戴冠式と言う名の開戦の狼煙8
そこでヒルイが一呼吸おいたので、橘が口を開いた。
「じゃあ、どうしたいって言うのさ? 新しい死屍柴ヒルイを襲名させ……十大組織を再編成し、うちを追い出すって言うのかい?」
ニヤッと自信に満ちた笑みを浮かべる。
「出来ると思っているのかい?」
「いいや、十大組織を再編成する気はないのう。それにのう、儂が今話した昔話には続きがあるのじゃっと……すまんが少しは殺気を押さえて聞いてくれんか?」
そう言うと、くるりと振り向く。殺気を納めるように言ったのは橘にではなかった。
「のう二代目死屍柴ヒルイ」
姫宮に抱きかかえられながらも、四家は目を見開き橘を睨みつけていた。
「……もう無理」
あの小さな子供が二代目なのかと思いつつも、護衛達は四家の醸し出す殺気の様でいて根源的な恐怖を呼び覚ますような得体の知れない狂気を感じ取り、長の後ろから前にすっと体を入れる。
「零! ジョン! その子を押さえてくれんか?」
「畏まりました」
「了解だよー」
零とジョンは同時に四家と橘の前に体をいれ、今にも姫宮を振り払い飛び出しそうな四家の進路を塞いだ。
「はーい、四家ちゃんどうどうー」
ジョンが馬を諌めるように言うが、今の状態の四家は聞く耳を持っていないようで、目に狂気を宿しながらゆっくりと歌を口ずさみ始めた。
「Twinkle, twinkle, little star(きらきら光小さなお星さま)」
「ダメ! 歌っちゃダメ!」
姫宮が涙を浮かべながら抱きしめるが、四家はその腕を強引に引き離し、進路を邪魔する零とジョンに飛び掛る。
「How I wonder what you are! (あなたはいったい何者なの)」
「落ち着いてよー」
ジョンがすり抜けていこうとする四家に向かいミドルキックを放つが、四家は交差した腕で受け止め、後ろに自分から飛び、回転しながら床に着地する。着地場所ははじめから決めていたのだろう、そこには置かれた二本のナックルガード付きの無骨なファイティングナイフがあった。
「あー。これもう無理だねー。ヒルイちゃん、前倒しして計画を進めようかー。えっとねー。僕と虎弥ちゃんと零ちゃん以外は壁沿いまでいって、身を守っていてー。ジェイコブちゃんと祥子ちゃんは護衛人と一緒に長を守るお手伝いねー」
ジョンの指示で護衛は長を避難させる。
「おやおや、あんな狂犬みたいな子に後を継がせるなんて気でも触れたのかい?」
自分を守るように前に出た君江の肩を押しのけ、四家を挑発するかのような笑みを送る。橘は四家に斬りかかって来られるのを待っているようだった。そして、自分は被害者であり身を守るために……四家を殺した。そんな策略が頭の中では練られていた。
「わしの跡を継がせるのはあの子しかおらん。そう決めたのじゃ、十年前のあの日に」
「十年前だって……どういう事だい?」
「あまり長くも喋って入れそうにないからの……」
チラリと四家を向く。四家はファイティングナイフを構え、歌を口ずさんでいた。そのたびに部屋に体に纏わりつくような狂気が漂い、息苦しさを感じさせてきた。
「Up above the world so high (世界の上でそんなに高く)」
「ワシがしたいのは……いいや、十大組織長の集まるこの場で宣言したいのは……十大組織制度の撤廃じゃ!」
「なっ!」
橘も水仙もササカワも鏡谷も門脇も声をあげる。あげなかったのは旧五大組織長と、その話をされていた何人かの護衛だけだった。
「この国が混乱に陥ることになるぞ!」
「そうはさせない。そのために二代目死屍柴ヒルイはじめ、力を貸してくれる組織がおる! 必ずや手を取り合い、ワシらが出来なかった誰もが笑顔で暮らすことの出来る裏世界を作ってくれよう!」
「ああ。私の……私達の孫ならきっとやってくれるはずだ」
アンラッキーがヒルイの肩に手を置く。
「そうじゃのう。ワシの息子も力になるからの」
竜胆も手を置く。
「じじいどもが調子に乗っているんじゃないよ! 解散したければするが良い! だがな、解散するのならば、この東日本はうちら黒百合が貰う! それだけの事だ!」
橘は声を荒げ言い返した。
「そうはならん。なぜならお主らはこの場で処分されるのじゃからな。頭を失えば巨大な蛇と言えど噛み付くことも出来んミミズと同じじゃろう」
ヒルイは残された腕を懐にいれる。




