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死屍柴ヒルイの後継者  作者: 也麻田麻也
第二回戦 第一試合
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第二回戦 一神対九門7

 三日前に社長室に僕は呼ばれた。

 新しい依頼が舞い込んだのかと思い部屋を訪ねると、室内だと言うのにサングラスを付けた社長の口から、この戦いに参加するように伝えられた。


「なぜ、僕なんですか?」


「年齢制限を考えれば、うちの職人で一番腕の立つはお前だからな」

 社長はそう言うと机から葉巻を取り出し、火をつけ煙を吸った。吐き出す煙に乗せ次の言葉を口から出す。

「けれど一つだけ言っておこう。やばくなったら棄権しろ」


「僕が負けると思いますか?」


「思うね」

 金歯を見せにやりと笑った。

「鍛冶の腕はうちで五本の指に入るお前は、武芸の腕ではうちで二番目だろうな。けどな、そんなお前でもこの戦いでは下のほうになると思うぞ」


「……僕が負けると? 武器の手入れもろくに出来ないような殺し屋風情にですか?」


「ああ。だからお前はやばくなったらすぐに棄権してくれよ。俺も他の組織の手前候補者を送らなければならねえからな」


「お言葉ですが、僕は未だかつて僕よりも武芸に秀で、より優れた武器を持つものを見たことがありません」


「尖っていていいね。ハァハハ」

 煙を撒き散らし笑うと、サングラスを外し、僕を見てきた。

「俺の餓鬼の頃にそっくりだよ」


 サングラスを外した理由。それは僕に左目を見せるためだろう。感情のないガラス球のような左目、義眼を。


 先代の社長が存命の頃、社長は紅花商会で二番目に腕利きの職人であり、商談の護衛を勤めるボディーガードも兼ねていた。戦力では一番だったからだ。そんな現社長は商談中に依頼主と揉め、そして目を失った。


「お前自分の作った武器を一番に扱えるのは手前だって思っているだろ?」


「はい」

 僕は即答した。どいつもこいつも腕が未熟で、いい武器を手にすれば強くなると勘違いした愚者ばかりだったからだ。


「まあ、お前は強い。それに間違いはねえ。けどな、俺達は刀鍛冶で、あっちは戦うのが本職なんだ。その差を理解しねえ限り、お前の刀はいつまでも大業物どまり、最上大業物には届かねえな」


 武芸の腕ならともかく、本業の鍛治の事を言われ、僕はムキになり聞き返した。

「それはどういう事ですか?」


「分かんねえか? お前は武芸者であり刀鍛冶なんだよ。でもな、俺や刀剣部の部長、蓮見は、刀鍛冶であり、武芸もたしなむものなんだよ」


「僕が刀鍛冶として未熟と言うことですか? お言葉ですが、僕以上の作品を作れるものはこの紅花商会にも数人しかいませんよ」


「ハァハハ。お前は本当に青いな。良いか、よく覚えておけ。戦うのが本職の野郎と、俺達刀鍛冶では武器の愛し方が違うんだよ。お前は愛用の武器と聞かれて、何を思い出す」


 自室に納めている武器を思い出す。


「……社長が大業物と仰った刀なら二本ありますし、脇差も短刀も市場に出回っているものを上回る名刀がありあます。それに先日作ったバスタードソードもクレイモアも破壊力から強度まで至上と言ってもいい出来ですから、どれかを選べと言われても困りますね」


「だからダメなんだよ。だから、お前は俺も蓮見も抜けねえんだ。刀はあくまでも人を切る兵器。俺達はそれを作る職人。愛し方が違うんだよ」


「愛し方ですか? それは僕の武器に対する愛情が薄いというんですか?」

 僕以上に武器を愛する人間がいてたまるか。僕は社長の義眼を見つめ言った。


「いいや。お前は付き合いたてのアベックみたいに作った武器を愛しているから、愛情が足りねえとは言わねえよ。俺は愛し方が違うといったんだ」

 葉巻を口から離すと、ガラス製の灰皿に押し付け火を消す。

「お前は武器を恋人のように愛するが、俺達職人はそんな風に愛しちゃいけないんだよ」


「……どういう事ですか?」


「やっぱり餓鬼だな。いいか、俺達にとって武器は腹を痛めて産んだ娘であり、依頼人は娘を嫁がせる婿なんだよ。丹精込めて育て上げた娘を手放す悲しさを感じつつも、旦那との明るい将来を祈りながら俺達は依頼主に武器を渡す。あくまでも俺達は親としての肉親の愛を武器に持つんだ。そして武芸者は刀を女房のように恋人のように、恋愛と言う感情を武器に持ち、愛用の品になっていくんだ」


「親の情ですか。けれど、その相手が腕の鈍い依頼主ならどうですか? 社長のお言葉を借りるなら、嫁ぎ先の婿がダメな男だったら。社長の娘さんだってだめな男のところに嫁ごうとしているじゃないんですか?」


 僕の言葉を聞き社長は机に置かれた写真を抱きしめ号泣しだした。

「伊智子ぉ。なんで父さんの元から放れていこうとするんだよ。あんなバンドマンの所じゃなく、ずっと父さんの下にいてくれよぉ」


 ドレットヘアに、金歯の五十代の中年が激しく泣き出した。


 まあ、これは毎度のことであり、紅花商会の名物といっても過言ではないので放って置きましょう。

「社長だって手放すのが嫌じゃないのですか?」


「……手放すのが嫌で嫌でしょうがねえけど、それでも手放さなくちゃならねえのが親なんだよ。娘の幸せを祈ってな。まあ、もし泣かせることがあるようなら、ぶっ殺しに行くけどな」


 ……これは武器の話なんでしょうか? それとも伊智子お嬢様の話なんでしょうか?


「……とにかくな、お前はまだ武器を恋人気分で扱ってるんだよ。それが親になれば、鍛冶職人として一皮向けるだろうな。その為にお前にはこのヒルイの爺さんの後継者選びに出てもらう。そこで気づくだろうな。自分が鍛冶職人としても、武芸者としても未熟だったとな」


「鍛冶職人の話は分かりましたが、武芸者として未熟とはどういう事でしょうか?」



「ハァハハ」

 また社長は笑うと、葉巻をくわえた。

「いいか、武芸者にとって武器は嫁であり恋人なんだよ。お前は愛用の武器が十本以上もあるようだが、男なんちゃ不器用な生き物。嫁以外に愛人を作ろうとしても、一人作るのが限度なんだよ」


 キメ顔で語る社長に僕は質問をする。


「お言葉ですが社長。先月も浮気相手を部屋に呼んだところに別の浮気相手が来て、更に奥様が乗り込んだ事件があったので、社長は二人愛人がいるんでは?」


 社長の口から葉巻がぽろっと落ちる。

「……あれは……うん。男は不器用な生き物。嫁以外に愛人を作ろうとしても、二人作るのが限度なんだよ。そんな多くの女に愛情を注ぐなんて出来ねえからな」


 キメ顔で言った台詞を簡単に訂正した。


「どうだ? 俺の言っている事は分かったか?」


「……言っている意味は分かりましたが、それでも僕より武器に愛情を注ぎ……美しい芸術を作り出すことが出来る人が、はたしているでしょうか?」


 葉巻を拾いまた咥えると火を点け煙を吐く。

「世界は広い。お前もきっと俺の言ったことが分かるさ。お前がどうして武芸者にもなれず、未熟な刀鍛冶なのかがな」

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