戴冠式と言う名の開戦の狼煙5
竜胆の後ろには組織長に二代目と紹介された竜胆虎弥が立った。
小柄な好々爺とした感じの竜胆組長とは似ても似つかない、野性味溢れる顔立ちをしていた。背はそこまで高くはないのだが、ライオンのように逆立てた黒髪のお陰で、大きく見えた。
「虎弥、十大組織長にはお話したんじゃが、今この瞬間を持ってお前を二代目竜胆組組長とする。分かったな?」
「……ッ! ああ、分かった」
虎弥が頷くと、竜胆は満足そうに頷き、杖を力強く握り締めた。その時の顔からは好々爺のような柔らかな笑みは消え、任侠の世界を腕っ節だけで生き抜いてきた凶悪な人相に変わっていた。
ジョン・ドゥの後ろにつくはずだったジェイコブは部屋の調度品を見回しながらフラフラと歩くと、四家の前まで来た。
「君が後継者ちゃんかい? うちの亜蘭須美子ちゃんを倒したって凄いじゃないかい。彼女は彼岸花で一番の子なんだぜ。記念に握手をしよう」
血で汚れるのも厭わずに握手をすると、四家が口を開いた。
「須美子ちゃん?」
「あっ、そっか。偽名を使っていたから分からないか。確か二ノ宮って言ってたはずだぜっ」
「おーい。ジェイコブちゃん。武器の持込がオッケーなんだから君も取り出すと良いぞー」
ジェイコブが四家と話していると、ジョンが手でメガホンを作り言った。
「そうだった。俺としたことが、こんな大切なことに気づかないなんて」
そう言うとジェイコブは棺桶を下ろし、中から大きなノコギリのようなものを取り出した。ノコギリにしては厚く重量なありそうな武器だった。
「さあ、出番だぜ! ぎっこぎっこ君!」
タキシード姿のライオンマスクのジェイコブは、勇者が伝説の剣を引き抜いたかのように、ノコギリを高く掲げた。
「カッコいいよ、ジェイコブちゃん」
ジョンがパチパチと拍手をするなかジェイコブの前に立つ四家はそんなジェイコブのノコギリではなく棺桶の中を凝視していた。
「……これって――」
「シーッ。お楽しみはあとまで取っておくものだぜ」
ライオンの口に指をあてジェイコブは言った。
「……うん。分かった」
四家は答えるとまた棺桶の中をチラッと覗いた。中には棺桶によくマッチした武器が納められていた。
「リーダー。俺も武器を出すけど、リーダーの分はどうする?」
黒のジーンズに黒のカットソーというラフな格好に、サイドを刈り上げた髪を横に流した二十代前半の男、三叉のスコーピオンの副ヘッド滝口が三段ロッドを取り出しながら門脇に耳打ちした。
「僕のはまだ出さないで下さい。まだ……ね」
シスターササカワの後ろについたシスターミナミは他の護衛が武器を出したのを確認すると、黒のロングドレスの裾をはためかせ、太腿に取り付けたホルスターから刃渡り三十センチほどの短剣を取り出す。鍔が横長で十字架を思わせる形状をしていて細身の刀身が特徴的なスティレットと言う剣だ。
シスターミナミは柄を両手で握り、ロザリオの前まで持ってくる。
「神のご加護がありますように……アーメン」
金髪の髪にブラウンのメッシュを入れ、シャツの胸元を大きく開けた男――裏世界スカウト会社マーダエージェンシー幹部、夜野光輝、が橘に会釈をしたあとに鏡谷の後ろについた。
「鏡さん……どうすればいっすか?」
「とりあえず橘社長の指示に従うぞ」
鏡谷は視線を夜野には送らずに答えた。目を離している隙に何か指示があり、それに気づけなければ、この現場でか、もしくは生きて帰ったとしても処理されるだろうから。
鏡谷は自信が名ばかりの代表だということに気づいていた。自分の変りになる人間はマーダエージェンシーにも黒百合にもいくらでもいるのだから。
「処世術ってやつっすか?」
「ああ」
しつこく聞いてくる夜野にイラつきながら返す。
夜野も元々は黒百合の殺し屋であり、幹部候補に名を上げられるほどの実力者であった。一対一で戦うのであれば代表として現場を離れた鏡谷よりも、現役の夜野の方が上かもしれない。
実際に、額に脂汗を浮かべる鏡谷とは対象に、夜野は手にした刃渡り四十センチはあろうかと言うファイティングナイフをくるくると回し、暴れるのは今か今かと言った感じで唇を舐めた。




