ブルーローズ掃討作戦 六波羅4
僕に気づいた赤薔薇がジェイソンに指示を出す。
「可愛い子が来たわ。切り刻んじゃいなさい」
「……」
こくりと頷き、チェーンソーのエンジンをかける。
ドルゥドゥルルルルと、エンジン音が鳴り、刃が高速で動き出す。さすがの童子切もあの刃とぶつかり合えば圧し折られるだろう。まあ、あんな大きな武器を巨体で振り回すんだ、僕に当たるはずもないから、わざわざ刀で受ける必要もないな。
ジェイソンの身長は五朗丸と同じかやや小さいくらいの百九十センチくらいだろう。体重は百五十キロは優にありそうだ。チェーンソーの刃の長さが四十センチほどだと考えると、腕の長さも加味して、間合いは僕の童子切と同等と考えていいだろうな。
つまりいつもの間合いよりも半歩引いて、ジェイソンが我慢できずに攻め込んできたら、初撃をかわして、あのたるんだ腹を掻っ捌けば僕の勝ちだ。そのまま赤薔薇に攻撃を仕掛ければ虚もつけ僕の勝ちは揺ぎ無いものになるな。
ふっ。
戦う前に勝敗が見えると笑いたくなってしまう。
勝負は時の運。終えるまで分からないとか誰かが言っていたな。誰だったか? 僕に切り殺された弱者の弁だから記憶にも残っていないな。
「ふっ」
堪えようにも笑が堪えきれなくて、僕は思わず小さな笑い声を漏らしてしまった。
「……お坊ちゃん何が可笑しいのかしら?」
赤薔薇が聞いてくる。
「いえ別に。ただ、もう部下もいないあなたの前に僕がいると思うと、あなたが可哀想で可哀想でならないんですよ」
「あら、お坊ちゃんはどうやらこっち側の人間のようね」
蝶のマスクの奥で目が妖しく輝く。
「こっち側とはどういう事ですか?」
「どうもこうもないわ。お坊ちゃんは人をいたぶることに至上の幸福を得るタイプの人間だってことよ。人をいたぶるって最高に滾ってくるでしょう?」
誰かをいたぶる想像をしているのか、唇を震わせ恍惚の笑みで体を抱きとめ、体を振るわせる。
「ああ、考えるだけでゾクゾクしちゃう」
「ふん。僕にそんな下種な趣味はないね」
「下種かしら? でも想像して御覧なさい。自分が絶対的な強者だと思っている人間の手足を捥いで、地べたを這わせて、命乞いをさせながら首を切り落とす。どう? 最高に滾るでしょう?」
体を抱きしめながら、人差し指を噛み言ってくる。
「ゾクゾクしちゃう」
ここのショーは僕のような上流階級の人間の趣味を理解して行われていたので好きだったが、どうやらしっかりと理解は出来ていないようだな。
「あなたは何か勘違いしている。命乞いをしている様を楽しむんではなく、思い上がった下賎な人間に、自分が惨めなゴミ虫だという事を伝え切り殺すから、客は笑っていたんですよ。それも分からずに開催していたんだと思うと、がっかりですね」
「あら? その口ぶりだと、あなたはここのお客様だったのかしら?」
「死に行くあなたに教える必要もないでしょう」
そこで僕はチラリと他の闘いの様子を見る。ふん。まもなく終りそうだな。こいつらを取られるのも癪だし、さっさと終らせるか。
ジェイソンを見据え、僕は童子切を下段に構える。斜め前に移動する事を考えれば、これが最善の構えだ。僕の雰囲気の変化に気づいたのか、赤薔薇も有刺鉄線の鞭を構える。
「ジェイソンちゃん。本日のショーのメインイベントよ。ピエロちゃんたちを殺して、強いと思い上がっているお坊ちゃんお譲ちゃん方の顔を恐怖に塗り替えて、バッラバラにしてあげましょうね」
ジェイソンの背中を軽く鞭で叩く。
「レディースアンドジェントルメン! 赤薔薇ショー劇場のメインイベントの開催です! 団長の赤薔薇とナンバーワンパフォーマージェイソンによる解体ショーの始まりです。最前列の皆様には血飛沫が降りかかりますが、ご了承ください」
深々と頭を下げると、また鞭でジェイソンを軽く叩いた。
「さあ、ジェイソンちゃん行きなさい!」
「うっ……があああああぁっ!」
ケモノのような絶叫を上げチェーンソーを振り上げ、僕に斬りかかって来た。
この展開は僕の予想通りだ。後はかわして斬り抜け、赤薔薇を殺す。赤薔薇の武器は有刺鉄線の鞭だけ。接近すれば、大した脅威でもないだろう。
けれど、ここで予想外のことが起きた。ジェイソンの振り下ろすチェーンソーの速度が僕の予想をはるかに凌駕していた。
「早っ!」
とっさに後ろに跳び、何とかチェーンソーをかわすが、跳ぶ反動でなびいたネクタイを、高速回転するチェーンソーの刃が引き裂いていった。本当に紙一重だ。僕の反射神経が凡人達のようにとろければ頭から真っ二つにされていた。
かわされ目標を失ったチェーンソーはコンクリートの地面にぶつかり、火花を散らしコンクリートを切り裂いていった。チェーンソーでコンクリートを切り裂いた? そんなこと普通できるのか?
いや、無理だろう。扱う者の腕力が異常なのか、チェーンソーが異常なのか分からないが、頭だろうが肩だろうが少しでも触れれば命はないだろう。
額にうっすら汗を掻くのが分かった。
この僕が冷や汗をかいたと言うのか?
父様の護衛や、菖蒲組の精鋭達と僕は幾度となく殺しの組織やはぐれ物のヤクザの組を潰してきたんだぞ。今まで何十何百もの裏の世界の人間を殺してきた僕だぞ。こんなでかいだけのデブを相手に胆を冷やしているというのか?
「……そんな馬鹿な話があるかぁ!」
僕は叫び下段の構えのまま一気に距離を詰める。




