十大組織長会談2
「皆様ご了承していただけたようですね」
各々の顔を見比べ、反論がないのを確認し、狩谷はポケットからジッポライターを取り出し、一枚目の紙に火をつけた。
紙が勢いよく燃え出すと、灰皿に投げ捨て、燃え尽きるのを待ち、二枚目の紙を取り出した。
「続きを話させていただきます。参加者の話をさせてもらう。儂の名前を継ぐ上で一番大事なのは、比類なき戦闘力じゃが、もう一つ条件を出させてもらう。それは、若い者だけと言うことじゃ。儂は二十歳過ぎの鼻垂れの頃から、五十年以上この役目を負ってきたが、継ぐものにも五十年近くはこの役目を背負ってもらいたい。なので、参加者は二十五歳以下のものとする。まあ、断わるものはいないじゃろうな。どの組織のナンバーワンまたはナンバーツーはまだまだ鼻垂れじゃからの。それに儂の名を襲名し実戦に出るまでの一、二年の間に儂の技術を授けようと思っているから、若い方が好都合じゃしの。異論はあるかの?」
この質問には誰も顔の色を変えることなく頷いた。
「異論がないようなので続けさせていただきます。それでは最後の条件じゃ。参加者が決ったら、明日、狩谷がその参加者の顔写真とプロフィールを聞きに行く。その際に武器も狩谷に預けるように。そして、明後日の朝、各組織のところまで運び屋をよこすから、代表者に目隠しをし、試練会場まで連れて行かせるように。そして、組織の長は当日この部屋に来るように。試練の会場の様子が分かるようにモニターを設置させる。それでは話はこの位にしようかの。敵の数が五十を越えたので、隻腕で手紙を書きながら足だけで相手をするのは大変になってきたからのう。もし質問があるなら狩谷に聞いてくれ。それでは全組織の参加を祈っとるぞ。アデュー……以上がご主人様のお手紙になります。ご質問はございますか?」
狩谷は話しながら、二枚目の手紙もライターで燃やす。
「質問ですか。そもそもなんですが、こんな手紙を書きながら、五十人を足だけで相手することが出来るというのに、後継者を探す必要があるんですか?」
ルービックキューブの少年が質問をすると、金髪ショートの女性がパソコンの中でクスッと笑った。
「……なんですか橘社長? 僕がなにか可笑しい事を言いましたか?」
『言ったに決っているだろう。さすがは新参者の数だけの集団のリーダーだ。門脇の坊やは死屍柴ヒルイの伝説もその強さも良く知らないようだね』
橘に笑われた門脇は、ルービックキューブを弄っていた手をぴたっと止める。
「知っていますよ。ただ、噂話を鵜呑みにするような馬鹿ではないですからね」
「それなら簡単な答えがあるよー」
急にジョン・ドゥが話しに割り込む。
「ヒルイちゃんの噂話を鵜呑みにして、その話の強さを二倍にしたら丁度実際の強さと一緒くらいになるよ」
その一言で室内の多くのものは頷いたが、ルービックキューブの門脇と、ホスト風の鏡谷の若い二人だけが口を開け呆然としていた。
そんな二人を葉巻の男が豪快に笑うと、狩谷に向かい手を上げる。
「質問いいかい?」
「はい。佐藤様どうぞ」
「ヒルイの爺さんが引退して、次の後継者を選ぶのは分かるが、どんな方法で選ぶって言うんだい?」
「申し訳ございませんが、それは申し上げられません。しかしはっきり言える事が御座います。その方法は皆様納得していただけるものとなっております。そして不公平なことが起きないように、第三者を審判として呼ぶことになっております」
「審判ですか? それは誰に依頼するんですか」
喪服のように黒いスーツに身を包んだオールバックの男が聞いてくる。
「土門本部長、申し訳ございません。当日までは申し上げられません。しかし言える事は、完全に中立な者を、私が探してきましたので、ご安心ください」
「分かりました」
土門本部長といわれた男は、礼儀正しく頭を下げた。
『私はてっきり狩谷様が審判をやると思っていましたが、どうして狩谷様がなさらないのでしょうか?』
黒い長袖のロングドレスに身を包んだ女の手の中の、パソコンの画面に映し出された六十過ぎと言った感じの女性が聞いた。女性はシスターの衣装を身に纏い、柔らかい笑みを浮かべていた。
「シスターササカワ。私は中立になれないのです。なぜならご主人様が、私にも後継者の任命権を与えてくれたのです。ですので、今回の参加者は最大十人ではなく、最大十一人となります」
『狩谷様が選んだ者ですか。それでは私どものような人間が選んだ者など、余程の事がないと、後継者に選ばれそうにないですね』
シスターササカワは笑みを浮かべたままそう言ったが、その目は一切笑ってはおらず、自分が選ぶ人間が負けるとは微塵も思っていないようだった。
『私から質問は以上ですが、他の皆様はどうですか? 水仙様なんてこの会が始まってから何も喋ってはいないようですが、ご自分の組の中から選んだ後継者じゃ勝てないと思っているんですか? それならうちから一人買いますか?』
名前を出された水仙は、目つきが鋭いオールバックの男だった。土門もオールバックで同じ髪型だが、水仙のオールバックは襟足が長く、土門のようなエリートサラリーマンのようなものとは違い、野性的な凶暴さが滲み出るものだった。
「……ない」
ボソッと水仙は答えた。それは、パソコンの中のササカワに届くかどうかギリギリの大きさだった。