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死屍柴ヒルイの後継者  作者: 也麻田麻也
第二回戦 第三試合
61/153

第二回戦 五朗丸対零5

 喧嘩に明け暮れる生活が半年ほど続いた日、俺の評判を耳にした門脇がやって来た。


 餓鬼みたいな容姿に、Yシャツにネクタイをつけた見るからに真面目ような服装で、血だらけで倒れる暴走族に気遣うようすも見せずに、踏みつけながらまっすぐと進んできた。


 そして門脇は俺に言った。

『もっと楽しい世界に行きませんか?』


 その頃の門脇は、半グレと呼ばれる暴力団の末端の仕事を手伝う、ギャングと暴力団の中間のような不良達を集め組織し、一大勢力を気づきあげていたが、そのせいで裏世界に目を付けられ、潰される寸前だったらしい。

 だからずっと自分の作り上げた三叉のスコーピオンを守り、更に裏世界に打って出るための駒を欲していた。俺はそんな門脇のお眼鏡にかなった一人だった。


 裏の世界の話を聞き、最初は度肝を抜かれた。

 殺しが許され、強さがすべての世界があるなんか言われても普通は信じねえだろ? 

 そんなのは漫画の世界の話だって思うだろ? 

 俺もそう思っていた。門脇の命を狙う殺し屋に出会うまでは。


 門脇を殺しに来たやつは、今考えて見ると、はした金で動くようなちんけな殺し屋だった。けれど、その殺し屋の襲撃を受け、幹部会と言う名目で集められた十人の半グレどもは、俺と門脇を除いて全員殺された。首を切られ、胸を突き刺され、頭をカチ割られてほんの三十秒と言う短い時間でだ。俺は恐怖しながらも、淡い期待を抱けた。


 怖いけれど……この裏の世界には……俺みたいなやつがいるんじゃないかと。俺みたいな化け物が。


 そしてその殺し屋が俺が裏の世界の住人で殺した最初の一人になった。


 門脇は国立大学の一年生で、俺の二つ年上の男だった。勉強以上に頭が恐ろしくキレ、戦闘を俺と数人の腕利きの半グレ出身の幹部に任せ、智謀策略のみで三叉のスコーピオンを十大組織の末席に上り詰めさせた。


 しかし門脇はそれで終える気は微塵もないようで、菖蒲組と結託して、この裏世界を牛耳る策略まで練っているほどだった。


 俺は門脇に聞いた、どうして菖蒲組なんだと? 落ち目の竜胆組系の一組織と手を組むよりは、十大組織最大派閥の黒百合、山百合、マーダエージェンシー三組織の、黒百合派閥と手を組むべきなんじゃないかと。

 けれど、そんな俺の質問に門脇は、俺なら一週間かけても解けそうに無い知恵の輪を簡単に解きながら答えた。

『菖蒲組は捨て駒です。まず、菖蒲組を黒百合にぶつけ、ダメージを負わせます。そして菖蒲組をそそのかしたのは、黒百合を潰そうと考え手を組んだ山百合とマーダエージェンシーだと、噂を流布するつもりです。そうすれば黒百合に山百合もマーダエージェンシーも潰してもらえますからね。生き残った黒百合も大打撃で、菖蒲組の敵を打つために動き出した竜胆組に敗れるという結末になるでしょうね。そうすれば残りは彼岸花、水仙会、赤きガーベラ、ボロボロの竜胆組、逆桜、紅花商会にうちだけになりますね。後は組織が潰され生き残った黒百合、山百合の殺し屋をうちが拾い上げ、多少金をちらつかせてあげれば、残った十大組織を潰すのは容易いことでしょうね』と。


 きっと門脇ならやり遂げるだろうな。


 こいつにとってこれはゲームなんだろう。手駒を揃えて、敵を衰弱させて、この裏世界の覇権を握るというゲーム。正直俺はこいつの持ち駒扱いされるのは気に入らなかったが、自分自身の夢を叶えるために、持ち駒であり続けていた。


 俺の求めたもの……夢は……。


「じゃあ、なんなんだよ?」

 虐められっ子じゃないのならなんなのか零の野郎は聞いてきた。


「……」

 俺は拳を握り締め口を硬く閉ざした。自分の口からは言えなかった。言いたくなかったから。きっと言えば零の野郎は……いや、誰だって笑うんだろうな。馬鹿な願い、馬鹿な夢だってよ。


「お前はさ、教室でいきなり、いきがった事を言ったよな。俺なら猛獣用の鎖でも引き千切るってな。けどさ、そんなお前がなぜ教室で大人しくアイマスクを付けていたんだ? なんでルールを守っていたんだ? お前は戦い方こそぶっ飛んでいるが、いたって常識人だろ」

 そこまで言うと、またタバコを咥え、火をつけた。煙が教室を漂った。

「そんなお前が教室で俺達を挑発した。その意味を考えれば、自ずとお前の性格が分かるんだよ。お前にとって挑発は威嚇であり、自分を強く見せる手段なんだよな。その武器も威嚇の一種だろ? 俺の斧も柄が鉄で出来ているから重いが、五朗丸の武器は異常だ。四、五キロの普通の戦鎚でも十分人を殴り殺せる威力はあるからな。お前の馬鹿力に耐えられるように柄を作り変えても、二十キロも無いくらいで作れるんじゃねえか?」


「……」

 言葉が無かった。ほとんどが当たりであったからだ。紅花商会に俺の力にあったハンマーを作って貰うように依頼した時、二十キロ以上の重量は必要ないと言われた。二十キロでも壊せないものはないし、人を何百人も殴殺できると。けれど、俺は門脇に頼み大金を積んでもらいこのハンマーを作ってもらった。


「ふー」

 と、煙を吐き出し俺の心の中を読み取ろうとするような鋭い視線を送ってくる。

「お前は何がしたいんだ?」


「俺は……出会いたかったんだ」


 ポツリと呟くと、零の野郎は口からタバコを離し聞いてきた。

「何にだ?」


 出会いたかった。そう俺は未だに求めているんだ。

「俺よりも強い化け物にだ」


 零は俺の目を見つめた。嘘をついていないかを確かめるように。


「……どうやら俺が間違っていたみたいだな。お前はいじめられっ子じゃなくて、一人ぼっちだったのか」

 タバコで俺を挿しながら言ってきた。


 先端から昇る煙のように俺の心も揺れた。

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