二代目死屍柴ヒルイの戦い2
通過していくナイフに遅れるようにフォンッと小さな風切音が奏でられた。
ジョンは虎弥の時とは違いかわす動作を取ったが、マスクはまた引き裂かれた。いや、マスクは引き裂かれつつも怪我を負わずに避けたといったほうが正解なんだろう。
それだけ瑠衣の斬撃は鋭かった。
ジョンのウサギのマスクには三本の傷跡が付けられ、不思議の国のアリスの白ウサギから、B級ホラーのチープな怪人のように変っていた。
「わお。ヒルイちゃん、今、くりくりのおめめを狙ったでしょ。驚いたなー」
「だって、どかないんだもん」
瑠衣は答えると、視線をジョンの後方にある、ハンマーで叩き壊された開閉のボタンに移す。
「まだ動くかな?」
一見するに正常に作動するようには見えないほど破壊されているが、叩き壊されながらも閉まった事を考えるに、動く可能性はゼロではなった。
分厚い壁を叩いて壊すよりはずっと可能性は高そうだった。
「瑠衣やめて!」
姫宮は声をあげるが、瑠衣は首を左右に振った。
「アハハ。姫宮ちゃん無理だよー。言って聞くような子なら、部屋を分断しようとはしないよー。ホンと……初代ヒルイちゃんの想像通りの展開だねー」
少女のような声でジョンは言うと、バックステップで後退し、瑠衣から距離を取った。
「ジェイコブちゃーん、僕のオニューの武器を取ってもらってもいいかなー?」
「任せろ! 遂にニューアイテムのお披露目の刻だね!」
ジェイコブは棺桶を開けると、中に斜めにしてギリギリ納められた、棺桶にはよくマッチした武器を取り出し、ジョンに投げ渡した。
長さ百六十センチはあろうかと言う柄の武器が放物線を描きジョンに飛んでいく。長すぎる刃のついた斧のような武器が。
「マジか……」
零がその武器を見てポツリと呟いた。その武器は昨日一昨日と目にした物だったからだ。
「よっと」
声を出しながら、重量のある斧を両手でキャッチすると、グリップを回しながら一振りした。
「ジャジャジャーン」
遠心力で刃が飛びだし、斧は巨大な大鎌に変化した。
「八王寺ちゃんのやつだ」
瑠衣がポツリと漏らす。
「アハハ。正解だよー。これ一目見て欲しくなったんだけど、狩谷ちゃんから八王寺ちゃんが死んだって聞いて、今朝急いで取りに行ったんだよ。まっ、そのせいで集まりには一時間以上遅れちゃったけどねー」
ジョンの手にした武器は、山百合の死神といわれた八王寺の愛用の武器、死神の大鎌だった。
「ジョンカッコいいぞ! やっぱり殺人鬼はそういう禍々しい武器を持たないとね」
彼岸花の殺人鬼は普通の武器は使わない。どこかイカれた武器を獲物とする。
ジェイコブのノコギリや、二ノ宮のハサミ、中にはメスや五寸釘にチェーンソー、戦斧ではなく、きこりの斧のようなB級ホラーの怪人のような武器を好んで愛用している。
そしてこの死神の大鎌もジョンの手元に来るとよくマッチしていた。傷だらけのウサギのマスクを被ったタキシード姿の小柄な殺人鬼の手元に大鎌がある状態は、B級ホラー以外の何者でもなかった。
「準備万端。さっ、ヒルイちゃん殺りあおうかー。ヒルイちゃんは僕を殺せばボタンのところまで行ける。おっ、これって凄く上手いこと言ったんじゃないかなー? 開閉ボタンと橘ボタンがかかったよー。アハハハ」
「アッハハハハ。上手い! さすがジョンだ」
緊迫する空気の中、発されされ言葉にジェイコブ以外は誰も笑わなかった。
「僕はヒルイちゃんを止められればミッションコンプリートだねー」
周りの反応も気にせずにジョンは言った。
「あっ、安心してね。止めるって言っても息の根って意味だからねー」
ジョンの言葉に姫宮がいち早く反応した。
「ジョン・ドゥ様! 殺すなんて私は聞いていません!」
「あれー? 先代ヒルイちゃんが言ってたじゃないかー。殺す気で行けってさー」
この言葉に今度は零が反応した。
「あれは言葉の綾です!」
「でもさー。君たちは今のヒルイちゃんを相手に、手を抜いて闘えって言うのかい? 無理だよ。いくら僕でも手を抜いて闘えば殺られちゃうかもしれないよー」
ジョンは対峙する瑠衣から視線をそらさずに答えた。
瑠衣は微笑を浮かべ二本のファイティングナイフを逆手に構え、ナックルガードをジョンに向けながら、隙を狙っていた。
ジョンもこのままでは対処が遅れると考え、大鎌の半ばと下をそれぞれ握り、斜めに構える。
「僕が死んだあとに、ヒルイちゃんを止められる人がいるって言うなら、手を抜いてあげても良いけど……いないでしょー?」
「……」
その言葉に姫宮も零も口を開きはしなかった。
誰もが分かっているんだろう。
この部屋の中に瑠衣を止めることが出来るものがいるとすれば、ジョンだけだということに。




