通の人で、周りに友達が沢山いたんだ。だから友達の温かさを知っている。


 誰もいない今は凍えるほど寒いんだよ。


 凍死しそうなんだよ、心がよ。


「俺は……俺を化け物と思わないダチが欲しいんだよ! 俺に怯えて逃げねえダチが!」

 俺の夢、それは友達が欲しい。誰もが当たり前に作る友達が、化け物には喉から手が出るほど欲しいものだった。


「話はそれで終わりか?」

 訪ねると俺の答えを待たずに、首をパキパキと鳴らしだした。

「さてと、俺にしてはずいぶん時間を食ったようだし……そろそろ終らせるか」


「やるのか?」

 零の野郎の鋭い眼光に一度は怯んだ俺だったが、考えてみれば、ダメージの量でははるかに零の野郎のほうが上だ。そして数度殴りあったが、拳の威力も間違いなく俺のほうが上だった。こいつくらいの技量があればそれが分からねえわけねえだろうに、なぜこんなにも自信満々で言ってこれるんだ?

「俺に勝てると思ってるのか?」


「ああ。ハンマーでも素手でもいいから掛かって来いよ。お前が……化け物なんかじゃなく、ただの人だって事を教えてやるよ」


「俺が……ただの人?」


「ああ。ちょっと力が強いだけの、ただの人だろ。別にビビルほどのもんでも無いだろうが。さっさとぶっ飛ばしてやるから、全力で殺しに来いよ。凡人」


 なんだこいつは? なんでこいつは……俺の言って欲しい事を全部言ってくれるんだ?


 俺は潤んだ瞳を手の甲でごしごしと擦る。


「へっ。死んでも知らねえぞ!」


「馬鹿が。実力の違いを考えろよ」


 俺は零のように首を右左と傾け骨を鳴らし、歯を見せ笑った。

 行ってやるよ。行ってやるから……俺をぶっ飛ばしてくれよ!

「うらああぁ!」叫び零に向かい右の拳を放つ。


 零はかわすのではなく、腕を交差して俺の拳を受け止めた。さっきのパンチとは違い、今度のパンチは一切の力加減をしていない、全力の拳だ。高一のときに先輩を殴り殺したときと同じような。


「っ痛! いってえな!」


 痛いと言いながらも零は受けきり、俺の腹に前蹴りを返してくる。内臓にまで響くような重い一撃を。


 こいつ本当に強いじゃねえか。俺はまた歯を見せ笑ってしまったが、すぐさま反撃に移った。


「前蹴りはこうやるんだよ!」

 俺は同じ前蹴りを、零の腹に打ち返す。


 すると、零はよたよたと腹を押さえ数歩下がったので、俺は小学生の頃毎日のようにやったサッカーの得意シュート、ジャンピングボレーを、体を屈めた零の顔面目掛け繰り出す。

「死ねや!」


 言葉とは裏腹に、俺は零が耐え切ってくれると信じていた。人を蹴り殺した技だけど、こいつならきっと受けきってくれると。


 きっとこいつは……俺よりも強いはずだから。


 ああ、そうか。だから俺はあいつの目にビビッたんだ。俺が零に感じた恐怖。それは生まれてはじめて出会った……俺より強い人間への警戒を促す動物的本能が生み出したものだったんだ。


 零は鋭い目を全開まで見開き、俺の脚を見据えた。そして腰を落とし、歯を食い縛りながら首を後ろに下げ、反動をつけ額を一気に突き出した。

 それはまるでサッカーのヘディングのようだった。


 俺の足の甲と零の額がぶつかり合う。すると耳に、ピシッと言う骨に皹の入る音が聞こえた。


 どっちだ? 


 どっちが負けたんだ? 


 威力に押されたのか、零がフラフラと後ろに交代していき、額を手で押さえた。俺が勝ったのか? そう思いながら、足を地面につけた瞬間、つま先から脳天まで行き渡るような痛みが走った。


 痛い? 


 ああ、そうか。罅が入ったのは俺の足のほうか。


 痛い。久しぶりの激痛だけれど、動けないような痛みではねえ。

「固い頭だな!」

 痛む足に鞭を打ち、俺は距離を詰めると拳を振り上げた。


「はっ。頭が固いのは親父譲りだよ!」

 額から手を離し零も拳を振り上げる。


 右拳と左拳がクロスする。互いに体重の乗った渾身の一撃だ。

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