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第8話:主人公(おもちゃ)返上。――そして世界は色彩を取り戻す

宿の安ベッドに潜り込んだ俺は、荒ぶる鼓動が収まるのを待っていた。


脳裏に焼き付いているのは、ギルドでの――信じられないほど温かい光景。


あれが現実だと言うなら、俺がこの三年間、

死に物狂いで耐えてきた地獄は何だったんだ。


「……なぁ、ブルーナ。今日の街、あいつらのこと、どう思った?」


「何を藪から棒に。ぬしは変なことを聞くのう」


ブルーナが、呆れたように首を傾げる。


「雌どもが主にちょっかいをかけてきて、雄どもが揶揄ったり、

 余計なお節介を焼こうとしてくる……いつもと変わらん日常じゃろ?」


「いつもと変わらん、だと……?」


俺は跳ね起きた。


「バカ言え。いつもはもっと、

 こう……女どもからはヘドロのような情欲を向けられ、

 男どもからは殺意混じりの侮蔑や罵倒を浴びせられてきただろ。」


 「それに前の開拓村にいた時は、こんな急激な変化なかっただろ?」


俺の問いに、ブルーナはどこか遠くを見るような目をした。


「……そういえば、あの村はいい村だった。嫌な視線も、肺にまとわりつくような

 瘴気も感じなくてな。妾はあそこの方がずっと好きじゃ。だが……」


ブルーナは窓の外――夜の街明かりを眺め、ぱっと顔を輝かせる。


「今日、街へ帰ってきて驚いたのじゃ。この街を覆っていた、

 あの不快な雰囲気も、泥のような瘴気も、綺麗に消えておった!

 これなら妾も、この街を好きになれそうじゃぞ!」


喜ぶブルーナの姿を見て、俺の背筋に冷たい戦慄が走った。


……仮定してみる。


もし、あの時に聞こえた『つまんね』という声が、すべての元凶だとしたら?


読者様だか神様だか知らねぇが、俺が「主人公」という役割――

レールに乗せられていた間、


世界そのものが、俺を『復讐と成り上がりの物語』へ引き摺り込むために、

歪められていたんじゃないのか。


人々の好意は、俺を増長させるための卑猥な誘惑へ。


他人からの忠告は、俺に殺意を抱かせるための侮蔑へ。


世界が俺に憎悪を抱かせ、傲慢にさせるために――


他人の言葉を、表情を、感情を、


物語の都合にいいように「翻訳」して、俺の脳に流し込んでいた……。


「……だとしたら、なんて悪趣味な物語だ」


今日は一度も、女どもから誘われていない。


理不尽な罵倒も、聞いていない。


俺が「主人公」という座を下ろされたから、

世界が正常な色彩を取り戻したというのか。


俺は震える手で、自分のステータスと『鑑定』を起動した。


視界に映し出されたのは――


あまりにも無慈悲で、そして、ふざけ切った「能力の変質」の記録だった。


【重要:主人公属性の消失に伴う能力の再構築】


物語の主役としての役割が終了したため、

特権的補正を削除し、実利に基づいた更新を行いました。


■『眷属への供物サクリファイス・ドロップ

(旧:淫王の雫)


体液による異性の「強制支配」を削除。

代わりに「純粋な人種以外」への「強化」へと変質。


※摂取した体液の種類によってバフの内容が変化。


・汗:持久力・防御力の向上

・唾液:魔力・スキルの発動速度向上

・「秘液 or 血液」:全ステータスの爆発的向上、および一時的な『限界突破』


■『絆の共鳴シンクロ・ブースト

(旧:共鳴強化)


仲魔の能力を常時自身の能力に加算。

反映率は好感度に依存(1/10 → 1/5 → 最大1/3)


【リミットブレイク(全能力借用)の代償】


仲魔の全力を借りるには、以下のいずれかを捧げる必要があります。


・秘液の提供:恥ずかしい分泌液を一発分

・供血:血液1000cc(※致死量一歩手前の献身)

・羞恥の誓約:指定される「恥ずかしい行為」を完遂する

(例:大好きだと告白する/お姫様抱っこで愛を叫ぶ 等)

※内容は毎回ランダムに決定


■『獣の親愛ワイルド・フレンズ

(旧:魅惑の芳香Ⅰ・Ⅱを統合)※強制常時ON


純粋な人種には、以後一切の効果を発揮しません。


効果対象:魔物、魔族、亜人種、精霊などの雌


概要:

対象からは「親しみを感じる」程度に認識されます。

以後は自力で交渉し、仲魔を増やしてください。


追記:目指せムツゴロウ王国(笑)


「……ふ、ふざけんじゃねぇぞッ!!」


俺は枕を掴み、叫び声を上げた。


支配が消えたのはいい。

世界が明るくなったのもいい。


だが――この『代償』は何なんだ。


「1000ccの血か、あるいは尊厳をドブに捨てて恥を晒せだと!?


 冗談じゃねぇ……そんなもん、血を捧げるほうがマシに決まってんだろ!」


しかも最後の一文。


「(笑)」だと?


俺がこの三年間、どんな思いで、あのドロドロとした暗い感情と

戦ってきたと思ってるんだ。


それを――


「つまんね」の一言で、コメディに書き換えやがって。


「ムツゴロウ王国だと……? 舐めるのも大概にしろよ、クソ野郎……!」


怒りに震える俺の袖を、ブルーナが引っ張る。


「よくわからぬが、お腹が空いたのじゃ!

 早く美味しいものを持ってくるのじゃ!」


呪縛が解け、明るくなったはずの世界。


だがそこには――

別の意味で逃げ場のない、

滑稽で、過酷な現実が待ち構えていた。


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