第二回戦 八王寺対十字
「一神そのまま戻って来てくれ」
百鬼ちゃんがマイクで話すと、モニターに映し出された一神ちゃんが部屋を出た。モニターには胸を貫かれた九門ちゃんが部屋のオブジェのように映し出されていた。
イケメンは死んでも絵になるな。あはっ。
「一神が戻って来たら、八王寺から二の札が掲げてある教室に向ってくれ」
「分かりましたわ」
八王寺ちゃんが微笑みながら答えた。もう直ぐあの顔を私が絶望に変えるのか。ごめんね八王寺ちゃん。
一神ちゃんが戻ると、八王寺ちゃんが教室を出て行った。すると百鬼ちゃんはリモコンを弄り、映し出す部屋を変えた。これが二号室だろうな。
暫くするとそこに八王寺ちゃんが映し出された。
「よし、十字向っていいぞ。あと、俺が開始と言うまでは殺りあうんじゃないぞ」
「あはっ。僕はいい子だから開始の合図はちゃんと守るよ。安心してねっ」
アイスピックを回しながら答え、僕は教室を後にした。
百鬼ちゃんそんな心配した顔をしなくてもいいよ。僕はルールを守り……八王寺ちゃんを負かしてあげるよ。恐怖のどん底に落とし、ギブアップを宣告させて、そして……。
くすっと笑い、僕は階段を上った。
階段を上りながら、僕は三年前の八王寺ちゃんの顔を思い出していた。夢と希望に満ちた顔が、絶望に染まったあの顔を。
あはっ。
ホント八王寺ちゃんは……人間は馬鹿な生き物だよね。希望を持つから絶望するんだ。はじめから絶望していれば希望なんて持たなくて済むのにね。絶望。僕は生まれてから幾度となく絶望を感じてきた。その度に希望から絶望と言う名の深い谷底に突き落とされてきた。だから僕はもう希望は持たない。希望を持っていると必ず絶望する事になるんだからね。
教室の扉を開けると、鎌を構えた八王寺ちゃんがいた。顔には微笑を浮かべているが、目には強い殺気が篭っていた。
「やあ、八王寺ちゃん。準備万端みたいだね。あはっ」
アイスピックを逆手に構え、僕は話しかける。
「ええ、準備は出来ていますよ。三年前のあの日から」
そう八王寺ちゃんが答えると、『第二回戦第二試合目開始!』と、スピーカーから百鬼ちゃんの開始の合図が流れた。
「じゃあ、殺ろうか。まあ、勝敗は目に見えているけどね」
「そうですね。十字さん……いいえ、桔梗さんが負けますね」
「やっぱり頭でも打ったのかな? 三年前にあれだけ力の差を見せ付けたのに、勝てると思っているんだ。笑っちゃうよ。あはっ」
「三年前と今では状況が違いますね。三年前の私は黒百合に憧れているただの生徒でしたが、今の私は……山百合の死神。あなたの命を刈り取る力がありますよ」
鎌をゆっくりと掲げる。
「……じゃあ、八王寺ちゃんは未だに山百合にいるんだ。僕が折角黒百合のスカウトの座を……譲ってあげたって言うのに、黒百合に入らなかったんだね」
僕は踵をかすかに浮かせ、いつでも動ける体勢を作る。
「あなたの御下がりのようなスカウトなんて……いりませんよっ!」
言い終えると同時に踏み込み鎌を振り下ろしてくる。重量のある刃先が生み出す速度は速かった。踵を浮かしていなければ、避けられなかったかもしれないな。
なるほど、僕に勝てると錯覚するくらいには実力を伸ばしているようだね。僕はつま先の力だけで後ろに飛び、刃をかわすと、着地と同時に八王寺ちゃんに飛び掛る。鉄製のブーツで額を狙い蹴りつける。すると八王寺ちゃんは瞬時にしゃがみ込みかわす。
「……少しはやるようになったね。あはっ」
僕と八王寺ちゃんは一瞬の攻防の末、立ち位置が入れ替わる結果になった。まあ、実力差が入れ替わることはないようだけどね。
「でも分かったでしょ。動きのキレは僕のほうがずっと上だって事が」
鎌を振り下ろす速度よりも僕の体捌きのほうがずっと速い。これは戦いに置いて致命的な差だね。
「そのようですね。けれど、あなたの攻撃をかわせるくらいには私も体捌きに優れているようですけどね」
事実を突きつけられても、八王寺ちゃんは動じている様子はなかった。
「かわしたんじゃなくて、かわさせてあげただけなんだけど、そんな事も分からないの?」
僕は少しむっとして、爪先立ちで軽く飛び上がるステップを取る。
「私は事実を言ったまでです。今の私は……あなたを超えている」
グリップを回し、鎌を斧に変えると、槍術を扱うように柄を短く握る。
「たぁっ!」




