第二回戦 八王寺対十字8
「知っていますわ。後ろをとって攻撃すれば、桔梗さんの勝ちですよ」
誘うように笑ってくる。いいよ。乗ってあげるよ。
そして……僕が勝たせてもらう!
右に飛び出し、壁を駆け僕はお姉ちゃんを飛び越え後ろに回り込む。するとお姉ちゃんは僕を追おうと向き直りながら、鎌を片手持ちに腕を突き出し指先だけで回し続けた。鎌の刃が高速で回りながら僕に迫ってきた。
「……ッ!」
速い! 間合いに少しでも入り込めば刃が届いてくる!
僕は半身の体勢になり回転カッターの刃のように回る鎌を避け、迫り来る二撃目を躱べく間合いを取るように後ろに飛ぶ。
しかし鎌の速度は予想よりも速く、かわしきれずに僕のツインテールの一本を切り落としていった。髪が乱れ、閉じた左目の上に切りそろえられた髪が掛かる。左でよかった。右だったら戦いに影響をきたしていたな。
「……速いし……鋭いね」
ああ、お姉ちゃんは本当に強くなった。今の僕と互角の強さを持っている。
もしかしたら僕よりも強いかもしれない。
さすがはお姉ちゃんだ。
僕の憧れた……僕の最愛のお姉ちゃんだ。
だけど……この技が長く使えないことも分かった。特に片手で突き出したとき、お姉ちゃんは歯を強く食い縛っていた。腕に負担が掛かる技なんだろう。
「それ……もう使わないほうがいいよ。筋肉が切れるよ」
「確かにこの技は一分しか持続できませんが……次で決めるつもりなので大丈夫ですよ」
お姉ちゃんはまた鎌をゆっくりと、今度は左右に8の字を書くように動かしながら回しだした。これは槍術の技法だったはず。それを巨大な刃のついた鎌でやるなんて、さすがだね。
そしてこの動きの意図は左右からの攻撃を牽制し、前か後ろから攻めさせることなんだろうな。
どう対処しようか。思いつく方法は二つあった。
一つはこのブーツを脱いで戦う方法。片足五キロの足枷を外せば、僕は今までよりも若干ではあるが速く動け、高く飛べる。
しかしそれは防御手段も攻撃手段も失うことになるからなしだね。それに、このブーツは僕の戒めなんだ。パパに囚われ足枷をされた僕が……もう家族を失わないように……壊さないように取り付けた重しなんだ。だから死ぬその時まで脱ぐ気はないね。
もう一つは……おねえちゃんも予想していない場所からの攻撃。こういう狭い空間でしかできない技だが、何度か試したことのある攻撃だ。上手くいけばお姉ちゃんの意識を奪うことも出来るはずだ。
その代わり失敗すれば片足、下手すれば命を失うことになるかもしれない。けれど、お姉ちゃんが彼と戦って負ける事を考えれば……片足くらい惜しくはない。
「八王寺ちゃん。次の攻撃で僕も決めるよ」
僕はじりじりと後ろに下がりだした。
「……あなたの性格だと向ってくるのかと思いましたよ」
答えながらもお姉ちゃんはすり足で距離を詰めてくる。
「そうかな? 僕は意外と反撃主体なんだよ」
じりじりと下がり壁まで残り二メートルを切った瞬間、僕は背を向け駆け出し、壁を蹴りあがる。
そして天井と言う足場を蹴りつけ、一回転しながらお姉ちゃんの頭……の横である肩目掛け踵落しを繰り出す。
上からの攻撃を人間は意識していない。人は戦う時に平面での戦闘を想定してしまうものだから、この攻撃をかわすのは至難の技だろうね。
肩の骨を砕き、鎌を持てなくさせてギブアップさせる。
天井を蹴る速度と回転を加えた踵落しは威力も絶大であり、尚且つ圧倒的に早かった。けれど蹴りを放った僕にお姉ちゃんは微笑を浮かべた。一瞬の出来事だった。反応できるような速度ではなかったはずなのに、お姉ちゃんは左右で回していた鎌を流れるような動きで頭上に持っていった。ヘリのプロペラのように頭上で回る鎌の刃に僕は足を突っ込んだ。
鉄製のブーツの足首に衝撃が走ったと思った瞬間、僕は弾き飛ばされた。お姉ちゃんのような受け身も取れずに、床に叩きつけられながら転がると……三年間常に重かった足が軽くなったように感じた。
足が軽い?
そして次の瞬間激しい痛みが僕を襲って来た。
「ああああああアアアァッ!」
右の足首から先がなかった。
足は僕の前に落ちていた。切断された足が。鉄のブーツは死神の鎌に切断された。
「ハァハァハァハァ」
息お切らしながら、右手で左腕を押さえたお姉ちゃんが話しかけてきた。
「さあ、ハァ、足を失いましたよ。ハァ、これでもまだ羽ばたけますか?」




