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死屍柴ヒルイの後継者  作者: 也麻田麻也
延長戦ー二代目を継ぐもの
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二代目死屍柴ヒルイの戦い4

「なんか策ありなのかなー?」

 ジョンはどんな対処があるんだろうかと考え出すが、行き当たりばったりのほうが面白そうだなと思い、考えるのをやめ、瑠衣がどう動くのかをマスクの奥で笑いながら、観察し始めた。


「Like a diamond in the sky (まるでお空のダイアモンドみたいに)」


 瑠衣と鎌の間合いが近づき、ジョンが首を斜めから掻っ切ろうと振り下ろす。

 しかし四家はその攻撃を微笑を浮かべながら風に舞う木の葉のようにひらりとかわした。今までのようなスピードと身のこなしを活かしての回避行動ではなく、まるでジョンの狂気に反応して自然と動いているような感じだった。


「凄っ! ヒルイちゃんはこんなことも出来るのか!」

 喜びながらもジョンは柄を短く持ち、大鎌をコンパクトに振るった。威力は落ちたものの、速度は更に上がった。しかし瑠衣は踏み込みながら大鎌の刃から逃れ、そのまま一回転し、ジョンのこめかみにナイフの刃を付きたてようとした。


 頭を下げウサギの耳を引き千切られつつも間一髪でかわす。


 しかしそれにより瑠衣の連撃が開始された。突き刺す切り裂くと縦横無尽に、回転しながらの攻撃が、上段中段下段、縦横と次々と繰り出された。学園で二ノ宮を相手取ったときよりも、数十分前に一神を切り裂いた時よりも攻撃のバリエーションも練度も上がっていた。

 まるで一戦一戦成長しているかのように。


「Twinkle, twinkle, little star (きらきらひかる 小さなお星様)」


「成長期の伸び盛りなのかなー」

 軽口を叩きながらも、ジョンは柄と刃を使い、攻撃を捌き続けるが、マスクの中のジョンの顔はどんどんと変化していった。

 

 笑みが増していったのだ。


 無骨なファイティングナイフの攻撃は精度を増していき、はじめは弾くことが出来ていたが、次第にタキシードをかすり、生地を切り刻み始め、マスクに幾重もの傷を付けられ、首から提げた懐中時計のチェーンを斬られ、そして……二の腕を刃が捉え、鮮血があがったというのに、痛みよりも、恐怖よりも、楽しさが込み上げてきた。


 快楽殺人鬼は、己の命の危機でも喜びを覚える者だった。


「How I wonder what you are (あなたはいったい何者なのかしら)」


「楽しい楽しい楽しいよ―」


 きらきら星の一番が歌い終えると、ジョンは叫び飛び掛った。大鎌を振りかぶり、瑠衣の脳天を串刺しにしようと。けれど、瑠衣はジョンの動きに反応した。大鎌の軌道と間合いに慣れてきたのか、自分から更に一歩踏み込み、刃先の届かない位置まで来ると、逆手に握ったナイフを、ジョンのこめかみ目掛け、左から右に突き立てに行った。

 刃先がマスクに迫った瞬間、ジョンは咄嗟の判断を迫られた。

 振り下ろしても鎌の刃は瑠衣を捕らえないし、攻撃も避けきれないかもしれない。

 自分にとって不利なカードしかない状態になった。

 

 その瞬間、ジョンは人生で自分が最も高揚していることに気づいた。


 楽しい。


 死ぬかもしれない瞬間に楽しさを感じるジョンはまさに狂っていた。


 そして、その狂った脳で答えを導き出した。ほんの刹那の思考の中でジョンは考え付いた。

 この大鎌を離したらどうなるのかなと。


 なんだか面白い事が起きそうな気がすると。


 武器から手を離すことなど普通の神経ではまず出来ない事だろう。

 けれど、彼岸花の快楽殺人鬼は普通ではなかった。彼岸花の殺人鬼は皆が皆狂っていた。

 そして、その代表である、ジョン·ドゥは裏世界の誰よりも狂った人物なのだから。


 首を傾け、最低限の回避行動を取りつつ、振り下ろす大鎌の柄から手を離すと、慣性の法則が働いた大鎌は腕と言う導き手を失い、振り下ろした方向……瑠衣の顔に向け斜めに飛んでいった。


「……!」

 驚いたかのように微笑が一瞬だけ崩れると、瑠衣は額に近づいてくる鉄の柄を見つめつつ、避けきれないと判断したのかジョンのこめかみを貫こうとする左手に集中する。接触するタイミングはこっちのほうが速いと分かっての行動だろう。


 実際にウサギのマスクに刃先が触れ突き破る。ジョンはかわそうと首を傾け始めているが、捉える速度のほうが上だった。刃がジョンのこめかみに触れたその時、瑠衣の体に衝撃が走った。十数キロの物体が直撃したんだ、華奢な体躯の瑠衣の体は耐え切れずに、弾かれた。


 ブンッと後ろに倒れながらも腕を振り切ると、ナイフの刃先には血がこびり付いていた。けれど、瑠衣は殺ったと、安堵の息を洩らすことはなかった。血は出ているが、貫いた手ごたえは無かったからだ。


「チェックメイト」


 ウサギのマスクのこめかみから頭頂部にかけて切り裂かれ、そこから血を滴らせながらも、ジョンは手を伸ばし飛んでいきかけた大鎌の柄を掴み、後ろに倒れながらも淀みない動きで体勢を整えつつ起き上がろうとした瑠衣の喉下に、大鎌の刃を突きつけた。


 首はまだ傾けた体勢のままで。

「あぁあ、お気に入りのウサちゃんマスクがびりびりじゃないかー」


 勝負は決まった。それが分かったのか、瑠衣から狂気が消えていき、ゆっくりと目を閉じていった。そしてまた開くと、微笑は消え、眠そうな幼い顔に戻った。


「また買えば良いんじゃないかな?」

 瑠衣は首元に鎌の刃を突きつけられている状態だというのに、動じる事無く答えた。


「ダメダメダメー。これはオーダーメイドなんだから、すぐには出来ないんだよーって、ああっ! 血が染みてきた!」


 額の傷から染み出した血が、白ウサギのマスクに、赤黒い模様を作り出していった。


「あぁあ、これじゃあ脱がなきゃいけないねー。もう、性別どころか顔も晒さなきゃならないなんて、キャラがブレブレだよー。性別不明、名前も顔も不明、謎の殺人鬼ジョン・ドゥの謎がばれてしまうねー」

 切り刻まれた兎のマスクの額に手をあて、ジョンは嘆いた。


「そうかな? 最初っから誰かは分かったよ?」


「……えっ、僕の正体に気づいたの!」


「うん」

 首に刃が当てられているのに、瑠衣は頷いた。

「あっ、問題の答えを言ってもいい?」


「問題?」

 ジョンは聞き返した、問題を題した記憶がなかったからだ。

「なんか出していたかなー?」


「うん。一番強いのは……二ノちゃんだったんだね」


「……アハハハ。そう言えばそんなこと言っていたねー」

 瑠衣の答えにジョンは笑い出すと、血で汚れたマスクを剥ぎ取った。

「ヒルイちゃん正解だよー」


 How I wonder what you are?


 マスクの中から、肩に掛かるほどのストレートの髪の前髪部分だけを、眉の上でぎざぎざに切りそろえた髪型の少女の顔が現れた。


 四家こと二代目死屍柴ヒルイは候補者の中で二番目に強かった。一番強かったのは、阿乱須美子の名で参加した、ジョン·ドゥこと二ノ宮だった。

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