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人の生死を扱っています。ご注意ください。


 ほんと。正直に言う。鏑木(かぶらぎ)僚紘(ともひろ)、十七歳。俺は今までなんの変哲(へんてつ)もない、そう、平凡な人生を歩んできたんだ。なのに、なんで。なぜこの俺が、今さら幽霊だのオバケだのと頻繁(ひんぱん)に遭遇しないといけないんだ!

 こういう状況でなければ、キレイだなと思うだろう黄色い銀杏(いちょう)の枝葉を見上げて、俺は(こぶし)を振り上げたい衝動にかられた。

「ブツブツとうるさいぞ、鏑木。どうした? 腹でも減ったか?」

 俺の怒りの原因をいつも作ってくれる、右隣に立つ男をジロリと睨む。

「お前こそ、今度はなんだよ? 落ち武者か? 犬か? 猫か? それとも、恨みがましい女の幽霊でもいるのか?」

 俺はうんざりしながら、先程から道端の銀杏の樹をじっと見上げる友人に声をかけた。

 上宮(かみつみや)(せい)()。前世で陰陽師(おんみょうじ)をしていたというこいつは、その能力が今でも備わってるらしく、こいつにその気がなくても幽霊だのオバケだのが勝手に集まってきては、助けを求めてくる。俺も、その能力のお陰で一度、命を救われた事があった。

 征志と知り合ってから、それまで縁のなかった俺までもが、それを体験するはめになっていた。

 しかし俺の場合、その幽霊が()える時と視えない時があって、今も、眉間に(しわ)を寄せた征志が何かを視ているのは判るが、そのモノ自体は俺には視えなかった。

「ん? あれ。お前には視えないのか?」

 夕焼けに照らされ、オレンジ色へと染まっていく枝を指差して、征志は不思議そうに言った。

「視えてたらわざわざ聞くかよ。俺はお前と違って、全然、視たくもねぇんだから」

 肩を(すく)めて言う俺を見ながら、眉間の皺を深くした征志は、手を口元へと持っていった。

「ふん。ヘンだな。なんでだろ」

 俺の顔を見つめたままで、首を傾げる。そしてゆっくりと、視線を銀杏の枝へと戻した。

「あいつ。俺を威嚇(いかく)してんだよなぁ。原因は、お前だと思ったのに……」

「はあ? なんじゃそりゃ。……それより征志。俺、早く帰りたいんだけど」

「今日も、あの人の所へ寄るのか?」

「ああ。もちろん」

 俺の台詞に、征志の顔が微かに(くも)った。征志はいつも、『あの人』と呼ぶ。

 俺達の……苦い記憶。

 半年前。俺は大事な親友を、嫌な事故で亡くしていた。思い出しただけで、左の頬と腕の傷が(うず)く。

「おばさんの作る料理は、最高だからよ」

 一人っ子だった孝亮の代わりに、毎日おばさんの手料理を食べる。きっとまだ食べたかっただろう孝亮の代わりに。そして、もっと孝亮に食べて欲しかっただろう、おばさんの為に。

「お前も一回、御馳走(ごちそう)になってみれば?」

 征志を見てニヤリと笑う俺に、片眉をヒョイと上げる。仕方ないというふうに短い溜め息を吐いて、征志は歩き出した。

「ま、いいか。直接害はなさそうだし……な」

 言いながらも何かが引っかかるのか、おかしな顔をする。

「なんだよ、変なカオして。やっかいな奴なのか? まさかまた……鬼、とか?」

「ん。いや、彼は人間だよ。でも……なんか……」

「ああ、とりあえず。オバケが男だってコトだけは解った」

 等閑に頷く。その横で、征志が突然立ち止まった。俺の両肩を掴んでジッと顔を覗き込みながら、ゆっくりと目を細めていく。


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