ブルーローズ掃討作戦 八王寺
「……殺りませんよ。あなたのお下がりなんか……もういりませんから」
私は十字に向かい言い、残ったピエロを見た。一体は二ノ宮さんに刺された腹を押さえているので、相手は二ノ宮さんだろう。
もう一体はナイフを振り回し二ノ宮さんを襲っているので、あれも二ノ宮さんの相手だ。
もう一体は四家さんの動きに気圧されたのか、青龍刀を構えたまま、動きを止めていた。当の四家さんは疲れたかのように両手をだらりと垂らし、楽しそうに笑いながら戦う二ノ宮さんを見ていた。
青龍刀のピエロと戦う様子はありませんね。
「そのピエロさんは私が殺らせてもらういますね」
刃を閉じた鎌の切っ先をピエロに向け、四家さんに聞こえるように言うと、私はフェンスから飛び降りる。
一応スカートが捲れ上がらないように気をつけながら。失敗しちゃったな。こんなフェンスを飛び降りるんなら、中にスパッツを履いてくるべきでした。
女子だけならともかく、この場には男子の六波羅君も百鬼先生もいる。色を武器にするときならイザ知れず、こんな戦いの最中にパンツをみせるのは恥ずかしいです。
そんな恥じらいを持つ私とは間逆に、二ノ宮さんはスカートも短いからか、さっきから何度もパンツを私達に晒していた。
うん。赤のレースだ。いいなー。私なんて中々外出できないし、ネットの通販もお願いできない寮生活だから、大人っぽい下着なんか買えません。
週に一度外出できても仕事の暗殺や、仕事の打ち合わせ。下着とか日用品は全部、シスターミナミにお願いして買ってきてもらうから、何の変哲もないただの白い下着とスポーツブラしか買ってもらえない。
色仕掛けを教えられても、こんな下着を履いていたら百年の恋も覚めてしまいますね。学園に帰ったら、シスターササカワに進言しようかな。
私が真剣に下着のことで悩んでいると、青龍刀のピエロが斬りかかってきた。いけない。いけない。今は戦闘中でした。集中しないでいるなんて私としたことが……。
気を落ち着かせ、鎌を、槍を握るように両手で持ち、青龍刀を握る両手首に目掛け突きを繰り出す。
非力な女子の力でも、槍の一突きは相当な威力を発揮します。人間の手首を弾くくらいなら誰にでも出来るし、私みたいに裏の世界で体を鍛え続けた女子なら、手首の骨を粉砕するくらい絶やすいい事です。
ドッドッと、二発命中する音が耳に届くと、ピエロの手から青龍刀が落ちた。
驚いたのかピエロが私を見つめてきたが、仮面のせいでどんな表情をしているのか分かりませんね。ちなみにピエロの仮面は笑っています。
私は槍を首すれすれをかするように突き出すと、ピエロの体は一瞬ビックと震えた。首を突かれると思ったのでしょう。大丈夫よ。私は首を突いたりなんかしない。
私は山吹学園の死神。
首は突くものではなく、刈り取るものですから。
突き出しながらグリップを回し、鎌の刃を広げ、一気に引き寄せる。手にかすかな抵抗を感じながらも力任せに引き抜くと、ピエロの口から「がぁっ」っと、短い悲鳴が上がり、ボールが私の手の中に飛んできました。
ピエロのマスクを被ったボールが。
赤い絵の具でべたべたなボールが。
私はそんなボールの額にそっとキスをする。
「神のご加護がありますように。アーメン」
祈りの言葉をピエロに送り、地面にそっと置く。さて、残りのピエロは四体。
二体は二ノ宮さん。二体は十字さんが相手しているはず。
二ノ宮さんの技量なら負けることはないだろうし、十字さんも負ける可能性はゼロでしょう。私はそう考え、次の相手になるだろう赤薔薇とジェイソンに視線を移した。
おや、こっちの戦いももう終りそうですね。敵を前にして六波羅さんが蹲っていた。教室で自慢していた童子切とか言う日本刀もへし折れていますね。少しいい気味だなと思うと、カンカンカンと足音が聞こえてきた。
私達が履いているローファーとは違い、鉄のソールがコンクリート叩く音が。
「終ったんですね」
振り返らずに背後にいる十字さんに話しかける。
「あんなピエロに僕が負けると思っていた? あはっ」
「負けるとは思っていませんが、負けて無様に死んで欲しいとは思っていましたよ」
「あはっ。八王寺ちゃんらしい言い方だね。ほんとイライラする言い方だよ」
不意に背後に殺気が降りかかる。ピエロよりも赤薔薇もよりも強い殺気が。
「……やる気ですか?」
ここで殺り合うほど十字さんは馬鹿ではないだろう。
「別に。どうせ後でやる事になるでしょ」
後でと言われ私は納得した。
今の点数は、十字さんが九点。四家さんが六点。二ノ宮さんが十二点、そして私が三点。二回戦は偶数組の一位と四位、二位と三位が殺しあうことになっている。残り点数は赤薔薇の十五点とジェイソンの十点が残っている。これを調整すれば、二回戦で殺しあうことが出来るということか。
そこで私は振り向き、候補者の三人を見た。二ノ宮さんもピエロの相手が終ったようで、ジェイソンに肩を切られる六波羅さんを楽しそうに見物していた。
「二ノ宮さん。赤薔薇かジェイソンの相手を私にやらせてもらえますか?」
「うん? うちは別にいいけど、どうしてうちに許可とるのー?」
「残った四人の中で、まだ殺り足りなさそうなのが二ノ宮さんだけだからですよ」
二ノ宮は四家を見る。
「四家ちゃんはもう良いのー?」
「……疲れたからいい」
「じゃあ十字ちゃんはー?」
「僕もパスだね。僕は八王寺ちゃんがどんな風に戦うのか、高みの見物でもさせてもらうよ。あはっ」
十字さんの性格ならばそういうだろうと思っていました。彼女は気分屋であり、楽しそうなことしかしない人です。
今の彼女の一番の楽しみは私が彼女に怒りを募らせ、向ってこさせること。そして、そんな私に実力の違いを見せ付けることでしょう。
この性格は昔から何一つ変わってはいませんね。
昔から。




