決勝戦 一神対四家12
『よくやった、さすがは俺の子だ』
父さんのしゃがれた声が聞こえる。
『はい』
そう答えた僕の声からは抑揚が消え、機械が発している声のようだった。
友達や知り合いや好きな子の死体を見下ろしていると、パチパチと拍手が聴こえてきた。
音に反応してお父さんが振り向いた先を僕も見ると、そこには金髪の綺麗な女性が立っていた。
『牡丹! どうしてここに』
お父さんが目を見開き叫んだ。
『どうして? 分からないかい? あんたが組織に黙って一人でこそこそ何かやっているから、私が監視をしていたんだよ』
若い橘社長はお父さんとお母さんを見たあと、辺りを見回し、笑みを浮かべ僕を見た。
『いい餓鬼を育てているようだな。そいつを私にくれよ』
『ふざけないで下さい。この子は何れ黒百合を……この裏の世界を背負う人間になるんです! 誰があなたなんかに渡すもんですか!』
お母さんが声を荒げる。
『そうかい。けれどね……あんたたちみたいな軟弱な育て方じゃこいつは強くなんない。同じ幹部のよしみだ、私がこいつを完璧な暗殺者にしてやるよ』
そう言うと橘社長はお父さんに向かっていった。
『坊やよく見ておきな……パパの最後だよ』
お父さんが橘社長にナイフを突き出すと、社長はその手を掴み捻りあげた。腕からはゴギンと言う音が奏でられ、手からナイフが離れる。橘社長はそのナイフを掴みお父さんの首筋に突き立てる。
「かっ――」
短い悲鳴の後、お父さんが舌をだらりと垂らしながら地面に横たわった。流れていった血はクラスメイトの血に混ざり合い、お父さんが死体山の一部になった。
『あなたしっ――ああっ!』
お父さんに呼び掛けられた声は、腹に投擲されたナイフによって遮られた。
『旦那が死んだくらいで喚くなよ。それでも私と同じ幹部なのかい?』
話しながら倒れたお母さんに近づくと、腹からナイフを引き抜き僕に視線を移した。
『坊やこっちへおいで、私が本物の殺し屋にしてあげる』
人形になったはずの僕は恐怖で震えながらも橘社長に近づいていった。逆らったら死ぬ。それが分かったんだろう。
『このナイフを突き立てて一撃で殺しな。それが出来れば坊やを才能有りとみなし私が育ててあげるよ』
僕はナイフを受け取り、震える手でお母さんを見た。
『助けて……牡丹……この子をやるから……命だけ――』
命乞いをしながら僕を捨てようとしたお母さんにナイフを振り下ろした。硬い頭蓋骨を刃が砕き壊しながら突き進むと、脳ミソを貫きお母さんの動きを止めた。ナイフを引き抜くと血が飛び散った。赤い赤い血飛沫が。
「How I wonder what you are (あなたはいったい何者なのかしら)」
『ああああああああぁぁぁぁぁっ――――』
僕は叫んだ。お母さんを殺したことが辛かったのか、お母さんに捨てられたことが辛かったのか分からないが叫び続けた。
『――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ぁぁあ』
『……ふっ、いい腕だが……弱い心だ。たかが肉親を殺した程度でぶっ壊れやがった。これじゃあ黒百合に持っていっても使い物にもならないね。とりあえずシスターにでも預けるか』
橘社長は僕の襟首を掴み持ち上げた。
けれど、僕はそんなこと気にもせずに、声もなく叫び続けた。
なぜこんなに辛いんだ?
それは僕に心があるから。
なぜこんなに辛い思いをし続けなければならないんだ?
それは僕がお父さんとお母さんの子供だから。
もう辛い思いはしたくない。
こんな心いらない。
お父さんとお母さんの子供でもいたくない。
僕はもう僕でいたくない。
それならやめよう。僕でいることを。
僕は心を捨てると同時に過去を、記憶を、心の奥底に封じ込めた。
ああ、そうか。僕は人形になりたかったんだ。
望んで自分の体に糸を巻きつけ、誰かの指で動かされる操り人形になりたかったんだ。
心がある事は不幸なことだから。
僕は人形ではない。人形になりたかったおろかなピエロ。
How I wonder what you are!(あなたはいったい何者なの?)
僕は傀儡になりたかった人間。
心がある事を喜んだ僕は馬鹿だ。心なんてあるから辛いんだ。心なんてあるから悲しいんだ。心なんてあるから絶望するんだ。
僕は人形になる事を望んでいたんだ。
記憶と心を封じ込めて僕は人形に近づいた。
そんな僕が舞台で演じた演目は……悲劇だった。
人形になった少年が心を手に入れ、それが捨てようと願ったものだと気づき絶望する……悲劇。
悲劇にハッピーエンドはない。あるのはバットエンドだけ。
「 Good night (おやすみなさい)」
走馬燈が終った。
人形の糸は切られた。
糸の切れた傀儡は……動くことはない。永遠に。




