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死屍柴ヒルイの後継者  作者: 也麻田麻也
戴冠式 開戦の狼煙
116/153

戴冠式と言う名の開戦の狼煙11

「ヒルイ、誰が誰を殺る? その場の判断に任せるか?」

 と、竜胆。


「いいや、ワシが橘の相手をさせてくれ。アンラッキーも殺りたい相手がいるじゃろ?」


「ああ、本当は俺も橘を殺りたいが……この足じゃ無理だ。だから俺は足を奪った……君江の相手をさせてもらおうか」


「なるほどのう。それじゃあ……俺は水仙らの相手をさせてもらおうか。残りのやつらはその場の判断で殺ろう」

 竜胆は顔に笑みを浮かべる。好々爺のような笑みではなく、戦いを楽しむような笑みだった。

「久々の戦争だ……楽しむとするかのう」


 顔つきも一人称も隠居前の竜胆組組長ではなく、死屍柴ヒルイと共に、死屍累々の屍の山を積み上げてきた頃の竜胆虎四郎に戻っていた。

 竜胆は杖を持ち上げると、横にゆっくりと引っ張っていく。


「……仕込みか」

 ポツリと水仙が呟いた。


 竜胆の手にした杖は戒杖刀かいじょうとうと呼ばれる仕込み杖だった。抜刀すると、長さ二尺ほどのそりのない刀身が現れた。


「おや、この部屋は武器の持ち込みはルール違反じゃないのかい?」

 と、橘が聞いたが、竜胆の杖が仕込みだと言うことには別段驚いた様子を見せなかった。


「そんなルールあったかのう? 呆けが始まっていたのか……忘れておったわ」


「狸爺が」

 悪びれる様子もない竜胆に吐き捨てるように言うと、ちらりと横目でシスターササカワを見る。

「まあ、こっちにも喰えないババアがいるけどな」


「……言葉が過ぎるんじゃありませんか」

 シスターササカワは橘に向かい言うと、首に下げたロザリオを引き千切り、十字架を中指と人差し指で挟み込むように握りこむ。すると小さなカチッと言う音がし、指の間から伸びた十字架の下の部分と左部分から短い刃が顔を出す。シスターササカワも竜胆同様、暗器を持ち込んでいた。

「神のご加護がありますように……アーメン」


「とんだ殉教者だね」


 ササカワに橘は皮肉を込めて言うが、ササカワは耳も貸さずに、十字架を持つ手をやや後ろに下げた構えを取る。


「夜野。お前も鏡谷に武器くらい持ってきているんだろう? 渡してやりな」


「うぃっす。鏡さん、どうぞっ」

 夜野は腰に巻いているホルスター付のベルトを外し、手渡した。

「……ああ、サンキュー」

 鏡谷は返事をし、ホルスターを腰に巻きつけ、ナイフを抜き取った。刃渡り三十センチ超える、厚みのある片刃のハンティングナイフを。グリップは握りやすく湾曲し、まるで包丁の柄のようだった。

「やるしかねえか」


「さてと……門脇の坊やは武器を出さなくて良いのかい?」


「……僕の領分は頭脳労働なんですよ。まあ、もし身を守る必用があれば……その時は出しますよ」

 ソファに腰を下ろしたまま門脇は答える。

「橘社長はどうなんですか?」


「私かい? 誰かが私のところまで来れれば……その時は出してやってもいいが、出す事はないかもしれないね」

 君江の置いた大きなキャリーケースを倒すと、その上に腰を下ろし足を組んだ。

「さてと……準備は出来たようだけど……爺どもには時世の句でも読む時間はあげようかい?」


「いらねえよ」

 竜胆は仕込み杖の刀を構えながら答えた。


「そうかい。ヒルイさんはどうだい?」


「ワシもいらんのう。ワシが残すのは句ではなく……生き様じゃ」

 裏世界で生き抜いた五十数年間、共に戦い続けた赤い短刀を握る手に力を込める。


「そうかい」

 余裕ある笑みを浮かべると、橘は静かに呟いた。

「殺れ」


 裏世界の命運を決める戦いの号令はとても静かなものだった。

 嵐の前の静けさと言うよりも、戦いが終わった時、誰もが静かになる事を暗示させるような一言だった。

 

 静か。


 この戦いが終わり立ち上がっているのはたった一人だった。

 

 それ以外の者は誰もが静かになった。


 誰も喋らず……心臓の鼓動すら止めていたのだから。

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