第53話:暴君のスペックと狸の算段
アレインの視界に、無機質なはずの半透明なシステムウィンドウが重々しく展開された。
だが、そこに羅列された文字列を目にした瞬間、アレインの思考は凍りついた。
「…………はぁ!?」
思考停止の末に漏れたのは、間抜けなほどに掠れた声だった。
名称:地殻砕きの暴君「グランド・レックス」
分類:古代幻想種(アンキロサウルス型)
全長:約220メートル / 体高:約85メートル / 体重:推定40万トン
【外見と防御能力】
オリハルコンの甲殻: 背中を覆う装甲は、地中の希少鉱石を取り込み変質させたもの。現代のいかなる魔法や兵器でも傷一つつけられない。(カッチカチやぞ)
絶対防御: 200mの巨体でありながら、攻撃を受ける瞬間に魔力膜を表面に展開。同時にエネルギーを吸収し、自らの魔力に変換する。(チート過ぎて草)
【攻撃能力】
大震災の尾: 数十メートルの巨大な棘付きの尾を叩きつける。シンプルな物理攻撃だが、振り回した際の風圧だけで周囲の建造物はなぎ倒される模様。(ヤベえ)
獄炎の息吹: 受けた攻撃を魔力変換し、高圧レーザー状にして発射する。※攻撃を受けるほど威力も破壊力も比例。通常時でも射程は数キロに及び、触れたものは一瞬で蒸発・ガラス化する。
地殻共鳴: 四肢を踏み鳴らすことで強力な振動波を発生させ、大規模な地割れを引き起こす。
【弱点】
ほぼ無し(\(^o^)/)
「……なんだこの、書いた奴の面をぶん殴りたくなる鑑定結果は」
絶望的なスペックもさることながら、相変わらず人を食ったような鑑定スキルのふざけた文体に、アレインの額には青筋が浮かぶ。
「ど、どうだった? なんか弱点とかあったの?」
隣でカイトが不安そうに覗き込んでくる。
「……ほぼ無いそうだ。事実上の『無敵』。そう書いてやがる」
「無いって……じゃあ、あのバッシュって人の『フルカウンター』も通じないかもしれないってこと?」
「さあな。奴の十倍返しでめでたしめでたしで終われば、こっちも楽でいいんだが……」
アレインの脳裏には、攻撃を吸収してさらに威力を増す「マグマ・ブレス」の項目がこびりついていた。
「そんな……もっとちゃんと調べさせてよ!」
「もっとちゃんと言ってもな……これ以上何を……」
「AIチャットだってよく間違えるんだからさ! 『弱点を詳しく再鑑定』ってやってみてよ、お願い!」
カイトの必死な訴えに、アレインは深く溜め息をついた。
「わーったよ。やるから、そう揺らすな」
◇◇◇
場面は変わり、城塞都市ガザ。
「今こそ、我らが勇者の出陣である!!」
領主バルトロメウスの朗々とした宣言が響き渡り、地響きのような市民の声援が空を震わせた。その熱狂の中心に立つのは、陽光を跳ね返す黄金の甲冑を纏ったバッシュと、そのパーティ『白銀の翼』だ。
「安心するがいい。この俺が、必ずやあの魔物を討ち取ってみせよう!」
バッシュが誇らしげに巨大な盾を掲げると、黄色い歓声が爆発した。
「バッシュ様……! なんて凛々しいのかしら!」
「バッシュ様の覇道のお手伝い、このフェリス、命に代えても果たさせていただきますわ」
「わたくしもです。バッシュ様と共に歩めること、光栄に存じます」
白銀の翼の女たち、フェリスとカトリーヌが心酔しきった表情で跪く。
勇者一行が堂々と城門をくぐり抜けると、残された兵士たちが血気盛んに剣を抜いた。
「領主閣下! 我らもバッシュ殿に続き、死力を尽くして戦います!」
だが、バルトロメウスはそれを慈愛に満ちた手つきで制した。
「待て。兵は最小限でよい。君たちや他の冒険者は、市民の避難を最優先したまえ」
「しかし閣下! 我らも男として――」
「我らの仕事は民の安全を守ることが第一ではないか。魔物はバッシュ君に任せるのだ。彼を……信じよう」
潤んだ瞳で語る領主の姿に、兵士たちは「おお……!」と感銘を受ける。
(あいつらが討ち取れたらラッキーぐらいに考えておけよ馬鹿。あのアホ共が時間を稼いでる間に、持ち出せる財宝をさっさと運び出すんだよアホンダラ。一銭も残すかよ)
そんなゲスな本音を完璧なポーカーフェイスで隠していると、今度は『鉄の絆』の面々が詰め寄ってきた。
「領主様! バッシュ達だけではあまりに危険すぎます!」
「そうだぜ! あいつらだけ死地に向かわせるなんて、寝覚めが悪りぃ!」
「閣下、どうか我らにも戦う許可を……!」
エルザ、ガザル、ロルフらが必死に訴える。
周囲の冒険者たちも呼応するように騒ぎ出すが、バルトロメウスはそこで、これ以上ないほど「苦渋の決断を下した政治家」の顔を作ってみせた。
「……私も、バッシュ君だけにすべてを背負わせるのは非常に心苦しい。だが……」
彼はゆっくりと、腰の低い姿勢で冒険者たちに向かって深く、深く頭を下げた。
「民は街を出れば、自分たちで戦う力を持たない。頼む。どうか、ガザの民を守ってくれないか。今の私には、君たちの力が必要なんだ……!」
傲慢なはずの貴族が、しがない冒険者に公衆の面前で頭を下げた。
その衝撃は絶大だった。
「か、閣下! 顔を上げてください!」
「わかりました……我々が責任を持って市民を守ります!」
瞬く間に現場に奇妙な一体感が生まれ、効率的な避難体制が敷かれていく。
(何年俺が貴族やってると思ってんだよ。俺の軽い頭一つ下げるだけで、命知らずの馬鹿共がタダ同然で必死に働くんだ。安いもんだぜ。さっさと働けよ、ゴミ共)
避難誘導と荷物運びが迅速に動き出す様子を見届けながら、バルトロメウスは内心でほくそ笑む。
(よしよし。これで最悪街が潰れても、財産と労働力さえ確保できれば、いくらでも再起はできる……)
◇◇◇
「……おい、鑑定スキル。弱点をもっと詳しく出せ。ついでにバッシュのスキルが通用するかも徹底的にシミュレートしろ」
アレインが脳内で命じると、視界の隅にノイズのようなウィンドウが走った。
「チッ……めんど……じゃなかった。」
一瞬、消え入りそうな薄い文字で不穏な独白が見えた気がしたが、すぐにウィンドウが更新される。
【詳細鑑定結果】
●バッシュの『フルカウンター』について: 有効です。が、相手も攻撃を魔力変換して撃ち返す特性を持つため、能力同士の不毛な消耗戦(ドロ試合)になる可能性が極大。どちらに分があるかと言えば、元々の最大MPが桁違いなグランド・レックスに軍配が上がるでしょう。
●弱点について:
MP切れを待つ: 魔力を使い切ると休止状態に入ります。その間に封印するのが現実的でしょう。(ここら一帯が更地になりますが、個人的には一番のおすすめ!)
ブレス放射の瞬間: 全身が強固な装甲で覆われていますが、ブレスを吐く瞬間だけは、口元周辺の魔力膜が「放出」に回るため、一瞬だけ防御が薄れます。その瞬間に口内から内部組織を狙うのが唯一の弱点と言えるでしょう。
まあ、装甲がクソ硬いので、弱点と言えるほど柔らかいかは別問題ですが?(笑)
いかがでしょうか?(笑)
「お前……今、絶対に舌打ちしただろ!! 絶対に感情あるだろこれ!!」
アレインの怒声が虚しく響く。
(……もう一人の俺、気持ちはわかるが落ち着け。今はこいつを叩いても始まらない)
アレインは大きく息を吸い込み、爆発しそうな苛立ちを無理やり心筋の奥に押し込めた。
(……ああ。だが、希望がゼロじゃねえ。それだけは分かった)
「アレイン、どうだったの……?」
「……バッシュより、あのデカブツに軍配が上がるそうだ」
「じゃあ……弱点は?」
「街が更地になるまで暴れさせて休止を待つか、防御の薄くなる『口』に向かって一撃必殺を叩き込むかだ」
「それって……結局、お手上げってことじゃ……?」
カイトが絶望に瞳を曇らせる。
だが、アレインの瞳にはまだ光が宿っていた。
「いんや? まだ希望はある」
「希望って……?」
アレインはカイトの背を力強く叩き、鋭い声を張り上げた。
「話は後だ。ブルーナ、急げ! 間に合わなくなっても知らねえぞ!」 「
「まかせるのじゃーっ!!」
ブルーナが翼をはためかせ、猛然と加速する。
一行は、絶望が待ち受ける戦地へと、一筋の光のように急行するのだった――。




