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死屍柴ヒルイの後継者  作者: 也麻田麻也
プロローグ
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十大組織長会談4

 狩谷は土門が戻るのを確認し、進行に戻った。


「それでは次は序列八位、『裏世界スカウト会社 マーダエージェンシー』社長、鏡谷将星様」


「ウィっす」

 ホスト風の男、鏡谷は前髪を弄りながら立ち上がる。

「血判って、やっぱ指切らないとダメっすかね? 俺印鑑持ち歩いているんすけど」


「……はい。これは規則ですので……」


 軽い態度に狩谷が押されていると、鏡谷は、「へーい」と、返事をした。署名すると、置かれたナイフを手馴れた感じでくるくる回しながら、指先を躊躇する事無く切り裂いた。


「よっと。皆さんよくやるっすねっと」

 言葉とは裏腹に、鏡谷は痛がる様子を見せなかった。年齢も若く、へらへらしてはいるが、裏の世界で生き抜いた男。ナイフ捌きからも鏡谷の技量の高さがにじみ出ていた。


「さてと、うちは皆さんに人材を紹介する会社っすけど……手元に置いておいた、最高の商品があるんすよね。特にそいつを見たら幾つかの組織の兵隊は戦慄して棄権すると思うっすよ。うちの優勝は磐石っす」


 胸のポケットに挿したスカーフを取り出し、指先に当てながら戻ってくると、他の長に生意気言ってすいませんでしたと謝った。


「次は序列九位、『武器輸入調達製造会社 株式会社紅花商会』社長、佐藤伊一郎様」


 葉巻を灰皿に押し付け消すと、どたどたと足音を立てながらテーブルに向う。その容貌は武器の製造する会社の社長と言うよりは、マフィアのドンと言った感じだった。佐藤は署名し、ナイフに手を伸ばす。


「おっ、狩谷さんこれってうちのペーパーナイフか? 使い心地はどうだ?」


「はい。紅花商会にオーダーメイドで作っていただいたペーパーナイフです。もう、二十年は使わせていただいていますが、ペーパーナイフとは思えないほどの切れ味を今も誇っております」


 サングラスをずらし、豪奢なシャンデリアの灯りにナイフを照らし眺める。


「……大事に使っているようだが、三日……いや二日前に使った後に、ちゃんと磨いてねえな。これが終ったらうちに持ってきな。あと二十年は切れ味が落ちないように磨いてやるよ」


「左様でございますか。それは助かります」


「あと、ついでにヒルイの旦那も連れて来いよ」

 腕をぽんぽんと叩き、歯を見せ笑う。前歯二本が金歯だった。

「義手を作ってやっからよ。あの爺さんのことだ、引退しても暴れないって訳じゃねえだろ」


「ご主人様にもお伝えしておきますね」


 佐藤は指先を切り押印する。


「やっぱり切れ味は本調子じゃねえな」

 切った指先をまじまじ見るとくるりと振り返る。


「お前さんらも武器の手入れは怠るんじゃねえぞ。武器って言うのは、人を切れば鈍るもんだ。それに油で微妙に重さも変化する。達人になればなるほどその違いが腕を狂わす。けどな、うちの職人どもは常に手入れに気を使うから、武器の劣化はねえ。そして今回推薦するのは、職人であり、達人であるやつだ。武器と一体になった人間の怖さをみせてやるよ」

 言い終えると、また歯を見せ笑い、葉巻を取り出しマッチで火をつける。室内に煙を蔓延させながらソファに戻る。

「どっこいしょっと」

「……それでは最後。十大組織に加入されたばかりの、序列十位、『半グレ集団 三叉のスコ―ピオン』リーダー、門脇狂一郎様」


「……はい」

 返事をすると、門脇はルービックキューブをものすごい勢いで動かし立ち上がり、ポイッとソファに投げ捨てる。鏡谷が何気なくそれに手を伸ばすと、六面が完成されていた。

「それ欲しいですか? もう目を瞑っても楽々完成させられるんで、あげますよ」


 門脇は署名をすると、指先に小さな傷を作る。


「……ッ! 全くこんな野蛮なやり方をするなんて、これだから裏の世界は嫌いなんだよね……」

 呟くとソファに戻る。


「……門脇さまは何か意気込みとかはないのですか?」

 親指をくわえ血を止めようとする門脇に狩谷は聞いた。


「……狩谷さんは最初に意気込みを言えなんて言ってないですよね? それなのに皆さんがぐだぐだ言い出した。それを僕にも求めるなんてナンセンスです」


「大変失礼いたしました」


「いいえ、謝らなくて結構です。そうですね。僕達はこの中では新米ですので、皆さんもうちの事をあまり知らないでしょうし、警告もしておいたほうがよさそうですね」


「……警告? おいおい、国立の現役大学生だってのに、計算も出来ねえのかよ。お前らハングレ共は数と無鉄砲さで粋がっているだけだろうが。俺達のようなマジもんのプロと殺り合えるとでも思ってんのか?」

 鏡谷がガンを飛ばしながら言ってくる。


「思いませんよ。うちの人間で、プロと一対一でやりあえる人間は数人だけですからね。けれど……裏の世界のプロの人間は、どれだけ強くなろうが人間。うちの切り札は人間をはるかに超越した化け物です。人間程度が勝てるはずないんですよ。申し訳ないですが、死屍柴ヒルイの後継者はやる前から決っているんですよ」

 門脇は眼鏡を血の付いた指差しで押し上げ、不適に笑った。


「……ありがとうございます。それでは最後に私も押印させていただきます」

 狩谷は内ポケットから一本切れすぎるペーパーナイフを取り出し、指先を切り押印した。

「これで十一名の署名が押印が完了いたしました。こちらはご主人様にお渡しし、保管させていただきます。それでは皆様、本日の集まりは以上でございます。明日それぞれお伺いさせていただきますので、代表者様選出のほうよろしくお願いいたします。それでは……皆様の組織の繁栄と、裏世界の平穏をお祈りいたします」


 狩谷は深々と頭を下げると、豪奢な飾り付をけされた扉の前に立ち、金で出来たドアノブを下げる。


 外には各々の組織の護衛が廊下に立ち並び、長の帰りを待っていた。


 狩谷は十大組織長が全員帰るのを見送り、自身の長である死屍柴ヒルイに電話を掛けた。


『儂じゃ』


 コール音が鳴る前にヒルイが出た。


「ご主人様、全員の血判を頂きました。詳しい説明は明日、各組織を伺った際にしますが、これで開催は決定いたしました」


『ご苦労じゃったの。これで誰の反論も受けずに、あいつに死屍柴ヒルイの名前を授けることが出来るな』


「そうですね。それじゃあ私は今から審判を頼む、『コスモス情報調査局』の護衛班のところに行ってきます」


『ああ。頼む。計画通り進みそうか?』


「お任せください」

 狩谷が頭を下げると、電話が切れた。


「……ふう。さてここからが……本番ですね」

 十大組織長の相手をしたために肩に重みを感じたので、揉み解しながらポケットからタバコを取り出し、一本火をつけ、深く紫煙を吸い込む。


「ふぅ……」

煙を天井に向かい吐き出す。

「私も年を取りましたね。たったこれっぽっちで疲れを感じるとは」

 ゆっくりとタバコを燃焼させ、灰と煙を作り続ける。根元まで吸い終えると、灰皿で火を揉み消した。


「さてと行きますか。まずはコスモス情報調査局に行きまして……次は予選の準備ですかね……」


 裏世界の楔であり、防壁である男死屍柴ヒルイの引退まであと僅か。

 長年の主人の引退を悲しみながら、狩谷は仕事に取り掛かった。

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