第二回戦 五朗丸対零3
「……勝手なこと言ってるんじゃねえよ!」
俺は立ち上がり、ハンマーを振るった。零の野郎はもう武器を持っていないって言うのに、また一歩前に進み、鎚頭から逃れると、柄を掴みハンマーを受け止めた。
「嘘だろ!」
「馬鹿が。両手ならともかく、片手で振ったハンマーなんか怖くねえよ」
そう言うと、零の野郎は拳を振りかぶり、俺の顔面にフック気味のパンチをぶちかました。
「がっ!」
鼻に痛みが走った。顔面を殴られて痛いなんて思ったのは生まれて初めてのことだ。俺はまた後ろに飛びそうになったが、足を踏ん張り耐える。
「なんなんだよお前は!」
「俺か? 俺は……正直者だよ。分かったか嘘つき野郎」
「俺は……嘘なんかついてねえよ!」
俺は右の拳を零の腹にぶち込んだ。内臓も食い破るような一撃を。だが、零の腹を殴った俺の拳には分厚いタイヤを叩いたような感触が伝わってきた。
「がはっ!」
零の野郎は息を漏らすが、直ぐに俺を睨みつけてきた。
「なあ……拳がビビッてんぞ?」
なんだよこいつは。俺は零の野郎が恐ろしい化け物のように感じ、思わずハンマーを手放し、壁際まで後退する。
「お前はなんなんだよ!」
「俺か? 俺は死屍柴ヒルイの……いや、これ以上言うのはやめておくわ」
そう言うと零の野郎は重さ四十キロのハンマーを片手で投げ捨て、ブレザーのうちポケットに手を突っ込んだ。
あの中には確か……ナイフを隠していたはずだ。俺はナイフが投擲されると思い身構えると、四角い箱……マルボロのメンソールのタバコを取り出した。
「……吸うか?」
「……はぁっ?」
ナイフだと思っていた俺は呆気に取られた。なぜこいつはタバコなんか取り出したんだ? いや、タバコを取り出したのは吸うためだろうが、俺が気になったのは、なぜ戦っている最中にタバコを吸うかだ。
そんな俺にはお構いなしに、零はタバコを加えると、火をつけ肺に煙を送った。
「何してんだよ?」
「何ってタバコ吸ってるだけだよ」
煙を吐き出し零の野郎は言うと、天井を見つめ、ポツリと呟いた。
「十字の送り火代わりだよ」
「十字の? なんで手前がそんなことすんだよ」
俺は意味が分からず聞いた。
「別に俺がやる必要はねえけど、誰かが悲しんでやらねえと可哀想だろ?」
また煙を吐き出すと、零はタバコを床に落とし、足で踏み消した。
「俺は十字の後ろにいたから分かるんだよ。あいつが八王寺のこと気にして、ちらちら振り返っていたことにな」
「あぁん? それがどうしたって言うんだよ。あいつらには何か因縁があったから様子を伺っていても可笑しくはねえだろ?」
八王寺と十字が恨みあっていることなんてクラスの誰もが知っているだろうが。
「違うな。八王寺に嘘をついている様子はないから、八王寺は恨んでいるんだろうが、十字は違う。あいつの目には恨みも怒りもなかった。あったのは好意だけだ。詳しい事は分かんねえけど、十字は八王寺のために……この候補者争いに参加して、死んでいったんだよ」
そう言うと零は少しの間を置いた。
「……馬鹿が」
「……なんでそんなことが分かるんだよ」
「表情と態度だよ。十字は一番初めに見せた表情と次に見せた表情に差があったから、嘘をついている事が分かったんだよ。それに作られた顔に合った態度を取ったと考えれば、十字の感情は多少は分かる。八王寺のことが好きだったんだろうな」
こいつの目はどうなってるんだ?
なんでそんな見透かしたように分かるって言うんだ。もし……こいつの言っていることが本当ならば、俺の事も見透かしているって言うのか?
「おっ……俺の事も何か分かるって言うのか?」
どうしても聞きたく、俺は質問をした。
「五朗丸、お前……虐められっこだろ?」
見透かすような目を送りながら答えた。
「……ッ! 違う! 俺は、俺は虐められてなんかない!」
零の言った事は間違いだった。
そう俺は虐められたりなんかしていない。
俺は……。




