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死屍柴ヒルイの後継者  作者: 也麻田麻也
第二回戦 第二試合
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第二回戦 八王寺対十字4

 パパは毎日僕の面倒を見てくれた。おまるを洗ってくれたし、食事一日三食用意してくれた。もちろん鎖の長さの範囲内なら、部屋を自由に移動させてくれた。

 ハエが飛び回るという理由で、ママの死体も庭に埋めてくれたし、お風呂にも入れてくれた。

 

 足枷は外してくれなかったが、首輪を外しパパと一緒に入った。ママを殺し、僕を監禁しているというのに、パパは以前のままの優しいパパだった。


 それが僕にはたまらなく怖かった。


 そんな生活が二年経ち、僕がこの監禁生活に慣れ、出張に行くパパの背中に手を振り見送った日、僕の人生は変った。


 三日間の出張だったので、パパは三日分の食料を、僕の監禁用に購入した小さな冷蔵庫に入れ家を出た。


 三日目の晩、珍しくパパの帰りが遅かった。十二時を回っても帰ってこず、僕は心配しながらもソファで寝た。

 しかし、次の日も、その次の日もパパは帰ってこなかった。冷蔵庫の中の食料は食べつくし、水も後僅かになっていたが、その日もパパは帰ってこなかった。


 そして、パパが出張に行って一週間経ち、僕は事態を理解した。


 パパはもう返ってこないんだと。


 丸二日、水も取っていない僕は喉の渇きを通り越し、めまいと幻覚のような症状が現れだした。

 二年前に庭に埋めたはずのママの死体が目の前に見え出した。


 そしてママが僕になんと言っていたのかも思い出した。


 当たり前のように二年間繋がれ、普通に生活していたせいで忘れていたが……僕は逃げなければならないんだ。


「――」

 逃げなきゃと僕は枯れた喉で叫び、必死に鎖を外そうとした。柱に巻きついている鎖を目に付いたもので殴り破壊しようとしたが、やせ細った十歳児の力では、壊せなかった。


 何とか壊せないのかと、ぼやける視界の中硬そうなものを探し、そして見つけた。

 それは足枷の錘だった。鉄球のような引きずるのもやっとな錘を僕は必死に持ち上げ、鎖に叩きつけ、二年間僕を半径十メートルの世界に留めさせた呪縛を解き放った。


 やった。これで逃げられる。僕はそう思い、まだ辛うじて残っていた水分で作り出した涙を流すと、そこで力尽きた。


 鎖を断ち切ることに全ての力を使った僕にはもう立っている力がなくなった。


 それでも、何とか逃げようと、這ってでも進もうとしたが、その時の僕には足枷を引きずる力も残っていなかった。

 僕の動きを封じるために付けられた足枷は、僕の死の運命から逃れさせなくするための足枷でも合った。


 ああ、だめだ、僕は死ぬんだ。そして僕は意識を失った。このまま二度と起きることもないだろう、そう思っていた僕の耳に、『お譲ちゃん!』と、叫ぶ声が聞こえた。


 誰?

 パパ? 

 でもパパなら、僕をお嬢ちゃんなんて呼ぶはずない。桔梗ちゃんって呼ぶはずだ。


 そう思い目を開けると、そこには引越屋さんの格好をしたおじさん達がいた。それはパパの仕事道具を処分しに来た掃除屋の人だった。パパが仕事中に殉職したので、家の片付けに来たようだ。


 僕はその人達に助けられ、パパの上司だという鋭い視線をした金髪の女性に案内され、山百合学園に連れてこられた。


 そこで僕は八王寺ちゃん……いや、菫ちゃんに出会った。


 小学五年生にしては背が高く大人っぽい顔つきの菫ちゃんは僕に裏の世界の事を教え、行きぬく力を授けてくれた。

 僕は死にたくなかったから必死に勉強し、菫ちゃんについていくための努力を行った。


 元々殺しの才能があったのか、僕はメキメキト力を付けていき、山百合学園小等部でも上位の腕を持つようになった。


 そんな僕を菫ちゃんは褒めてくれた。


 まるで家族のように優しく褒め、頭を撫でてくれた。

 いつしか僕にとって菫ちゃんは目標であり、憧れであり、姉のような存在に変わっていった。


 僕は姉の真似をする妹のように菫ちゃんの戦い方を学び、真似をし、菫ちゃんの髪型を真似し、髪を伸ばし、一緒にいれる時間を増やすために、同じ本を読み、感想を言い合った。


 僕にとってその時間は本当に幸せだった。早くにママを殺され、パパも失った僕にとって、菫ちゃんは最愛の姉で、絶対に失いたくない存在になっていた。


 だから僕は菫ちゃんをお姉ちゃんと呼んだ。すると菫ちゃんは嬉しそうに微笑んでくれた。


 その微笑を見て、僕は絶対に菫ちゃんだけは失いたくないと思った。

 けれど、事件は起こった。それは中等部一年の冬のことだった。僕の力が、菫ちゃんを超えてしまったんだ。

 何の前触れもなく、菫ちゃんの戦い方を真似していたら、僕はそれを凌駕してしまっていた。ナイフで戦い合う僕らは技量は互角でも、脚力の差が出てしまったんだ。


 二年間足枷をされていた僕の脚力は、成長していくごとに人の基準から大幅に外れ始めていた。


 僕は焦った。


 このままでは僕は菫ちゃんを越えてしまう。

 菫ちゃんの真似をし、菫ちゃんの最も側に居たかったというのに、居られなくなってしまう。


 僕はそう考え……わざと手を抜くようになった。これでいいんだ。側にいるためにはこれしかないんだ。


 しかし、中等部二年の時にまた事件が起きた。

 それは菫ちゃんに黒薔薇のスカウトが来た事だった。


 その頃には菫ちゃんは中等部には敵なしで、高等部にも相手が出来るものが数人いるかどうかと言うほどの腕前になっていた。


 それでも……僕よりは格段に弱いけれど。


 僕は黒百合のスカウトが来ると知り、菫ちゃんに聞いた。


 お父さんのように僕のもとからいなくなっちゃうのかどうかを。

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