決勝戦 一神対四家10
迎撃か防御か。僕は頭の中でより最善の対処法を選ぼうとしたが、恐怖で脳の回転は落ち、判断に時間が掛かった。
「……ッ!」
判断が遅れている間に、四家の体は重力に引っ張られ下降していく。
もう迎撃する時間はない。受けきるしかない。
僕は握る手にギュッと力をこめ、防御体勢を作り出す。四谷は下降しながら逆手のファイティングナイフを振るってくる。
回転速度は今までよりも速くなっていて、それに伴い威力も増していた。ナイフの刃を刀で受けると、ガギンッと言う音が鼓膜を震わせ、同時に指先を痺れさせた。
それでも四家の回転速度は落ちずに着地するまでのわずかな時間に、二発の追撃を繰り出してきた。
早いが見えている。大丈夫。まだ、対処できる。
僕は必死に二発の斬撃を受け止めると、四谷は膝を曲げ衝撃を吸収しながら地面に音もなく降り立った。
チャンスだ。僕は四家の頭を見据えながら刀を振り上げる。
「 How I wonder (あなたはいったい)」
四家が歌を口ずさみながら顔を上げると、微笑を浮かべる四家と目が合った。その目はブラウンに輝き、僕は思わず気圧された。
綺麗だった。神々しさを感じさせるほど。
僕は手にじっとりと汗を掻いた。気圧されるな。四家の動きは見えている、僕は負けない。僕は黒百合の最高傑作、橘牡丹の片腕であり、死屍柴ヒルイに比類する者と言われているんだ。ここで負けるはずがない。
「あああああぁっ!」
叫び声と同時に刀を振り下ろす。
「 what you are! (何者なのかしら)」
歌声と同時に四家は回転しながら軽々と攻撃をかわした。そして、回りながらナイフを一閃させた。
僕の手から直刀の重さが消えた。
右のナイフが僕の右手首を切断し、左のナイフが左手首を切断した。動きは見えていたというのに、回避行動を取ろうとしたが、それよりも早く刃が到来した。
動体視力がすぐれている僕でも、見えていても反応ができないほど、四家の動きは早く、淀みがなく、流麗だった。
凄い。こんなに強い人間が存在するのか。まるで人智を超越したような強さだった。
そう、一目あった瞬間に手汗を掻かされた死屍柴ヒルイのような……。
そう思った瞬間、激しい痛みが襲ってきた。
「あああああああああぁぁぁぁぁぁっ」
痛みに呻く僕の首元に、四家がすっとナイフを当てた。
「……終わりかな。どうする、ギブアップする? それとも楽にしてもらいたい?」
微笑を浮かべ聞いてくる。
血を流しすぎているのか視界が霞んできた。
両手を失い、血をここまで流してはもう戦えないだろう。負けは決った。後は楽にしてもらうか、ギブアップするかのどちらかか。
どちらがいいんだろうか? もしギブアップして僕は生き残って何が出来るんだろうか? 隻腕の殺し屋は何人もいるが、両手を失ってはもう戦えないだろうな。
そうすれば僕はもう、お役御免かな。橘社長は使えない駒は取っておかないだろうし、何よりも僕は任務を遂行することが出来なかった。受諾された使命を全うできなかったから、処分される運命は決っているな。
任務をしくじれば死が待っているんだから。
死のう。
僕は父と母に愛されていた。その思いを取り戻せただけで十分だった。
橘社長すみません、僕はあんたに恩を返そうとしたけれど、負けてしまいました。
「殺してくれ」
膝を着き、首を下ろす。
自分の死を覚悟し目を瞑ると、黒い視界の中に、過去の映像が流れてきた。
ああ、お母さん、お父さん、僕だよ……蓮だよ。僕はもう人形なんかじゃ……傀儡なんかじゃないよ。
だって、僕には二人との思い出があるから……。
「じゃあね……」
ポツリと呟く四家の声が聞こえると、脳裏に過去の思い出が次々に浮かび上がってきた。ああ、これが走馬燈か。
幼い僕を抱きかかえるお母さんと、僕に笑顔を向けるお父さん。そして……横たわる人達。
皆がみんな血を流している。大人から子供まで足枷をつけた人達が死んでいる。
「 When the blazing sun is gone (燃える太陽が沈んで)」
これは山百合に入ってからの僕か?
いや、可笑しい。僕は自分が殺した相手はすべて覚えている。幾千もの死体の状態を忘れずに記憶している。だけど、こんな人達を殺した記憶はどこにもない。
走馬燈の映像に音が流れ出した。
『お父さんいっぱい殺したよ』
これは僕の声か? 今よりもずっと幼い声変わりなんかしていない少女のような声だ。
『さすが蓮だな。こんなにいっぱい殺すなんてさすがは父さんの子だ』
『ええ、お母さん嬉しいわ。蓮ならきっと、立派な暗殺者になれるわ』
優しい父さんと母さんの声がする。
どういう事だ……僕は……山百合に入る前、記憶を失う前から殺し屋になるために育てられてたのか?




