十大組織長会談3
「……質問が以上のようなので、今から死屍柴ヒルイの後継者を選ぶ試練に参加する組織の方に血判を押していただきます。私が呼んだ組織の長はこちらまで来て、このナイフで指を切って押印してください」
狩谷はソファから離れ、丸テーブルの上に懐から取り出した小ぶりなナイフ十本と、血判状を置いた。
「それでは、十大組織の今現在の序列順に呼ばせていただきます。まず、序列一位、『暗殺者派遣業社 黒百合』社長、橘牡丹様」
『はい。もちろん参加させていただくよ。君江、代理押印お願いするよ』
「分かりました社長」
パソコンの中の橘に言うと、パンツスーツの女――君江はテーブルまで行き、署名し、親指をナイフで切り血判を押した。
『よろしい。君江、画面を組織長の方々に向けてもらえる?』
パソコンを向けられると、橘はまたクスッと笑った。
『うちからは新しくナンバーワンになった子を参加させてもらう。死屍柴ヒルイの名前を継ぐのは間違いなくうちの子だろうから、棄権するのを進めるよ』
「橘様。あまり情報を話さないようにお願い致します」
『おや、失礼したね。それじゃあ狩谷さん、次の無駄な挑戦をする、長を呼んであげてもらえるかい?』
挑発的な笑みを画面の中で浮かべながら言うが、不思議とどの組織の長も反論することはなかった。皆それぞれの選出する者に絶対の自信があるようだった。
「それでは次に序列二位、『快楽殺人の会 彼岸花』代表殺人鬼ジョン・ドゥ様」
「はいはーい。二代目ヒルイちゃんの候補者と言うとー。うん。いるいるー」
ウサギの耳を揺らしながらスキップしてくると、ナイフで親指に傷を付ける。
「あー。署名する前に指切っちゃった。失敗失敗」
ボイスチェンジャーで変換された声で楽しそうに言うと、流れた血でサラサラと署名し、押印した。
「オッケー。じゃあ僕も牡丹ちゃんに習って自慢タイムとしようかなー。うちの代表者ちゃんはめっちゃ楽しんで殺すから、きっとヒルイちゃんの名を継いだら……楽しそうだよねー」
本音か嘘かも分からぬ機会音でジョン・ドゥが言うと、ソファから土門が巨体を揺らしながら立ち上がった。
「ジョン! 貴様! 死屍柴ヒルイの名は楔であり防壁だ! 貴様らのような快楽殺人者が名乗る名ではない!」
「土門ちゃん怖い怖い。だったら簡単なことだよー。うちの代表者ちゃんを倒せばいいだけのことだよー。まっ、逆桜にそんな人材がいればだけどねー」
「……ふん。その通りだな。まあ、一点訂正するなら、うちにはお前等など想像もつかぬほどの腕利きがいるという点だな」
「おー。それは楽しみだねー。明後日はモニターを楽しく見れそうだね。あっ、狩谷ちゃん。ポップコーンは持参しても良い?」
「はい。過剰な武器以外は本日同様、持ち込み自由となっております」
狩谷はそのマスクでどうやって食べるのかと言う質問をすることなく答えると、次に呼ぶ人物に視線を移した。
「それでは、序列三位、『水仙連合会』会長、水仙白潤様」
「……」
水仙は無言で立ち上がると、署名押印を行い振り向き、ボソッと呟く。
「勝つのはうちだ。それ以外はありえない」
目に自信もおごりも何も見せず、ただ淡々と言った。それが事実だと一切疑った様子を見せずに。その様子に誰一人として茶々を入れる様子はなかった。
「……次は序列四位、『殺し屋ギルド 赤きガーベラ』組合長、姫宮アイリーン祥子様」
「はい」
姫宮は銀髪をなびかせ、銀眼を狩谷に向け歩いていく。
「私共も参加させていただきます。お父様から代が代わり、序列が落ちはしましたが、元一位の誇りにかけ、うちの切り札を切らせていただきます」
微笑を浮かべ言った。その微笑には必ず後継者を出すという決意と自身が現れていた。
『落ち目のガーベラさんにもそんな人材がいたとは驚きだね』
「ええ。黒百合さんの所みたいに、金と組織力で人材を集め作り出す事は出来ませんが、あなた方では決して予想もつかないような人材がいますわ」
『それは楽しみだね』
女二人は笑みを浮かべたまま言い合った。ジョン・ドゥだけは笑っていたが、他の者達は無言で二人を見つめた。
「……次に移らせていただきます。序列五位、『暗殺者育成組織 山百合学園』学園長 シスターササカワ様」
『はい。それではシスターミナミ。署名をお願い致します』
「はい。シスター」
黒のロングドレスの女は、テーブルの前まで行くと、胸元のロザリオを握り、「神のご加護がありますように。アーメン」と祈ると、署名押印した。
『ありがとうございます。シスターミナミ。うちからは山百合の最も優秀な生徒を送らせて頂きますわ。黒百合には送らなかった秘蔵っ子ですので、楽しみにしていてください』
シスターササカワは先ほど同様、目だけは一切笑ってはいない笑みを浮かべた。
『ほう。そんな人材がいたとは驚きだね。是非うちの子と当たったら棄権するように言っておいてくれ。何れはうちの優秀な兵隊になるんだからね』
二人のやり取りを、シスターミナミだけはおろおろと見守っていると、狩谷がゴホンと咳払いした。
「次に行かせていただきます。序列六位、『広域暴力団 関東竜胆組』組長、竜胆虎四郎様」
「ほう。うちはもう六位まで落ちとったのか」杖を突き立ち上がると、足を引きずりながらテーブルに向う。「ヒルイももう引退の時か。そろそろ儂も後進に譲りたいんじゃが、なかなかいい人材が育たないもんだのう」
嘆きながら署名し、押印するとそれぞれの顔を見渡す。
「参加はするが、うちの若いので勝てるかどうか、皆さんの代表者にはくれぐれもお手柔らかにと伝えといてくれ」
シスターササカワとは違い、好々爺と言った暖かな笑みを浮かべるが、全員が理解していた。このじじいは食えないなと。足を引きずり、杖をついて歩くのがやっとだというのに、その背中には一部の隙もなかった。
「次は序列七位ですね。『裏警察 逆桜』裏警察本部長、土門大二郎様」
「はい」
人一倍大きな声を出し、土門は立ち上がった。まるで警察の表彰式のような様相だった。
土門は押印を済ませると、強い決意を表した瞳を見せる。
「ヒルイ殿の後継者は逆桜の候補者が頂く。この裏世界の治安維持のためにも絶対に譲らん。特に彼岸花にはな」
「あはは。いいねー。是非うちの殺人鬼ちゃんと殺りあってもらいたいねー」
「……貴様らには負けん。裏世界のためにだけではない。表の世界のためにもな」
「……お二人とも落ち着いてください。そもそもこれはご主人様の二代目を決める戦いではありますが、どのような結末を迎えようと、認めてもらいますし、恨みあう事はしないように。そうしなければ、死屍柴ヒルイと言う楔の意味がなくなりますので」
土門はグッと拳を握り、怒りを堪える。
「……申し訳ない」