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死屍柴ヒルイの後継者  作者: 也麻田麻也
第二回戦 第二試合
56/153

第二回戦 八王寺対十字9

「……」

 僕の負けは決った。こうなってはもうお姉ちゃんには勝てないだろう。けれど……。

「まだだよ。まだ、僕は負けないよ。痛っ! お姉ちゃんだってその腕じゃ、もう戦えないでしょう? ギブアップしなよ。あはっ」


 お姉ちゃんはきっと僕に勝つだろう。


 三年前よりもずっとずっと強くなった。


 僕への復讐と言う足枷のお陰で。けれど、僕に勝利する引き換えとして、腕にダメージを負った。それに足にも皹が入っているだろう。こんな状態で黒百合の彼と当たってしまえば、勝てるはずがなかった。だから僕はギブアップを進めた。


「……昔のようにお姉ちゃんと呼ぶのは命乞いのつもりか、私を動揺させるつもりなんですか?」

 鎌を床に下ろし、杖のように体を預け聞いてくる。


「違うよ。僕は……」

 本当の事を話したかった。話して、一緒にこの候補者争いから抜け出し、また姉妹のように暮らしたかった。


 けれど……僕は意識が遠のくような足の痛みに耐え体を起こす。まだ、お姉ちゃんの足には枷があるように見えた。足枷は自分にとってのトラウマであり、恐怖の象徴であり、重石である。

 僕の足にあるように、死んだママの足にも……パパの足にもあった。


 僕はママの死体と暮らし、パパにママを殺されたトラウマから足枷を作った。


 ママはパパの仕事を知り、その恐怖から足枷を作った。


 そしてパパ……パパはママを殺し、僕を監禁してしまったという後悔から足枷を作り出した。


 じゃあ、お姉ちゃんの足枷は? それは僕にプライドを粉々に破壊された悔しさから生まれた足枷だ。


「お姉ちゃん……足が重くない?」


「その呼び方を止めてください……それにこんな足の怪我大したことありませんよ」


「そうじゃないよ。僕が今からその枷を取ってあげるから……死なないでね」


 僕はお姉ちゃんの枷を取り、一神と戦わずに辞退してくれと言うつもりで言ったが、お姉ちゃんは挑発されたと感じたのか、目に殺意を宿した。ああ、僕はまた届ける言葉を間違ってしまったな。


 片足で起き上がり、僕は残った足で軽く飛ぶ。着地のたびに切断された足から血が飛び散り意識が遠のくが、唇を血が出るほど強く噛み締め、必死に耐え言葉を投げかける。

「僕を倒した後はどうするの?」


「どうするといいますと?」


「三回戦の相手は一神君か、五朗丸君か零君の勝者のどちらかだよ。その足と腕で勝てるとは思えないよ」


「……それは分かっています。けれど、私は元から死屍柴ヒルイの後継者になる気はありません。山百合の強さを誇示できればその時点で辞退する気でしたからね」

 そう答えると僕に妖艶な微笑を送った。

「それに、ここに来てから目標が変りましたの。今の私の目標は……山百合の死神として桔梗さんを死亡退学させることにね」


「あはっ」

 僕は笑った。嬉しくて嬉しくて嬉しすぎて、涙を流しながら。

「出来るものならやってみなよ」

 僕が死ねばお姉ちゃんの錘を取ってあげることが出来る。

 僕が死んでもお姉ちゃんが辞退するから命が助かる。


 良かった。


 本当に良かった。


 僕は片足で前に飛び出し、お姉ちゃんの前で前宙をし、回転踵落しを繰り出す。さっきと同じ攻撃で、更にただまっすぐ突っ込んだだけの攻撃だ。きっとお姉ちゃんは捌いてくれるだろう。僕の罪も裁いてくれるだろう。


 笑みを浮かべながら攻撃を繰り出すと、お姉ちゃんが鎌を振るった。今度は太腿に鋭い痛みが走った。切断されたんだろう。けれど不思議と僕の耳には切断した音ではなく、ガチャッっと言う鎖の音がした。


 空中で切断された左足に視線を送ると、千切られた足枷が落ちているのが見えた。


 ああ、僕の足枷が取れた。


 良かった。


 足も失い着地も出来なかった僕は、床に倒れた。するとばちゃっと言う水溜りの上に飛び降りたような音がした。

 この音は……この感触は……血かな。


 壊れた蛇口のように僕の足から血が噴出していた。


 ずっずっと、足を引きずる音が耳に届いた。


 この音はお姉ちゃんの足音かな? 足が痛いのかな? それともまだ足枷がされているの? 大丈夫だよ……もう外せるから。


「……桔梗さん。あなたを死亡退学させます。何か言い残す事はありますか?」


 お姉ちゃんが鎌を掲げているが、薄れる僕の視界にははっきりとは映らなかった。けど、その声にはどこか清々しさを感じた。


 きっとお姉ちゃんの足枷は外れたんだ。良かった。お姉ちゃんも……僕もこれで自由になれるね。


「あはっ。さようなら……お姉ちゃん」

 今度は涙を堪えながら作った笑顔ではなく、心の底から自然と笑うことが出来た。


 ブォンと風きり音が僕の耳に届いた。

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