第二回戦 一神対九門5
開始の合図がされると、一神君は直刀の鍔を左手の親指で弾き挙げると、浮いた柄を掴み、一息で一気に引き抜いた。
その刀身は銀白に輝き、よく手入れされているのが分かった。いい刀だ。名刀と言って間違いないだろう。僕のバスタードソードとぶつかっても刃こぼれ一つしないだろうな。
ああ、残念だ。
彼の刀がもっともっと人を切り裂くところを見たかったというのに、ここで僕と当たっては……もう人を斬る所を見れそうにないな。
剣を鞘からゆっくりと引き抜く。互いに同時に鞘を床に投げる。
「いい腕だね。抜刀を見ただけで、君の技量の高さが分かるよ」
「……」
一神君は答えずに、僕を無感情な瞳で見つめた。
「君くらいの腕の人間なら、多少呼吸がばれても対処できるでしょう。少しだけ話をしないかい?」
僕は剣を片手持ちにし、剣先を一神君に向ける。
「……私は九門に話などありません」
「そうかい。僕は是非話したいね。芸術についてをね」
そう答えると、一神君は左斜め前に潜り込み、刀を切り上げてくる。速い。間違いなく、今まで作り上げてきた作品の中でも最速だった。後ろに飛びながら刀を立てその一撃を防ぐ。
「クッ! いい攻撃だね」
たった一度防いだだけで、僕の右手は痺れた。
一神君はそれに気づいたんだろう、剣を弾き飛ばすために、僕ではなく刃の中ほどを狙い、刀を薙いでくる。
いい判断だ。
これがただの片手剣なら、武器を弾き飛ばされてゲームオーバーでしょうが、僕の武器はバスタードソード。片手、両手兼用の剣だ。僕は両手で握りその攻撃を防ぐ。金属と金属がぶつかり合う音が教室に響く。受け止め僕は体重を前にかけながら一歩踏み出し、鍔迫り合いの形を作り出す。
力は互角か、やや僕が上のようだ。
「もう一度言うよ。少し話をしないかい?」
「……」
一神君は答えずに後ろに飛びながら、刀を振り下ろす。手首を狙った攻撃だ。
「ふっ!」
僕は柄を回し、直刀の刃を鍔で受ける。鍔での防御は日本刀では難しいだろうが、剣ならば行える芸当だ。しかし彼の攻撃はここで終らないだろう。受け止められれば次は突きを繰り出すだろうから、僕は先に後ろに跳び、構え直す。
「話す気がないなら、僕が勝手に話をしようか。一神君――」
話を聞く気がないようで、左から斬りかかって来る。その攻撃は鋭く、僕は話が続けられずに、攻撃を防ぐ。すると続けるように、右から左からと休む間も与えずに連撃を繰り出してきた。
「クッ!」
さすがに、いつまでも防ぎ続けられないな。機械のように正確な鋭い斬撃が左右から迫ってくる。
僕は受けながらもリズムを取り、左からの斬撃が放たれる前に右に回りこむようにステップを刻むと、刃が空振りに終る。まずは一本。腕を斬り落とそうと、バスタードソードを握る腕に力をこめ、振り下ろす。
完璧に虚を付いた。腕は貰った。
そう思ったとき、剣を握る僕の手を一神君が左手一本で掴んで止めた。リズムを掴んだと思ったが、逆だった。
僕は掴まされたんだ。
両手で攻め立てていると思っていたが、途中からは両手で持っているように見せかけ、片手は添えるだけにしていた。だから空振りしても直ぐに僕の攻撃を防ぎに来た。僕はその事実に気づき、直ぐに後ろに飛び避けようとしたが、時すでに遅し。
僕が飛ぶために重心を後ろに移すと同時に、一神君は突きを放っていた。
後ろに飛ぶ僕に直刀の刃が迫り、そして腹を貫いた。
「くっ!」
痛みと熱さ感じながら、なんとか着地する。剣を片手持ちに変え、突きを放った一神君に視線を送る。
「……やっぱり君は強いね」
「……」
止めを刺そうと一神は直刀を構え、じりじりと近寄ると、ピタッと足を止めた。
「……九門は強い。そんな九門なら、私との力量の差が分かるはずだ」
一神君の言う通りだろう。十数秒の斬りあいで力量の差が分かってしまった。僕の命を確実に奪うために、一神君は罠を張り巡らせていた。リズムだけではなく、鍔迫り合いで僕が勝っていると思わせたのもそうだろう。だから両手で、全力で振るっていると思った剣戟も片手で振るっていても気づけなかった。
元の力が僕よりも上だから出来る芸当だった。
「分かっています」
「ならば、なぜ九門は笑っている?」
笑っている? そうか僕は今笑っているのか。
この痛みと熱さに襲われてなお、僕は笑っているのか。




