第二回戦 一神対九門6
「ははは。仕方がない事ですよ。だって一神君……君の付けたこの傷跡が……美しいんだから」
後ろに飛ぶ僕を的確に貫いたこの傷跡は、大きなキャンパスの中心に描かれた裸婦像のように、目を奪われるほど美しかった。
僕は我慢できずにブレザーを脱ぎ捨て、シャツを切り裂き、傷口を露にする。
「……」
服を脱ぎ捨てる僕は隙だらけだというのに、一神君は追撃を仕掛けてこなかった。感情のない瞳を向け続けた。
「ほら、見てごらん。僕と言う名のキャンパスに君が筆を下ろしたんだよ。綺麗じゃないかい? ああ、もうこれで完成といってもいいほど素晴らしい絵が描かれているけれど、これだけじゃないでしょう?」
一言一言発するたびに、血が零れ落ちるが、それもまたキャンパスに新たな絵を描き美しかった。
もう僕の頭の中には、一神君と言う名の、最高の芸術品を作り上げようと言う思いは消え去っていた。今あるのは、僕が最高の芸術品になるという思いだけだった。
ああ、なんて幸せなんだ。僕自身が芸術品になり、一神君やモニター越しに見ている候補者達の脳裏に焼きつく。
「まだだよ。一神君。もっともっともっと君の腕を魅せてくれ」
消えぬ笑みを浮かべながら、僕は斬りかかった。もちろん切り刻まれるためにだが、手を抜く気は一切ない。凄腕の持ち主である僕の全力を、それを至上の腕の持ち主である一神君が上回ることで、この芸術品は出来上がるんだ。
両手突きを放つ。一神君はそれを楽々と弾くとがら空きになったわき腹を通り過ぎざまに切り裂いていく。
「あっ! くぅ!」
痛みに呻くが、僕は直ぐに傷を見る。
ああ、美しい。
どれだけの腕があればこんなにも美しい傷を付けることが出来るんだ。例えるなら厚い雲の隙間から降り注ぐ光の一本の線のように、神々しさする感じるほどの美しさだ。
ああ、この傷の美しさは、三月君を切り裂いた傷跡に匹敵するほど美しかった。人を切り裂き、その傷跡と死に行く顔を眺め美しさを感じていた僕だが、まさか最高の芸術品が……僕自身だったなんて。
傷を眺め動きの止まった僕に一神君は止めを刺しに来た。
背中に痛みが走ったと思った瞬間、僕の胸から刀の刃先が生えてきた。後ろから突き刺されたんだ……胸を。
口からガボット血が吹き出る。
ああ、さすがは一神君だ。心臓を貫いたというのに、肋骨の隙間を通すように突き刺しているので、刃には傷一つついていない。なんて美しい止めの刺し方なんだ。
ああ、そうだ。まだだ。まだ死ねないんだ。数秒でいい。時間よ残っていてくれ。
祈りながら、僕はゆっくりと剣を上げた。
社長分かりましたよ。この死屍柴ヒルイの後継者を決める戦いに出れば……僕がなぜ、未熟な刀鍛冶なのかが分かるって言った意味が。




