第一話 ランドン
一年中霧と共にある街、ランドン。そんな街を流れるメーヌ川は黒く濁ってそこはみえない。高い時計塔が町の中心にそびえ立ち、そこからなだらかに、スカートのすそのように高低のある建物の間を、人々は縫って歩き、エレベーターで移動する。そんなにごった街には、たくさんの人が住んでいた。
メーヌ川は五十年前に舗装され、岸は全て石畳と組まれた石でできている。そんな岸と人々の通る道とは高さで隔てられていて、その壁にアルケミリア雑貨店の入口があった。一応は看板は出ているものの、人々はその店に気づくことはない。
「……はずなんだけどなぁ」
「なにがだ?」
「いや、毎回よくこの店に来るものだな、と。暇なんですか?レイヤード警部?」
茶化すように聞かれたレイヤードは眉間にしわを寄せた。彼はこのランドン警察に所属する警部であり、唯一のこの店の常連客であった。
「この店にいると、いろんな事件が解決するんだからいいんだよ。それよりも、このふざけた品ぞろえと、そのふざけた服装はなんとかならんのか?」
「え?このセンスがわからないなんて、レイヤード警部はダメだなぁ」
やれやれと首を横に振ったのは、このアルケミリア雑貨店の店主、アルトだった。彼は粋にシルクハットを被り、レンズの入らない片眼鏡をかけ、白いシャツと狩人が着るような茶色の服を着て、緑色の靴下に、黒いスリッポンを履いていた。一つ一つをみれば彼に似合うが、それら全てがそろうとなんともいえないちぐはぐさが目立つ。
レイヤードはそんな店主の服装も気に入らないが、なんといってもこの店の商品が理解できなかった。
皮の剥がれたソファや、擦り切れてあと一度しか使えなさそうな用途不明のバネ。なんの部品かわからない歯車や、血で汚れたト―シューズ。先の折れた編み棒、割れた花瓶の破片や、コーヒーミルのハンドルなど、どうみてもゴミにしか思えないようなものが並んでいる。雑貨店ではなく、使えないリサイクルショップというのが、レイヤードの認識だった。しかもこれらの全てが、アルト自身がどこからか拾ってきて商品にしたものである。
「この店に置かれている商品は、みなこの街の誰かが必要としているものなんですよ」
「そんなことわからんだろ」
アルトはときどき不思議なことをいう。レイヤードはいつも耳半分でそれをきいていた。
「この街にいる唯一人、商品を必要としている人だけが、この店をみつけることができる」
アルケミリア雑貨店へようこそ。