戴冠式と言う名の開戦の狼煙10
「どれ、一つ確認するが、門脇君と水仙君はどうする? 十大組織を解散するのに反対かい? もしそうじゃなければ……ソファに座ってお茶でも飲んでいてもらえると幸いなんだが」
アンラッキーは青い目を向けて聞いた。もし反対ならば敵とみなすとその目は語っていた。
「……俺は解散しようがそのままでも構わない。もう……うちの組には跡目がいないんだからな」
そこで木瑞に手を伸ばす。何も語らなかったが、阿吽の呼吸で木瑞は刀を手渡す。
水仙は息子の刀を手に取り目を細め、思い出を回想するかのように懐かしみ、一息で引き抜くと、切っ先を竜胆に向けた。
「だがな……梔子が潜り込んでいると分かりながら処分しなかった死屍柴ヒルイと……息子を安全なところに置いて高みの見物を決め込んでいた……竜胆。手前だけはぜってえに許せねえ」
水仙の口調は荒れ、顔つきが修羅のように変わった。
ヒルイと水仙の気持ちは同じだったのだろう。息子を失う苦しみは、手足をもがれるよりもずっと辛いことだった。
「ふっ」
水仙をソファに座りながら観察していた門脇は小さな声で笑うと、部屋を見回した。老人三人と、それに対する新五大組織の面々を。
橘同様門脇も戦力を秤に掛ける。
「僕は反対ですね。十大組織を解散すればこの裏世界が瓦解しますよ。それを止めるためにも……僕は橘社長に付きましょうかね」
話しながらも視線をチラリと部屋の出口に送る。
「滝口君……橘社長に助太刀してください。盛者必衰。僕はここで古き遺産が滅び行く様を見させてもらいますよ」
もうヒルイの威圧感に怯える門脇の姿はなかった。
虎の威を借る狐のように、滅び行く平氏ではなく源氏の元に着きまた野心を燃やしだしていた。
門脇はまさにキツネなんだろう。人を化かす狐のように、この力が全ての世界で生き抜いてきた門脇には、争わない方がいい人間が誰かと言う事をいち早く見抜く術が備わっていた。
そして、もし、まずい展開になったならば逃げればいい。門脇はそのために逃走経路の確認を行っていた。
部屋の鍵は扉ごと壊され、この部屋から抜け出すのは問題もなさそうだった。問題があるとすれば、エレベーターのみ。
最後にエレベーターを使ったのは五郎丸を運び出した狩谷だから今は一階にあるだろう。
このホテルの高さは三十階建てで大体百三十五メートル。エレベーターの平均速度が分速約四十五メートルと考えると、到着までは三分か。
まずい展開になれば滝口に時間を稼いでもらえばいいか。
瞬時に門脇が計算をし終えると、竜胆がニヤッと笑った。
「エレベーターはもう動かねえぜ。狩谷が下で止めたからな」
「……ちっ」
門脇は舌打ちする。
「何のことでしょうか?」
聞き返しながらも、頭の中で再度計算する。
まあ、良いか。この面子が負ける事はまずないだろう。
ヒルイは隻腕。アンラッキーにいたっては、片腕義手の両足が義足。戦力として数えるのもおこがましいほどだ。
唯一五体揃っているのは竜胆だけだが、老いた身では橘側の精鋭に勝つことなどできないだろう。門脇は自分達の優位を再認識し、また「ふっ」っと笑った。
誰が考えてもヒルイら老人側の不利は明らかだった。




