二代目死屍柴ヒルイの戦い3
静寂が流れ、部屋の中に瑠衣と対峙するジョンの狂気が渦巻きだすと、佐藤が口を開いた。
「やらせてやれ。俺達はヒルイの旦那の最後の指示に従おうぜ」
最後と言う言葉に心を揺さぶられながらも、零は「畏まりました」と答え、先代死屍柴ヒルイの指示を守るために、開閉ボタンの前に向った。
零が受けた指示、それは先代達の戦いが終るまで瑠衣を外には出さないというものであり、ジョンを除いた旧五大組織長に出された指示は、生き残り、二代目死屍柴ヒルイと共に新たな時代を切り開いてくれと言うものだった。
さしずめこの閉じられた部屋は、負の遺産ごと、古き時代を飲み込もうとする洪水から守ってくれるノアの箱舟なんだろう。部屋の外は洪水――血の雨が降り、血の海を作り出す争いが起きているのだから。
たった一人、ジョンだけは他の長とは違う指示が出されていた。
それはこの後継者争いが行われる前に出されたものであり、旧五大組織が設立されたときに出されたものでもあった。
止めろ。どんな手を使ってでも。
「さてと……約束を果たさせて貰おうかなー」
五大組織には他の組織を超える戦闘力を有していたこと以外にも、名を連ねるに十分の理由があった。裏警察逆桜には裏世界を取り締まり、表世界とのパイプになる役割が。
武器輸入調達製造会社紅花商会には武器の補給を行い、後方支援するという役割が。
広域暴力団、関東竜胆組系竜胆組と殺し屋ギルド、赤きガーベラには裏世界の大部分を締める任侠の世界と殺し屋の世界を統治する存在として加入する事となった。
けれど、快楽殺人の会彼岸花は序列でも上位に入る戦闘力を保有しているのは間違いはないが、五大組織に名を連ねなければならない理由は無かった。それならなぜ、彼岸花は五大組織に名を連ねているのか?
それは先代死屍柴ヒルイが加入を望んだからだ。
五大組織を立ち上げた四人の傑物の中で、先々代ジョン・ドゥは間違いなく死屍柴ヒルイに継ぐ力を持っていた。
だからヒルイはジョン・ドゥにしか頼めない頼み事をした。それは、もし死屍柴ヒルイがこの裏世界の楔であり防壁としてそぐわない事をしたら、その力で止めてくれと言うものだった。
先々代も先代も死屍柴ヒルイと戦った。
そして当代ジョン・ドゥも戦う時が来た。
死屍柴ヒルイは裏世界の楔であり防壁、私怨で動いていい存在ではないのだから。
私怨で動き力を持って殺す者に人が付き従うことはないのだから。
だから止めてくれ。これがヒルイの最後の指示だった。
ジョンはその指示に従おうとしていた。
建前上は。
死屍柴ヒルイは懸念しなければならない事を一つ忘れていたのだ、ジョン・ドゥが快楽殺人鬼だという事を。
快楽殺人の会彼岸花の快楽殺人鬼にとって快楽とはなんなのか? 殺すこと? 戦うこと? どちらも正解で、どちらもハズレだった。
彼岸花の快楽は戦い殺す全過程だった。
ジョンはマスクの中で笑った。人生で最も楽しい快楽殺人を行うことが出来る事を確信して。その頭の中には、先代死屍柴ヒルイの言葉など微塵も残っていなかった。あるのは快楽を求める狂気だけ。
「楽しみ楽しみ楽しみだなー」
マスクの中で誰にも聞き取れぬほど繰り返し呟き……にたりと笑った。
溢れ出る狂気に反応し瑠衣が動いた。
「Twinkle, twinkle, little star (きらきらひかる小さなお星様)」
一撃目を放ちながら、回転に繋げようとしたが、ジョンは大鎌の柄で一撃目を受けると、柄の下部をつま先で蹴りつけ、瑠衣の足の間に滑り込ませる。
回れば、足が巻き込むという事を瞬時に理解した瑠衣は、つま先で踏ん張り、強引に回転を止め、初撃とは逆のナイフを振るった。
「わっ、っと」
ジョンはまたマスクを斬られながらも、肌にかすらせる事もなく、頭を振る動きだけでかわした。
「ハズレー」
ジョンが動きの止まった瑠衣に大鎌を振り下ろす。その速度は八王寺の一撃とは比べるのもおこがましいほど速かった。
「How I wonder what you are (あなたはいったい何者なの)」
口ずさみながらナイフを頭上で交差させながら後ろに飛ぶ。両刃の鎌の刃がナイフとぶつかり合い、火花を散らす。
瑠衣は逃れると、音もなく着地し、一度腕をブルンと振り、僅かに感じた痺れを吹き飛ばす。
「やっぱり大鎌は良いねー」
まるで槍術の演舞をするかのように、大鎌を体の周りで回す。
「Up above the world so high (世界の上でそんなに高く)」
瑠衣は大鎌の動きを目で追いながら、ナイフを下げ、無防備に歩き出す。




