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死屍柴ヒルイの後継者  作者: 也麻田麻也
第二回戦 第一試合
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第二回戦 一神対九門3

「それじゃあ、部屋を出ようか」


 もう少しあの芸術品を見ていたかったが、今日の戦いでまた別作品を見れるだろう。僕はかすかに微笑み通路に出た。すると通路には、さっきまでは起きてきていなかった四家さんが、寝巻き姿で立っていた。

 未だに半分夢の世界にいるのか、目は半開きで、こっくりこっくりと、頭を揺らしていた。


「……眠い」


「四家さん。ほら寝癖が出来ていますよ」

八王寺さんは四家さんの飛び跳ねた髪を部屋に備え付けられていた櫛でとかしていた。


「四家起きたか。寝起きで悪いが、九時から第二回戦を始める。それまでに各自朝食を取るなり、体をほぐすなりしていてくれ。朝食は教室に用意してあるからな」


 僕らはいまだ準備していない四家さんを除き、みんな教室に向った。


 席に座り僕は目を閉じ、昨日映像で見た山吹組とブルーローズの人員の死体を思い出していた。


 ああ。一日経ってもこの胸の高鳴りが治まらないな。


 誰も彼もが美しく死んでいた。


 荒々しい傷に、鋭い傷、深い傷に浅い傷。斬殺体に刺殺体に殴殺体に圧殺体。一昨日までのつまらぬ日常では考えることも出来なかった美しい死体を見ることが出来た。

 血と肉片と凶器が奏でるハーモニー。


 今日の芸術品も良かったが、あそこに凶器が置かれていれば最高でしたね。人は醜い存在だが、そこに傷と言う最高のアクセサリーをつけることにより、協会のステンドグラスに描かれた聖母マリアをも超える美しさを手にすることが出来る。


 ただしそれには条件がある。人間と言うキャンパスの前に、殺しのプロと言う名の芸術家が立ち、最上の名器といえる武器と言う名の筆を下ろされ、初めて完成される。


 腕と武器が共に優れていなければ最高の作品は作り出すことが出来ないんだ。


 少し武を齧った程度の裏世界の住人はそのことが分かっていない。逆も然りだ。腕の伴わない優れた武器では素晴らしい作品を書くことは出来ない。

 子供が生まれて初めて握った筆で絵を描こうとしても、その筆がどれだけ高価なものでも、人の心を動かすような作品を書くことができないのと一緒だ。


 そして腕がどれだけ優れていても、武器が粗悪なものではその技量を見せ付けることも出来ない。天才的な芸術家が一本百円もしないような筆で人の心を動かす名画が書けるのか?

 一見して美しい作品は書けるだろう。けれど万人の心を動かすような傑作は決して描けないものだ。繊細な運びに、キャンパスに深みを与える強さの強弱がつけられないからだ。


 そんな人間ばかり僕は出会ってきた。いくら僕が最高の作品を作り、八人の首を一振りで切り下ろす名刀を作ろうが、扱う人間の腕が素人に毛の生えた程度では、鉄の鎖にぶつかりへし折られてしまう。なんと嘆かわしいことだろうか。


 僕は紅花商会で今まで何百本もの武器を作り上げてきた。

 人を斬り、貫き、叩き潰す武器を。僕はその武器がどうなりたいのか耳を傾けながら槌で叩き鍛え上げてきた。そのためにありとあらゆる武器の扱いを覚えた。この子はどう振って欲しいのか耳を傾けるために。

 そのお陰か、僕の作り出す作品は紅花商会でも五本の指に入るほどの名品であり、最高の切れ味、破壊力、頑強さを兼ね備えていた。今では僕は刀剣部のナンバーツーになり、部下を持つ立場になっているほどだ。


 装飾を施す前には必ず試し切りをし、その強さを確かめる。

 僕がまだ駆け出しの頃は、試し切りで刃こぼれを起こしたり、へし折られることもあったが、もうかれこれ二年間は相手がどんな武器を使おうが、刃こぼれ一つ起こしてはいない。


 そう、試し切りでは。


 それが、依頼主の手に渡るとどうだろうか? 名刀は刃こぼれやひびが入り、鈍器は柄が折れ使い物にならなくなってしまった。僕は絶望した。最高の作品を作り上げる至上の筆をいくら作ろうが、腕のない画家の元に送られれば、子供の落書きのような作品しか生まれないことに。


 けれど、この候補者達はどうだ?


 六波羅君のような者はいたが、それでもみんな素晴らしい作品を作り上げてくれた。

 

 反りのない日本刀で首を撥ね落とした一神君。


 扱いにくそうな鋏のような形状のナイフで突き殺した二ノ宮さん。


 同じ日本刀を二刀流に構え戦った三月君。


 大振りのナイフを遠心力を使い、小柄な体ながら振るった四家さん。


 圧倒的な筋力で、誰も扱えないと思っていた大槌を振り回した五朗丸君。


 鎌と斧を使い分け、槍術にも秀でた八王寺さん。


 鉄製のブーツを履いてなお、羽のように軽やかに舞った十字さん。


 戦斧を片手で扱う技量と、一投で数本のダガーを投擲し、必中させる零君。


 皆が素晴らしい芸術家で、素晴らしい筆の持ち主だった。

 昨日は僕にとって、ルーブル美術館を巡った時のように、魂を揺さぶられるような芸術品を見せられ、魅せられた一日だった。そして、今日も朝から素晴らしい芸術品を見ることが出来た。僕がこのバスタードソードをどう使おうが、あれだけの傷を付けるのは不可能だろう。


 あの傷を付けたのは誰だか分からないが、きっと今日の第二回戦も勝ち上がってくれるでしょう。


 そしてまた僕の魂を揺さぶってくれ。


 僕はまた笑みを浮かべた。


 早く第二回戦よ始まってくれ。

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