戴冠式と言う名の開戦の狼煙3
「さて、零君や、虎弥を呼んできて貰えるかの?」
「竜胆様申し訳ございません。この部屋は十大組織長かその代理者、又は今回のような異例の場合を除いてお通ししてはならない決まりになっています」
零が詫びるように頭を下げると、「よい」と、ヒルイが口を開いた。
「呼んでやれ。ただし竜胆の倅だけじゃなく、他の護衛たちも全員な。わしの名を継ぐ二代目が決ったんじゃ。護衛のものにも披露してやろうではないか」
「……畏まりました」
零がまた一礼した後とびらに向かい歩き出すと、橘が静止した。
「狩谷の坊や待ちな。私はあのお譲ちゃんが二代目になるのは反対だよ」
「橘さん往生際が悪いですよ。あなたの候補者は私の姪に敗れた。これは覆すことのできない事実です」
「ラッキーパンチが当たっただけで偉そうにするんじゃないよ。万全の状態の一神だったなら負けは無かった」
橘と姫宮は互いの胸がぶつかり合う距離まで近づき睨み合う。
「……お姉ちゃん怖い」
ボソッと四家が土門と佐藤の頭を撫でながら呟くが、睨み合う二人はその言葉には一切答えずに睨み続けた。
「私はもちろんあの子がヒルイ様の二代目になることに賛成ですが、まだ意見していないほかの方々はどうなんですか?」
「僕も賛成だよー。だってうちの阿蘭須美子ちゃんを倒したんだからねー」
ジョンが睨み合う二人を意にかけずに、場にそぐわない機械音の声で答えた。
「チッ」っと橘は舌打ちすると、振り返り視線を鏡谷とササカワに交互に送る。
その目はなんと言えば良いか分かっているよなと二人に語りかけていた。
「おっ、俺も反対っすね。一神は敗れはしましたけれど、黒百合の幹部には他にもこの候補者争いに名乗りをあげられるだけの人員がいますからね。そいつらのほうが相応しいと思いますよ」
「私も同意権でございます。あの子に裏世界の双肩を担わせるのは早いのではないでしょうか? 黒百合の人員は私も良く知っていますが、後継者は黒百合の幹部から選ぶのが言いと思いますわ」
鏡谷は若干気圧された感じで、ササカワは歯がゆそうに答えた。
「なるほど。これで五対四か。残すは門脇の坊やだが、どうなんだい? 四家のお譲ちゃんが勝ち残りはしたが、お宅の五郎丸は狩谷の坊やに負けただけだろう? そして狩谷の坊やは辞退した。納得がいくかい?」
門脇は目を閉じ考え出した。自分の意見で話の流れが変わる事をよく理解していたからだ。そしてここで間違えた発言をすれば敵を増やすことになることも重々承知していた。
今の構図は旧五大組織と新加入の組織の対立状態だった。そして勢いがあるのは黒百合を筆頭とした新加入組織。つくなら黒百合派だ。
けれど……彼の中には死屍柴ヒルイに怯える思いもあった。圧倒的な存在感と威圧感を彼の心はまだ怯えていた。
「ぼくは……」
答えようとした瞬間、門脇の視界が橘を捕らえた。橘は門脇を見ていた。死屍柴ヒルイに勝るとも劣らぬ存在感と威圧感を兼ね備えた目で。十大組織に召集されて日の浅い彼は橘の本気の瞳が向けられるのはこれが初めてのことだった。
「……ッ!」
心臓を氷で出来た手で鷲摑みされたように体中に寒気が走った。逆らってはいけない。逆らえば今この場で殺される。
「……僕は反対です。四家は勝ち残りはしたが、死屍柴ヒルイの名を継ぐには……力不足だと思います」
「フッ」と、橘は笑うと死屍柴ヒルイを見た。
「どうするんだい? 確かに血判を押しはしたが、十大組織の意向が五対五に割れちまったねえ」
これで後継者選びは白紙に戻せると考える橘に、死屍柴ヒルイは笑みを送った。
ヒルイにとってこの展開は予想通りのものだったからだ。
火種は燻った。
あとは激しく燃やし狼煙を上げるだけだ。




