第二回戦 一神対九門
激しい扉のノック音で僕は目を覚ました。もう朝なんだろうか?
カーテンの隙間からは眩しい光が射し込んできていた。僕はベッドから降り扉に向かい、のぞき窓から来客者の顔を確かめる。
百鬼先生のようだ。もう八時なんだろうかと思いながら、ドアを開ける。
「おはようございます。清々しい朝ですね」
「おはよう……清々しい朝とは言えなくなった。着替えを済ませ、武器を持って三号室の前まで来てくれ」
百鬼先生の顔には焦りの色が現れていた。まるで家族同然に可愛がっていた飼い猫が帰って来なかったときの老婆のような焦りの色が。
「詳しい話は後でする。俺は他のやつも起こさなくちゃいけないからな」
「……分かりました。なるべく早く行きます」
百鬼先生の様子から、何かあったのだと感じた僕は準備を急いだ。髪を洗い、ドライヤーで乾かし、制服を身に纏いゴルフバックを肩に下げ廊下に出ると、十字さんに出会った。
「九門君おはよ。昨日は良く眠れた?」
眠そうに目を擦りながら十字さんは聞いてくる。
「おはようございます。よく眠れはしましたが、朝の目覚めがけたたましいノックでしたので、あまりいい目覚めとはいえませんね」
「僕もそうだよ。百鬼ちゃんが起こしに来たんだけど、何があったと思う?」
そう訪ねる十字さんの顔には疑問を持つような感じは一切なかった。彼女の中ではもう答えが出ているのだろう。僕と同様の。
「闇討ちでしょうね」
「だよねー」
両手を頭の後ろで組む。
「何かしら起きるとは思っていたけど、まさか三月ちゃんが殺られるとはね」
「ええ、そうですね」
次の対戦相手を殺すならともかく、三月君が殺されるとは誰も予想していなかったでしょう。
「やっぱり、彼岸花かな?」
足元も見ずに頭の後ろで手を組んだまま十字さんは階段を降り出す。
「そうだとは言い切れませんが、可能性は高いんじゃないでしょうか?」
快楽殺人の会、彼岸花は殺しを至上の喜びとして活動する殺人鬼の集まりだ。彼らの快楽とは殺す事ではなく、殺しを楽しむことにある。
同じように感じるがブルーローズのようにばらばらにして殺す事を楽しむのではなく、強い相手と殺し合い、命を奪う事を快感と感じる集団だ。その一員が十大組織の腕利きが集まったこの場で理性を保てるはずもないでしょう。
「やっぱりそう考えるよね。それで、九門ちゃんは誰が彼岸花の推薦者だと思う? あはっ」
階段の踊り場で振り返る。十字さんの目はこの事態を楽しんでいるようにも見えた。
「さあ、誰かも予想は付きませんし、そもそも誰がどの組織の人間だとは言ってはいけないんで、僕は発言を控えさせていただきます」
「そっかー。そりゃそうだよね。でも私は誰が彼岸花で、誰が三月ちゃんを殺ったかは予想がついているよ。あはっ」
目がいっそういたずらに笑った。初めてネズミを狩った仔猫のように。
なるほど。そういうことですか。つまり……十字さんは僕が彼岸花で、さらに三月君を狩った人間だと思っているということですか。
「誰の事を言っているか分かりませんが、多分間違っていますよ」
そう答え、僕は十字さんの横を通り過ぎる。そう。犯人は僕ではないし、僕の所属は彼岸花でもない。多分彼岸花は……彼女だ。
階段を降り、湾曲した通路を進むと、先に集まった生徒が三号室の周りを取り囲んでいた。四家さんだけはまだいないようだ。
「やっぱり三月君ですか……」
「そのようですね」
僕の呟きに八王寺さんが答えた。
「誰がやったかは分からないんですか?」
「分からないようですね。ただ言えるのは、恐ろしく腕の立つ人間が行ったということくらいです」
「どういう事ですか?」
「死体を見れば分かりますわ」
「死体ですか。ちょっと失礼します」
八王寺さんと、一神君にどけてもらい、僕は室内に足を踏み入れた。
「なるほど」
腕の立つ人間がやったというのは間違いなさそうだった。三月君は両手に日本刀を握ったまま、学生服姿で死んでいた。
首と胸を斬られて殺されたんだろう。制服が裂け、おびただしい量の血が流れた跡があった。
血が固まっていることから、一、二時間以上前に殺されたんだろう。
八王寺さんが言った腕の立つ人間と言う意味は三月君の握る日本刀を見れば一目瞭然だった。両刀とも、刃には血が一切ついていなかった。つまり、殺人犯は三月君に一太刀も浴びずに殺したことになる。一回戦を一位抜けし、殺し屋スカーレットを圧倒した三月君相手に圧倒した事に。
僕はまじまじと三月君の死体を眺め思わず呟いた。
「美しい」




