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アルケミリア雑貨店へようこそ!  作者: リサイクル推進委員会
第三話 歯車
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蛇足

「やわらかい心をもちなさい。そうして待ったら、良い匂い。勇気をもって手を伸ばしなさい。そしたらフタはあっつあつ。肉はトロトロ、野菜はぐずぐずどこいった?」



 シチューを作るのは難しい。焦る気持ちを殺して我慢強く煮えるのを待つ。いつ野菜を加えるのか、そして火を止めるのか、ちゃんと観察しなくちゃいけない。だからささくれ立った心で料理をしてはいけない。余裕をもってとまではいかないけれど、やわらかい心でみなければいけない。

 そしてカマドでの火の調節は非常に難しい。金属(かね)のフタは熱くなっていて、触るには勇気がいる。けれどフタを開けることができれば、そこには美味しいシチューが待っている。



 ずっとこの歌を歌っていた。ずっとこの歌を娘と歌っていたいと思っていた。けれど、やっぱり娘は【私の娘】で、私と同じことを繰り返した。

 この家系は男を見る目がないのかもしれない。

 この閉鎖的な村で、未婚のまま子どもがいる女は厳しい目でみられる。それでも生まれ故郷であることに変わりなく、針の(むしろ)であろうと助けてくれる人間のいるこの村に留まり続けた。けれどそんな私をみていた娘は、この村にいることは耐えられないと思ったんだろう。他ならぬ、自分の母親をみていたからこそ、誰も自分のことを知らない場所に行こうと決めたんだろう。



 誰も知らないということは、1から自分の居場所を作らなければならないということだ。子育てだけでも大変なのに、そこまで割く余力を娘が持っているかと聞かれればそうは思えない。だからたとえ村人から軽蔑されたとしても、勝手の知っているこの村にいたほうがいいだろうという親の考えは、たぶん必死に生きようとする子どもにとっては余計なものだったんだろうね。



 だけど、やっぱり娘は迷子になった。どうしたらいいのかわからない。そんな迷いの中で道を見失って、それでも泣けずにいた。

 わからないのがあたりまえなんだよ。どうしたらいいかわからないまま、手さぐりで効率悪く、足掻いて悩んで苦しんで、それでも進んでいくのが普通なの。だからわからないことに不安を持ちすぎることはない。必要なのは、心の在り方。そして少しの勇気だけ。



 心の在り方は人によって違う。けれど、女ならやわらかい心をもちなさい。ささくれだった心のままでは、なにをみてもちゃんとそれをみられなくなる。どんな言葉を聞いても、自分に甘いだけの人間になってしまう。そうならないように、痛いことは受け流して、辛いことは包み込んで、自分の(かて)としていつか空に(ほう)ってしまえるように。



 やわらかさは、強さだよ。強くなりなさい。母親は優しいものではないよ。強い母親だからこそ人に優しくできるんだ。母は強しってそういうことさ。



 たくさんあんたに言いたいことはあったけどね、もう伝える術はない。でも、私の娘だから、これからの人生の中でいくつかはみつけてくれるだろう。そして私がみつけられなかったこともみつけて生きていくだろう。



 ただ1つだけ気がかりで、私が死んだことであんたが帰る場所がなくなってしまった。だから、自分の娘が帰る場所だと言えるあんたをみて、安心したよ。だからこそ私にできるのは、少しだけあなたを導いて、そして背をおしてあげることだけ。これだけでも結構すごいことなのよ。きっと、このピンクの花がなかったらできなかったでしょうね。



 だから、だから、あとは祈るわ。私の意思がある限り、あなたの幸せを。私はあなたがいて幸せだったから、あなたにもその幸せをあげたいわ。だから、祈り続ける。
























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