第7話 静かなる采配
帝国議会の空気は、王国とは違う。
円形に並ぶ席。
中央に広げられた巨大な交易地図。
魔導投影で映し出される穀物流通の流れ。
その中に、セラフィーナは立っていた。
「北方の不足分は三日以内に南東航路へ迂回可能です」
淡々と告げる。
議員たちがざわめく。
「不可能だ。輸送許可が下りていない」
「許可は不要です」
静かな返答。
「商会三社の代表は、すでに帝都入りしております。条件は整えました」
「いつの間に……」
視線が皇帝へ向かう。
カイゼルは腕を組み、ただ見ている。
助言もしない。
口出しもしない。
ただ——任せている。
「王国は三日以内に再交渉を試みます」
セラフィーナは続ける。
「ですが交渉材料が不足しております。帝国は譲歩の必要はございません」
議員の一人が身を乗り出す。
「では、我々は傍観せよと?」
「いいえ」
わずかに微笑む。
「主導権を握るのです」
地図の一点を指す。
「王国の穀物依存率は三割。価格を一時的に上昇させることで、向こうから譲歩を引き出せます」
空気が変わる。
ざわめきは、驚きへ。
「……そこまで読んでいるのか」
「王国の帳簿は、長年管理しておりましたので」
さらりと言う。
それだけのこと、という風に。
議員たちの視線が変わる。
疑念から、評価へ。
そのとき。
別の官僚が口を開く。
「ですが、王国との関係悪化は避けるべきでは」
セラフィーナは一瞬、沈黙する。
そして。
「関係は、すでに悪化しております」
静かな断言。
「断罪という形で」
会議室が静まり返る。
皇帝の瞳がわずかに細められる。
「続けよ」
低い声。
許可ではない。
信頼。
「帝国は干渉せず。ただ市場原理に従う。それで十分です」
簡潔。
的確。
議員の一人が息を吐く。
「……見事だ」
別の者が小声で囁く。
「王国は、なぜ彼女を捨てた」
その言葉が、波紋のように広がる。
皇帝は立ち上がる。
「本日の議決は、セラフィーナの案を採用する」
異論は出ない。
「会議は終わりだ」
議員たちが退出する。
残されたのは二人。
「見事だった」
カイゼルの声は低い。
「陛下が口を挟まれなかったことが、最も効果的でした」
「貴女が十分だからだ」
間を置かず返る。
セラフィーナは視線を逸らす。
「過分なお言葉です」
「違う」
一歩、距離が縮まる。
「私は事実しか述べぬ」
銀の瞳が真っ直ぐ向けられる。
「帝国は、貴女を得た」
短い言葉。
だが重い。
廊下の向こうで、官僚たちの声が聞こえる。
「皇帝があれほど任せるとは」
「信任か」
「いや……それ以上では」
ざわめきは広がる。
王国で“影”だった令嬢は、
帝国で“中枢”になりつつある。
そして。
王子の元には、まだ返書は届いていない。
だがその頃、
穀物価格はさらに上昇し、
貴族たちの不満は膨れ上がっていた。
知らぬのは、彼だけ。
自分が捨てた者が、
今や隣国の未来を握っていることを。




