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死屍柴ヒルイの後継者  作者: 也麻田麻也
第二回戦 第二試合
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第二回戦 八王寺対十字3

「……ふざけないでよ。たかが片目を塞いだだけで、僕に勝てると思っているの?」

 左目をきつく閉じ、僕は立ち上がり、跳びながらリズムを刻む。痛みはするが、動けないようなダメージではない。勝機はまだまだある。

「八王子ちゃん、キメ台詞を言ったところ悪いけれど、ここからは僕も全力で殺しに行かせて貰うよ」


「出来るものならやって御覧なさい。返り討ちにし、十……いえ、桔梗さん、あなたを死亡退学させてあげるわ」

 そう言うと鎌を振り下ろした。


 僕は後ろに飛び、バックステップで壁際まで下がり距離を取る。そんな僕を八王寺ちゃんは見つめるだけで、追撃を仕掛けては来なかった。やっぱりね。どうりで僕を挑発してきたわけだ。

「どうして襲い掛かってこないのかな? それとも襲い掛かって来れないのかな? あはっ」


「何のことでしょうか?」

 顔色一つ変えずに、微笑を浮かべたまま言ってくるが……どうやら図星のようだな。


 鉄のブーツで足を蹴られたんだ。骨折はしていなくても、皹くらい入っていなければ可笑しいよね。

「そんな怪我をした足で僕を殺れると思っているの? ギブアップでもすれば?」


 僕は無理やり襲い掛かってくるように八王寺ちゃんを挑発した。足を引きずる彼女と片目を抑える僕では、若干だが僕のほうが有利だろう。また組み伏せてやる。


 しかし、挑発したのは間違いだった。そのせいで、彼女の口からはあの言葉が出た。彼女も知らない、僕にとってトラウマと言ってもいい言葉を。


「こんな怪我、私にとって何の足枷にもなりませんよ」


 僕の中で何かが弾けた。


 痛い痛い痛い。


 頭が割れるように痛い。


 頭に浮かんだ遺体。


「っ痛!」


 トラウマが、恐怖がフラッシュバックした。

 

 僕が最初に口にした言葉は『ボク』だった。パパが最初に喋ってもらいたい言葉が『パパ』だったから、『僕がパパだよ。パパって言ってごらんと』と、毎日話しかけていたから、僕は『ボク』と、最初に口にしたようだ。

 それから大きくなっていって、色んな言葉を話せるようになっても、一人称は僕のまま変らなかった。パパは私と言わせたかったみたいだけど、ママは可愛いからこのままでいいじゃないと言ってくれた。


 僕の家はどこにでもある普通の家庭だった。小さな一軒家で暮らす裕福でも貧しくもない家庭。優しいママと優しいパパのいる家庭。悪い所があるとするば、パパが僕に優しすぎるから、ママが少し厳しくなった事。あと、パパの仕事には出張が多い事くらいだった。


 けれど、僕が小学校三年生になって一月たった頃、僕の家に不幸が訪れた。


 サラリーマンだと言っていたパパの嘘にママが気づいたあの日、僕の家は壊れた。

 どうやって気づいたかも、どうして気づいたかも分からないけれど、ママは気づいたんだ。気づいて僕を連れてパパから逃げようとして……殺された。


『桔梗ちゃん逃げて!』と叫ぶと、台所にあった包丁を額に突き立てられ死んだんだ。優しくて、ちょっと厳しかったママの最後の言葉は『かっ――』だった。


 ママを殺した時のパパが怖く恐ろしく、僕は逃げ出そうとした。家を飛び出し、どこでもいいから逃げよう。そう思い僕は駆け出した。


 けれど、パパはそんな僕を捕まえ抱きしめた。『どこにも行かせないよ。桔梗はずっとパパと一緒だよ』そう言い、パパは僕を家の柱に縛り付けた。


 僕は毎月背を測っていた柱にロープでぐるぐる巻きにされた。そして、パパは僕にごめんといい家を出た。

 僕はその間ずっとずっと泣いた。怖くて仕方がなかったから。動かないママを前に喉が枯れるほど泣き続けていると、パパは大きな袋を携えて帰ってきた。


 その袋の中身は首輪と鎖と足枷だった。


 僕の首に首輪を取り付け、背を測った柱に鎖の端を巻きつけ、残った端を首輪に取り付けた。そして、念のためにといい、ボーリングの玉のような錘のついた足枷を僕の足に取り付けた。これがトイレだよと言われ、子供の時のおまるを置かれ、僕の監禁生活は始まった。


 最初の一月は、僕は暴れた。怖くて怖くて仕方がなく、目に付くものを窓に投げつけ、助けを呼んだ。腐って蛆が沸いているママの隣で。けれど、助けは来なかった。後になって分かった話しだけど、僕の家の窓は防弾使用で、遮音性も高く、音が届かなかったようだ。そしてパパは、ママが僕を連れて実家に帰ったと近所の人に言い、僕が出歩かなくてもバレないようにしていた。


 助けを求める声も日に日に出なくなっていった。


 きっと一生助けは来ないんじゃないか? 僕はそう思うようになっていた。


 嫌だ。そんなのは嫌だ。

 心に残された僅かな助かりたいという気持ちを搾り出し、助けを求めるために鏡を手に取り、窓に投げようとした、その時……映し出された自分の顔に言葉を失った。


 鏡の中の僕の目は、命を失い朽ち果てていくママのように生気がなかった。


 絶望し、目が死んでいた。


 僕は生きながらにして死んだんだ。


 その日から僕は抵抗する事を止めた。

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