第二回戦 五朗丸対零2
俺はまた歯を見せ笑い、ハンマーを両手で握った。
すると、零の野郎の眉がピクッと揺れた。あいつも少しはやる気になったようだな。
「楽しもうぜ!」
俺は零に飛び掛りハンマーを振り下ろした。一瞬防御しようと斧を動かそうとしたが、防御は無理だと気づいたんだろう、直ぐに右に飛びのきかわした。
片手のハンマーなら人を爆発させたように殺せるが、両手持ちのハンマーの威力はそんなもんじゃねえ。一撃でベンツを鉄くずに変える威力を持っている。今度はかわして正解だよ!
ハンマーが床に落ちると、鉄板をひしゃげさせ、衝撃で教室を揺らした。揺れが収まらないうちに、俺は零の野郎に向け、二発三発と追撃を食らわす。
それを零の野郎は紙一重でかわした。両手持ちに替え上がったのは威力だけじゃねえ、スピードもだ。怪物と呼ばれた俺が使っているんだ、もう常人が捉えることが出来るような速度じゃなかったと言うのに、零はしっかりと軌道を目で追いかわしやがった。おもしれえ!
「おいおいおい! 避けてばっかじゃ積まんねえよ! 受け止めろよ! 反撃して来いよ!」
「……お前ムカつくな」
零は答えると、野球のバッティングのように振るったハンマーを両手で握り締めた斧で受け止めた。今度は柄ではなく鎚頭をだ。
一回目の衝突の時とは段違いなガァンと言う、まるで車同士が衝突したときのような音を奏でた。「グッ!」と、零の野郎は声を漏らし、俺のハンマーの一撃を受け……きれずに、壁まで吹き飛ばされた。
零の野郎は背中から教室の壁に叩きつけられ、床に倒れた。
「……マジで受けるって馬鹿かお前?」
俺のハンマーを受け止めようとしたやつなんて始めてだ。そしてこいつが最初で最後だろう。馬鹿が、かわして反撃をして来てくれれば……もう少しは楽しめたって言うのによ。
おれと互角のやつがいるんじゃねえかと思って、期待したって言うのに、こんなあっけなく死ぬんじゃねえよ。
俺は「チッ」と、舌打ちをし、教室を後にするために扉に向うと……「待てよ」と、呼び止められた。
嘘だろ?
思わず笑みを零し声の方を振り向くと、ゆっくりと零の野郎が立ち上がるところだった。
「……お前最高だよ」
「うるせえよ。ああ、っつたく、どんな馬鹿力してるんだよ。親父に崖から落とされた時と同じくらい痛てえよ」
眩暈がするのか、立ち上がるとボサボサの頭を振った。
「ったく、斧がへし折れてるじゃねえか。直すのにいくらかかんだよ」
零の野郎の握った斧はくの字に折れ曲がっていた。あれで俺のハンマーの威力を受け止めたって事か。けれど、普通は出来るもんじゃねえだろ。相当な力がねえと出来ねえ芸当だろうな。
俺はまた歯を見せにやっと笑った。門脇、感謝するぜ。こんな面白い世界に案内してくれてよ。
「何笑ってんだよ?」
「ああん? 笑うに決ってんだろ。生まれて初めて全力を出して喧嘩できる相手を見つけたんだからよ」
「……チッ!」
零の野郎は舌打ちすると、目つきの悪い目を更に鋭くし、俺を睨みつけてくる。
「俺は手前みてえな野郎は大嫌いなんだよ」
「はぁ? お前は戦っていて楽しくねえのか?」
「……それ本気で言ってるのか?」
零の野郎は視線を更に鋭くすると、瞳に殺気を込めてきやがった。
俺は思わずぶるっと体を震わせる。嘘だろ? 俺がビビッているっていうのか?
「俺は大嫌いなんだよ。お前や十字みたいなやつがよ」
「……俺や……十字だと?」
なぜ俺と十字を同列に置いて考えているんだ? まだ二ノ宮だったら分かる。俺のように戦うのが楽しくてしょうがないといった感じのあいつなら。それなのに、なぜこいつは十字の名前を挙げたんだ?
俺はハンマーを床に下ろし、戦う体勢から話を聞く体勢に変える。
「どういう事だよ?」
「自分で分かんないのか? お前も十字も……自分を偽っているからだよ」
ドクンと心臓が強く拍動する。
「……ッ! 俺が何を偽っているって言うんだよ! 適当なこと言ってるんじゃねえよ!」
「適当?」
零はポツリと呟くと、折れ曲がった斧を投げ捨て、眼光を鋭くしながら無造作に俺に近づいてくると、見上げながらも俺を睨みつけ、胸倉を掴む。
「おい。誰も聞いてねえのに……自分を偽ってるんじゃねえよ!」
素手で近づいてくると言うのに、酷く動揺した俺はハンマーを振り回すどころか、胸ぐらを捕まれるまでなんの反応もする事が出来なかった。
「ッ! 偽ってね――」
慌て掴んでいる腕を振り払い、野郎の言葉を否定しようとしたその時、俺の顔に零の拳がめり込んだ!
俺は殴られた衝撃で後ろに吹き飛び尻餅を付く。
零の野郎はそんな俺を見下ろす。
「イライラするんだよ。言いたいことも言わない野郎を見るとな」




