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捨てたのはあなたです。今さら取り戻せません  作者: めめめ


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第1話 それは、祝福ではなく宣告でした

王立舞踏会の夜は、いつもよりも華やいでいた。


燭台の光が大理石の床に溶け、金糸で刺繍された天井画が揺れる。

貴族たちの笑い声は高く、甘く、どこか浮ついている。


その中心に、わたくしは立っていた。


セラフィーナ・アルディア。

公爵家の長女にして、第一王子レオンハルト殿下の婚約者。


本来であれば、今夜は祝福の夜であったはずだ。

王太子妃としての正式なお披露目。

未来の王妃としての第一歩。


——ですが。


「セラフィーナ・アルディア。貴様との婚約を、ここに破棄する!」


楽団の音が、唐突に止まった。


ざわめきが広間を駆け抜ける。

扇子が落ちる音が、ひどく大きく響いた。


殿下は玉座の階段上から、わたくしを見下ろしている。

その瞳は、かつて見たことのない冷たい光を帯びていた。


「貴様は王家の名を利用し、裏で商人と癒着し、国庫を私物化している。さらに、隣国へ密書を送った疑いもある!」


——ああ。


ついに、来たのですね。


わたくしはゆっくりと視線を上げた。


「それは、どなたのご進言でしょうか」


「証言は揃っている! 貴様の侍女も、すでに白状した!」


会場の隅で、震える侍女の姿が見える。

彼女の瞳は怯え、誰かを探している。


脅されたのでしょう。

あるいは、守るべき家族でも握られたか。


愚かしい。


「わたくしに、弁明の機会は?」


「不要だ! 罪は明白!」


歓声のような、嘲笑のような声があがる。

貴族たちは、次の権力者の顔色をうかがっているだけ。


殿下は続ける。


「そして私は、ここにいるリリアナ嬢を新たな婚約者とする!」


純白のドレスに身を包んだ伯爵令嬢が、勝ち誇ったように微笑む。


……なるほど。


すべては、この方のため。


わたくしは小さく息を吐いた。


怒りはない。

悲しみも、とうに通り過ぎている。


ただ、静かな確信だけが胸にある。


——この国は、もう長くはもたない。


そのとき。


「……証拠は、あるのか」


低く、静かな声が広間を横切った。


振り向くと、黒の軍装を纏った男が立っている。

銀の瞳。

冷えた月のような光を宿す視線。


隣国ヴァルディオン帝国の皇帝、カイゼル陛下。


なぜ、ここに。


殿下は一瞬たじろいだが、すぐに声を張り上げる。


「これは我が国の問題だ! 口出しは無用!」


皇帝はわたくしを一瞥した。

値踏みするようでいて、どこか確信を持った目。


「国庫の管理帳簿。交易契約書。魔導封印の記録。——それらを確認せず断罪するとは、随分と勇敢だ」


空気が凍る。


殿下の顔色が変わる。


わたくしは、そっと微笑んだ。


「どうぞ、殿下。婚約破棄はお受けいたします」


広間が息を呑む。


「ですが——」


視線をまっすぐに向ける。


「わたくしが手を引いた後の財政については、責任を負いかねます」


静寂。


殿下の理解が、追いついていない。


その瞬間。


宮廷魔導士が血相を変えて駆け込んできた。


「で、殿下! 北方交易の資金が凍結されました! 帝国側が契約停止を——!」


広間が揺れた。


皇帝の唇が、わずかに持ち上がる。


「優秀な者を失うとは、惜しいことだ」


その言葉が、すべてだった。


わたくしはドレスの裾を持ち上げ、優雅に一礼する。


「それでは、ごきげんよう」


王国の未来に、静かに別れを告げながら。

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