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死屍柴ヒルイの後継者  作者: 也麻田麻也
第一回戦 虐殺愛好会ブルーローズ 掃討作戦 前編
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ブルーローズ掃討作戦 六波羅5

 ジェイソンは地面からチェーンソーを引き抜き、横に薙いで来る。


 そんな馬鹿な! こんな重量のある物体を使い薙いで来るだと! それもこんな速度で!


 慌てて止まると制服の先をチェーンソーの刃先が掠めていった。ブレザーが引き裂かれ、皮膚にかすっていたのか、胸元に鈍い痛みが発する。


「痛っ!」

 思わず顔をゆがめ傷口を見ると、重症ではないにしても、血が流れ、シャツを赤く染めていた。怪我をしている。この高貴な僕が血を流している。


 ふざけるな。


 こんな下賎な人間に傷を負わされたというのか?

 殺してやる。手足を捥いで泣き喚きながら懺悔させてやる。


 怒りと殺意の溢れる瞳で睨みつけると、ジェイソンはチェーンソーを振りかぶっていた。馬鹿が。お前の振り下ろすスピードはもう覚えた。  

 早いといっても僕や刀の達人が振り下ろす速度には到底及ばない。それなら――ジェイソンがチェーンソーを振り下ろしてくるが、僕は下段の構えのまま斜め前に飛びその攻撃をかわす。


「雑魚が! 僕に同じ攻撃が二度も通じると思うな!」

 叫び、ジェイソンの横を通り過ぎながら、わき腹を切り裂くために刀を振るう。童子切の威力を知れ!


 刃先に硬いものが触れる感触がした。


 硬い?


 なんだ。わき腹を切り裂いているというのに、なんで硬い感触なんかするんだ? 腹筋を鍛えていようが、筋肉は筋肉。刀の切断力に勝てるはずもない。それなのに僕の手にはまるで鉄の塊を斬りつけるような感触が伝わった。


 そしてガキンッと金属の砕ける音がし、手に伝わる抵抗が消えた。


「えっ?」


 何の音だ? なぜ抵抗が消えたんだ? そう思いながらも僕の体の動きは止まらずに、ジェイソンの横を通り抜け、構えもろくに取っていない赤薔薇に突き進んでいた。

 

 今は考える暇なんてない。とにかくこいつを殺さねばならない。そう思い一刀両断するつもりで童子切を振り上げると、いつもより軽い事に気づいた。


 軽い? どうしてだ?


「くすっ」

 笑って赤薔薇は半歩身を引いた。


 半歩下がっただけじゃ童子切の間合いの中だ! 僕は童子切を振り下ろした。すると赤薔薇はまた笑った。


 僕は童子切が振り下ろされ、その笑みの正体も軽かった理由も音の正体も知った。刃が中程から折れていた。折れた童子切は空を切った。


 折れたってどうしてだ? 鉄のプレートでも身に付けていたというのか? そんな。最高の職人に最高の素材を使い作ってもらった童子切がこんな簡単に折れるなんて。


 僕が目を見開き折れて使い物にならない童子切に目を奪われていると、赤薔薇が鞭を振るった。波打つ有刺鉄線の鞭が蛇のようにうねり僕に近づくと、肩に今までかんじたことのない痛みが走った。肩の肉をつままれ引き千切られたような、衝撃を伴う痛みだった。


「うあつっがあああぁっ」


 痛い痛い痛い。こんな痛いのは生まれて初めてだ。

 痛みのあまり刀を掴んでいた手から力が抜け、紅花商会に金を積んで作らせた童子切を落としてしまう。いや、折れた刀など握っていたって何の意味もない。落としても気にする必要はない。今気にしなければいけないのは肩の痛みだ。肩はどうなった。


「いい声で泣くわね。ほら、もう一度泣いてごらん」

 赤薔薇がまた鞭を振るうと、今度は蛇が僕の腹を食いちぎる。


「がああああああああっ!」


 有刺鉄線が服を食い破り、腹に突き刺さり、肉をえぐり千切っていく。痛いってレベルじゃない。生きたまま動物に食われているような、発狂するような痛みだった。立っていられなくなり、僕は膝を着き肩と腹を抑え蹲る。


「痛いいいいいぃ。父様痛いよおぉぉぉ。うっ。うっ」

 涙が零れてくる。


「あぁ。いいわ。はぁ。その声いいわ。はぁ。もう興奮がおさまらないわ。ジェイソンちゃん肩を一センチ。はぁ。骨まで達しないように気をつけてね」

 興奮し息荒く言った。


 肩まで一センチってどういう事だ? 僕が思っているとジェイソンが返事をした。

「があぁ」


 ドゥルンドゥルンと、エンジン音が鳴り響くと、ジェイソンが僕の左腕を大きな手で力強く掴み、体を固定すると形容しがたいような痛みが僕の右肩を襲った。


「ぁぁぁぁぁぁ――――――!」


 声にならない叫び声を僕はあげた。痛いなんてもんじゃない。僕の肩に何が起こっているんだ!

 肩が痛いはずなのに、頭の天辺から足の先まで満遍なく針で突き刺されているような痛みが走った。衝撃と同時に僕の頬にベチァベチャと何かが掛かる。血だけじゃなく固体に近いような何かが。僕の肩は今チェーンソーで削られていた。


「――――!」

 涙が止まらない。痛い痛い痛い!


「いいわ。ジェイソンちゃんそこまでにして。あぁ、なんていい声で鳴くの。お姉さんもう興奮して興奮して体が熱くなってきちゃった」


 僕の肩からジェイソンのチェーンソーが離れると、震動は止み、今度は耐えられないほどの痛みが肩を襲ってきた。


「うああああああああああああぁ!」


「ああ、いいわ。素晴らしい声。でも残念ね。本当ならここから手足を捥いであげるのに、あなたたったこれっぽっちの痛みでもうショック死しそうになっているんだもん。ジェイソンちゃんうつぶせに寝かせてあげて」

 ジェイソンは支えていた手を離すと、僕の頭を掴み、強引にうつぶせに寝かせた。

「ほうら、痛くても目を開けて御覧なさい。味方があなたを見ているわ。何か言うことがあるでしょう?」


 味方って、候補者のことか?


 僕は痛みに耐え目を見開いた。

 視界の端には僕を眺める二ノ宮と四谷に八王寺、十字の姿があった。そうだ、僕は一人で来ているわけじゃない。


「あっ……あっ……僕を……たすけろおぉ!」

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