2
声が……聞こえる。
「だから言ったじゃない。あんな男と一緒にいたらあなたが不幸になるって」
わかってる。今はもう痛いほどわかってる。だからこの家を出ていくって言ったじゃない。
「それに子供まで……。このまま1人で育てるつもり?ムリよ。女一人で子供を育てることが、このご時世どれだけ難しいか……」
知ってるよ。でも、母さんにできたんだもの。私だってできるわ!」
「バカね。母さんは1人じゃなかったもの。子育ては1人でするもんじゃないわ。この家を……この村を出て行って、見知らぬ土地でうまくいくと思ってるの?」
この村にいたって、未婚の子供を身ごもった女だと、針のむしろじゃない。どこにいたって一緒よ!この子は私が守る。私が育てる!
「そう。じゃあ勝手にしなさい」
声が……聞こえる。私をしょうがない娘だと。男に騙されて身を任せ、子供まで生んだ愚かな娘だと蔑む母の声が。
そして、ずっと私を苛む、泣き声が聞こえる。
もうやめて。もうやめて。そんなに私を責めないで。泣かないで、泣かないで!お願いだから!
泣き声と共に、ドンドンという強い音で、リアーナは目を開けた。
「おい、泣き声がうるせーって言ってんだろ!何回言わせるんだ!」
扉の向こうから、怒り狂った男の声が聞こえる。最初は謝っていたリアーナも、もう限界で耳を塞いで耐える。
男の怒声と、赤ん坊の泣き声がぐわんぐわんと頭を巡り、激しい頭痛と眩暈が襲う。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい!」
揺り籠の淵で自分の体を抱きしめながら、震えを抑える。
「ちょっと!あんたもうるさいよ!いい加減にしてくれない?壁薄いってわかってるでしょうが!」
扉の向こうから女の声が加わる。
「わかっとるわ!ある程度は我慢できるが、こう毎日何時間もこの泣き声聞いてたら、気がおかしくなりそうなんだよ!」
「それは同意見さ。ちょっと、リアーナとかいったっけ?謝りにも来ないのも気に入らないし、ゴミ出しはちゃんとしないし、集まりにも参加しない。この泣き声もイラつく。このままこの状態が続くなら、訴えるか出てってもらうからね!」
最後に扉を蹴りあげ、2人は去っていく。
リアーナはうっすらと目を開けて、未だに泣き続ける自分の子供をみつめる。
「お願いだから泣き止んでよ」
抱き上げても、ミルクを飲ませても、なにをしても泣き止まない子供に、手をあげそうになったところでそれをもう片方の手でとめる。
それだけは、それだけは、最後の砦だった。
「オルゴール、オルゴールさえ直れば……」
リアーナは、娘が泣き止むのを祈りながら、耳を塞いだ。