ホームルーム6
「……席に戻ってください」
九門が席に戻るのを確認し、十番を呼ぶ。
「それでは十番来てください」
「はーい。あー、長く呼ばれなかったから、肩がこっちゃったよ」
肩を揉みながら十番が席を立つと、八番が勢いよく立ち上がった。妖艶な顔には、焦燥が表れていた。
「あはっ。次は僕の番だよ。どうして立ち上がったのかな? ねえ、八王寺ちゃん」
楽しそうに笑みを零しながら十番は言った。そうか、この二人は知り合いの可能性があると思っていたが、どうやら当たっていたようだ。
「八王寺。知っていたとしても、相手の所属が分かるような発言をしてはいけない。その規則は覚えているな。そして、私闘を禁じる。この規則も忘れてはいないな」
「……覚えています。すいません、取り乱しました」
俺に謝ると静かに椅子に座った。
「あはっ。掛かって来ないの? その規則に縛られているつまんない性格は三年経ってもかわらずか」
「十番。これ以上挑発をするな。失格になりたいのか?」
「ごめんなさーい。僕だって死屍柴ヒルイの後を継ぎたいから、失格は困るな」
十番は舌を出してえへっと笑い謝った。二ノ宮同様こいつは問題児だ。注意しないといけないな。十番はツインテールの髪を揺らしながら教卓に向ってきた。手錠を受け取ると、ロックが掛かったままだったので、すり抜けたようだ。
十番は金髪のツインテールで、スカートの丈は短く、制服もワイシャツもボタンを開け放ち、中に着た黒いキャミソールを見せた服装をしている。身長は百六十センチちょうどで、痩せ型の少女だ。
手首にはシルバーのブレスレットをしているが、資料によるとお洒落であり、仕込み武器ではないようだ。ちなみに僕っ子だ。俺はそんなに嫌いな方ではないので、この点は高く評価していた。
「武器を持ってきます」
金庫に向かい十番のゴルフバックを取り出す。
「これで間違いはないな」
中からアイスピック二本と、黒のコンバットブーツを取り出す。制服にあわせ、男子には茶色の革靴、女子には茶色のローファーを支給しているが、十番は靴を持参していた。その理由は簡単。ローファーよりも動きやすいからではなく、この靴がメインの武器だからだ。靴を教卓の上に置くと、その重さで、ドウォンと、教卓が音を立てた。
資料によると、片方五キロの鉄のブーツ。鉄の靴型の上に、黒い革を貼り付けた、鈍器とも言える物体だ。
「あはっ。ねえ、百鬼先生。このダサいローファーから履き替えてもいい? 僕ダサい格好とか死ぬほど嫌いなんだよね」
このブーツは武器として登録しているが履かせて大丈夫か考えてみる。
「……いいだろう。ただし、変な真似したら失格にするからな」
「変な真似なんかしないよ。僕は規則を守る子だからね」
百パーセント嘘と分かるおどけた口調で十番は言った。本当に大丈夫かと思ったが、どうせ直ぐに一次試験に移るんだし、大丈夫だろうと俺は判断し、履く事を許可した。
「やったー。あっ、少し時間掛かるから、その間に名前教えてよ」
進行の俺がなぜ指示されなければならないんだと思いながらも、第一次試験開始の時間も迫ってるので、名前の発表を行った。
「十番は、『十字』。数字の十に、文字の字で十字だ」
「えー。なんかダサい。一神とか六波羅とかそういうかっこ良いのがよかったなー。あと、八王寺とかね。あっ、百鬼先生。この後の試験で八王寺ちゃんが死んだら、僕が八王寺を名乗ってもいい?」
「……ッ!」
八王寺は挑発され、ゴルフバックに手を伸ばした。
「八王寺!」
怒鳴りながら、俺は腰に刺した特殊警防を引き抜き、八王寺に向け牽制する。
「落ち着け。その鎌を出せばお前を失格にする。死屍柴ヒルイの名を継げなくなっても良いのか?」
「……失礼しました」
八王寺は引き下がったが、殺気だけは納めなかった。この二人の過去に何があったかは知らないが、根が深そうだ。
「クスッ」
十字は笑いながらブーツに足を通し、紐をキツク結びだした。
「十字。この名前は候補者選びが終るまで名乗ってもらうから、誰が死んでもその番号を次ぐことは出来ない。分かったか?」
「はーい」
返事をすると、ブーツを履き終わったようで、立ち上がった。
「うん。やっぱりローファーよりこっちのほうが可愛いな」
無骨なコンバットブーツだったので、可愛いかどうかといわれれば決して可愛くはないが、俺は目を奪われた。十字がロリータ系でかわいいからと言うわけではないぞ。十字が片方五キロのブーツを履きながら、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねたからだ。まるで普通のブーツを履いてるように軽々とだ。こいつはどんな脚力をしているんだ?
ちなみにパンツが丸見えだ。キャミソールに合わせた黒の紐パンだった。最近の若い子は大人っぽいパンツを履いているんだな。
「それでは席に戻りなさい」
「はーい」
ゴルフバックを背負い、教卓に置かれた二本のアイスピックをペンのように回しながら席に戻って行った。
「……それじゃあ、最後。十一番……ではなくて、零番。来なさい」
「やっとかよ。どれだけ待たせるんだよ」
立ち上がると、辺りを見回す。
「待ち時間長いやつもいるんだから、手前らちゃっちゃと武器と名前授かって席にもどれよ」
待ち時間が長くイライラしていたのか、ボサボサの黒髪をかみ乱しながら言うと、教卓に向ってきた。
「ほらよ」
手錠を俺に手渡してきた。引き千切って抜けたようなので、力タイプなのは間違いなさそうだな。
「それじゃあ、武器を持ってくる」
「ああ」
さっさと持って来いよと、目に文字を写しながら返事をした。
せっかちな性格なんだろう。イライラしているのが分かる。
金庫から、最後のゴルフバックを手に取る、今日の手に取ったゴルフバックの中では二番目に重いな。本当に扱えるのか?
零番は身長は百八十センチと高めだが、五朗丸や七星のように筋骨粒々と言う感じではなく、痩せ型に見える。制服はネクタイを外し、第三ボタンまで開けているが、胸筋が凄いようにも見えなかった。どこにでもいる、二十歳の若者にしか見えない。特徴らしい特徴といえば、目つきが悪いくらいかな。
経歴も大した成果を挙げているようには思えなかったし、あの組織の推薦と知っていなければ、どうしてこいつがこの場にいるのか不思議でならなかっただろう。
教卓に置いたゴルフバックを開け、中から零番の武器、戦斧を取り出す。長さ百五十センチの柄に取り付けられた三日月状の斧頭が横向きに取り付けられた戦斧――バルディッシュだ。通常のバルディッシュなら五、六キロだろうが、これは十五キロはありそうな代物だった。
斧頭も通常のものよりも大きく、何よりも柄が鉄製なので重量があるようだ。こんな馬鹿げた武器を作るのは、間違いなく紅花商会の作品だろう。
「これで間違いないか?」
「ああ」
返事をすると、十五キロの物体を片手で受け取り、肩に背負う。痩せ型に見えるが力はありそうだった。
「あとは、これだな」
布に包まれた刃渡り十センチほどのダガーを取り出す。本数は十五本だ。グリップはシルバーで、持つとブレードのほうに重さを感じたので、間違いなく投擲用のものだろう。
「服に仕込んでもいいか?」
零番が聞いてくる。
「ああ。その代わり――」
「ああ。ここでは使わねぇよ。何度も言ってるんだから、言わなくても分かる」
話をさえぎり言うと、制服の内側に差し込んでいった。どうやら仕込むようにホルダーを縫い付けてあるようだ。
「それで名前はなんだ?」
ナイフを仕込み終え聞いてくる。
八歳も年下の二十歳にタメ口を聞かれたが、俺は平常心を保ち、名前を告げた。
「零番の名前は、『零』だ。数字の零一文字がお前の名前だ」
「零か。了解」
言い終えると、ゴルフバックに斧をしまい担ぎ上げ、席に戻った。
これで十一人全員の命名と武器を授け終わったな。
下は十五歳から上は二十歳までの十一人を見回す。
一癖も二癖もありそうなやつばかりで本当に引率なんて出来るのか不安になったが、ここで挫けてられないなと自分を鼓舞した。まだ試練は始まっていない。
俺の本当の仕事はここからだ。




