山吹組掃討作戦 七星5
スカーレットが中段の構えのまま突っ込んでくる。
今度は膝蹴りや格闘術に持ち込まずに戦う気だろう。それならば、横にかわし反撃させてもらう。私がそう決断したときに、スカーレットの背後の山吹がドスを振り上げ投擲してきた。
「……ッ!」
予想外だった。まさか、あんなに怯えた様子の山吹が攻撃してくるなんて私は考えもしなかった。払い落とすか? ダメだ。払い落とせば足が止まるし、スカーレットの攻撃を受けられなくなる。 瞬時にそう判断し、私は体ごと首を傾け、ドスを避け、スカーレットの動きを見据える。大丈夫だ。体勢は崩れてはいるが、払える!
そう思ったときにスカーレットは加速した。膝蹴りを披露した時の倍ほどの速さで距離をつめ、右手一本に日本刀を持ち替え突きを放った。一連の動作は淀みがなくスムーズで私の反応は遅れ、払おうと腕を動かしたときには日本刀の先端が腹に刺さっていた。
「があぁっ!」
スカーレットは日本刀を引き抜き、上段から振り下ろす。
動け!
これを受ければ死ぬ。私は痛みと熱で鈍くなった体を懸命に動かし、その斬戟をナイフで受ける。すると、穴の開いた腹からは血があふれ出してくる。
「ぐうぅ!」
歯を食い縛り痛みに耐え、日本刀を振り払い、後ろに飛び距離をとる。
スカーレットの動きは早く、日本刀の扱いにも慣れた腕利きだったとは言え、普段の私なら決して対処できないような攻撃ではなかった。これも全てあの男――山吹の一刀のせいだった。
「スカーレットさん。ちゃんと決めてくださいよ」
山吹はへらへら笑いながら言うと、幹部の死体の側に落ちている日本刀を拾う。
「スイマセン、ボス。思ったより体頑丈デシタ」
予想外だった。いや、予想してしかるべきだったと言うのに、私はその考えを捨てていた。腕利きの護衛に守られ、情けない表情をみせていた山吹が……幹部よりも強いだろうという事実を。
山吹は弱く見えた。幹部よりも、下っ端よりも。しかし百鬼先生は言っていたじゃないか。スカーレットは十五点。山吹は十点と。
つまり、幹部の三点よりもはるかに点数が高いということだ。
「坊ちゃんたちの技量はもう分かった。うちの薬中の幹部どもよりは強いようだけど、私とスカーレットなら容易く処理できるよ。やっぱり、使い捨ての兵隊がいると、相手の実力を簡単に測れて便利だね」
「……ふざけるな……使い捨てだと……人の命をなんだと思ってるんだ!」
「商売道具」
山吹は即答した。
「薬を餌に裏だろうが表だろうが、人を集めるなんて簡単なことなんですよ。あとは私がタクトを振るえば、強盗強奪誘拐殺人抗争まで思いのまま。今はまだまだ駆け出しの組ですが、何れは十大組織に潜り込ませてもらいますよ。そうですね……坊ちゃんら三叉のスコーピオンと交換なんていいですね」
まだ私たちを三叉のスコーピオンだと思っているようだ。けれど、そんな事はどうでもいい事だ。私が確認しなければいけない事は……。
「表の世界にもと言ったか?」
「ええ。言いましたよ。裏の世界では武力の調達。表の世界では金の調達をしていますからね」
「……許せない。裏の世界の治安を乱すことも許せないが……表の世界に手を出すことだけは……この私が許さない!」
歯を食い縛り傷の痛みに耐え、私は山吹を見据える。こいつだけは生かしてはおけない。
「裏の法に基づき、今から……粛清を始める。散れ!」
私はブッシュナイフを構え、半身の体勢をとる。
「……その台詞……お前ら逆桜か」
「いいや。今はしがない……七星だ」
体勢を下げ、スカーレットの後ろにいる山吹目掛け駆け出す。一歩駆けるごとに腹から血が噴出すが私は気にしなかった。この傷では数十分も待たず私は死ぬだろう。
けれど、この男だけは私が殺さねばなかった。この世界の平和のためにも。悪の粛清をするのは、悪の世界に身を投じる正義、逆桜の指名なのだから。
スカーレットが進路を防ぐように立ちふさがり、下段から切り上げてくる。私はナイフでその攻撃を受け止め、突進を止めずにそのままスカーレットにぶつかり、体格差を利用し押し倒す。
倒れながらも気管を押しつぶすために、ブッシュナイフを握ったまま、肘をスカーレットの喉に当てる。
が、それは間一髪で避けられてしまい、肘をコンクリートに打ち付けてしまった。肘からはミッシッと、骨の折れる音がしたが、こんなもの腹の痛みに比べれば軽症だ。
スカーレットは背中を強く打ちつけたのか、「クッ」っと呻いた。本当ならここで首を切り裂き止めを刺すんだが、私に残された時間を考えると、立ち止まってはいられない。
止めを刺さずに山吹に飛び掛る。
血を失いすぎたのか視界はボヤケ。波の音のような耳鳴りがしてきたが、関係ない。悪は……粛清しなければならない。私はその使命だけで体を動かし、飛び上がりながらブッシュナイフを振るった。
「チッ!」
山吹は舌打ちし日本刀を立ててブッシュナイフの一撃を防ごうとした。勝った。ブッシュナイフは元々草や枝を切り落とすためにあるが、私の腕力と合わさり、このナイフは細い木くらいなら幹から切り落とせる。日本刀でガードしたところで、払い落とされるか、へし折られるかのどちらかだ。
勝ちを確信し、私は絶叫を上げながら、持てる力の全てを使い、ナイフを振るった。
「うあああああぁぁぁ!」
倉庫に金属と金属がぶつかり合う音が響き、凶器が吹き飛んだ。それは私のブッシュナイフだった。
そんな……馬鹿な。力でも武器の重量だって私のほうが勝っている。
それなのになぜ……。
私は力負けした腕を見た。そして納得した。
そうか。腹を刺された時点で、私の負けは決っていたのか。腹の痛みで気づかなかったが、肘の骨は折れ、皮膚を突き破り、血をだらだらと垂らしていた。こんな腕じゃ力がこもるはずなかった。悔しいが……私の負けだ。私は悪に負けたわけでも山吹に負けたのではない。スカーレットに破れたのだ。
「山吹も……彼岸花の人間も、表の世界の害になる裏の世界の住人も全て粛清し、皆が笑って暮らせる世界を作れないのが……無念だ――――」
言い終える前に山吹は刀を振り下ろした。




