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アルケミリア雑貨店へようこそ!  作者: リサイクル推進委員会
第三話 歯車
8/12

 声が……聞こえる。



「だから言ったじゃない。あんな男と一緒にいたらあなたが不幸になるって」


 わかってる。今はもう痛いほどわかってる。だからこの家を出ていくって言ったじゃない。


「それに子供まで……。このまま1人で育てるつもり?ムリよ。女一人で子供を育てることが、このご時世どれだけ難しいか……」


 知ってるよ。でも、母さんにできたんだもの。私だってできるわ!」


「バカね。母さんは1人じゃなかったもの。子育ては1人でするもんじゃないわ。この家を……この村を出て行って、見知らぬ土地でうまくいくと思ってるの?」


 この村にいたって、未婚の子供を身ごもった女だと、針のむしろじゃない。どこにいたって一緒よ!この子は私が守る。私が育てる!


「そう。じゃあ勝手にしなさい」



 声が……聞こえる。私をしょうがない娘だと。男に騙されて身を任せ、子供まで生んだ愚かな娘だと蔑む母の声が。

 そして、ずっと私を苛む、泣き声が聞こえる。



 もうやめて。もうやめて。そんなに私を責めないで。泣かないで、泣かないで!お願いだから!



 泣き声と共に、ドンドンという強い音で、リアーナは目を開けた。



「おい、泣き声がうるせーって言ってんだろ!何回言わせるんだ!」



 扉の向こうから、怒り狂った男の声が聞こえる。最初は謝っていたリアーナも、もう限界で耳を塞いで耐える。

 男の怒声と、赤ん坊の泣き声がぐわんぐわんと頭を巡り、激しい頭痛と眩暈が襲う。



「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい!」



 揺り籠の淵で自分の体を抱きしめながら、震えを抑える。



「ちょっと!あんたもうるさいよ!いい加減にしてくれない?壁薄いってわかってるでしょうが!」



 扉の向こうから女の声が加わる。


「わかっとるわ!ある程度は我慢できるが、こう毎日何時間もこの泣き声聞いてたら、気がおかしくなりそうなんだよ!」

「それは同意見さ。ちょっと、リアーナとかいったっけ?謝りにも来ないのも気に入らないし、ゴミ出しはちゃんとしないし、集まりにも参加しない。この泣き声もイラつく。このままこの状態が続くなら、訴えるか出てってもらうからね!」



 最後に扉を蹴りあげ、2人は去っていく。



 リアーナはうっすらと目を開けて、未だに泣き続ける自分の子供をみつめる。



「お願いだから泣き止んでよ」



 抱き上げても、ミルクを飲ませても、なにをしても泣き止まない子供に、手をあげそうになったところでそれをもう片方の手でとめる。

 それだけは、それだけは、最後の砦だった。



「オルゴール、オルゴールさえ直れば……」



 リアーナは、娘が泣き止むのを祈りながら、耳を塞いだ。


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