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死屍柴ヒルイの後継者  作者: 也麻田麻也
戴冠式 開戦の狼煙
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戴冠式と言う名の開戦の狼煙

 優しい歌声を響かせる四家と、首を下げ死を待つ一神を見ながら、橘は拳をぐっと握り、歯をギリッと鳴らす。

「あの餓鬼が……大事なときに余計な事を思い出しやがって」


「余計なこと?」

 横に並んだ姫宮が、横目で眼光鋭く一神を見つめる橘に聞く。


「馬鹿が。心を持たずに殺りあっていればあんたの姉の子に負ける事はなかったんだよ」


「それは逆じゃ」

 二人の会話にヒルイが口を挟む。

「一神君と四家ちゃんの技量は拮抗しておった。勝敗を別けたのは意志の強さじゃ」


「意志だって?」

 橘は眼光の鋭さを維持したままヒルイを向く。


「そうじゃ。一神君には心を持ち戦うすべがなかった。何のために戦うのか、何のために相手を殺すのか。それがなかったから一神君は四家ちゃんに負けたのじゃ」


「何のために戦うか? そんなの相手を殺すため。それ以外に何が必要だって言うのかい?」


「お主には分からんじゃろうな。負けたことのない人間には……失う事を知らない人間には分からんことじゃ」

 ヒルイはなくした腕を押さえるように語る。

「一神君は惜しい才能じゃった。あのまま心を取り戻し、戦い方を変えていれば、ワシをも超える逸材になったかもしれんのう。橘嬢、お主の育成能力はワシも認めておる。けれどのう、心を持たぬ兵は最善の動きしかせん。最善と言うのはイレギュラーには弱いものじゃ。だから四家ちゃんに負けたんじゃ」


「イレギュラー? あの餓鬼がイレギュラーだって言うのか?」


 ヒルイに訪ねたが、答えは姫宮が返した。

「ええ。あの子は母と父を亡くし心を病みました。自我が崩壊しかけるほどの殺意と敵意と狂気を振りまく修羅に変りました。あなたを殺してやりたいという一身でね」

 もちろん私もと目で語る。


「復讐心か」

 橘はそんな姫宮の目にも動じずに返す。


「けれど、あの子の心は強かったんです。あの子の中には姉さんとお義兄さんの愛で溢れていましたから。普段はその愛で自分の中の狂気を必死に押さえ込んでいます。まあ、その影響かわかりませんが、普段は怠惰で困った子ですけどね……けど、あの子が姉さんが聞かせていた歌を歌い、自分の中の愛を眠りにつかせ、本能の狂気に身を捧げたとき血が目覚めます。イレギュラーな血が」

 どこか切なげな目をしながら姫路は自分の姪を見つめる。


 四家にとって歌は眠りであった。母と父に愛された自分を眠らせる歌。そして愛が眠りにつき、目覚めるのは押さえ込まれた狂気。才能に溢れた血が体中を駆け巡る。


 彼岸花の殺人鬼二ノ宮を凌駕し、黒百合の最高傑作一神を蹂躙するほどの才能を持った祖父の血が顔を現す。


「けれど……」

 ボソッと姫宮が呟くと、四家が一神の首目掛け、ナイフを振るった。血飛沫が飛び散ると、一神の首がゴロんと転がった。


「私はあの子に狂気なんて捨てて、普通の子として生きてもらいたかった」

 そう語った姫宮の顔からは、赤きガーベラの長の肩書きが消え、ただの優しい姉の顔に変わっていた。


「勝負あり。推薦者死亡により、黒百合は脱落になります。そして、生存者である赤きガーベラの推薦者である四家を優勝者とし、死屍柴ヒルイ様の後継者とします!」


 零の大きな声が広い部屋に響き渡る。


「おー。やっぱり四家ちゃんが勝ったかー。うちの須美子ちゃんが負けたから凄い強いと思ってたけど、一神君に勝つとは凄い凄い。やっぱり優秀な血筋の子は強いのかなー」


「……くっ」

 橘が歯をギリッと鳴らしながら、苦虫を噛み潰したような顔をする。

「アンラッキー程度の血筋が、いい気になるなよ」


「おやおやおやー。橘ちゃんはまだ四家ちゃんを認めていないって言うのかなー?」

 ボイスチェンジャーを通した機械音でジョンが聞くと、橘は体から殺気を発しながら答えた。


「私はこんな結果認めない」


「おやおやおやー。でもこれは血判状に押印して執り行った正式な物だよー。十大組織長の長一人で覆せるようなものじゃないからねー」

 そういうと、ジョンは橘の顔を覗き込む。


「……」

 目が合っているのか合っていないのかは分からないが、橘はジョンの兎の瞳を射殺すような眼で見つめる。


「うーん、橘ちゃんは納得していないようだけど、姫宮ちゃんは別として、他の長はどうなのかなー? 四家ちゃんが後継者になることに賛成の人―?」

 ジョンはぴょんと飛び跳ね橘から距離を取ると、手を上げ、長達を見回しながら言った。


「俺は賛成だな」

 紅花商会の佐藤が手を上げると、四家の元に歩いていく。


 四家は目をまどろませ、ゆっくりと瞳を閉じ、また目を開けた。その顔からは微笑は消えていた。


「よう、譲ちゃん。いいナイフを使ってるみてえだが、もし他の武器が欲しかったらおじちゃんが二代目死屍柴ヒルイにふさわしい武器を作ってやんよ」


 葉巻を咥えたままにっと笑うと、四家の頭を力強く撫でた。


「うー。煙い」

 頭を揺すられながら四家は答えた。


「はっはは。そりゃ悪かったな。ハードボイルドな男の嗜みだ、我慢してくれよ」

 煙を四家に掛からないように吐き出す。


「……おじちゃんの髪型面白い」

 四家はドレットヘアを不思議そうに眺めた。


「譲ちゃんの髪型も似合ってるぞ」


「これニノちゃんに斬ってもらったの」


「似合ってる。茜ちゃんの若い頃にそっくりだ」

 佐藤はサングラスを外し、懐かしむように四家を見た。

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