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第51話:超弩級の災厄と、通りすがりの者たち

まばゆい光が収まった直後、凄まじい衝撃波が山頂を駆け抜けた。  

アレインたちは腕で顔を覆い、荒れ狂う暴風に耐える。

土煙が舞い、視界が晴れたそこには――。


「……は? なんだ、やっぱり大したことないじゃない」


カトリーヌが拍子抜けしたような声を上げた。  


祠の跡地にうずくまっていたのは、アンキロサウルスをさらに小さくしたような、小柄な魔物だった。

鈍色の甲殻に覆われてはいるが、お世辞にも「千年封印された大禍津神」には見えない。


「こんなの倒しても意味ないわね。期待して損したわ」  


フェリスが鼻で笑い、杖を下ろす。

だが、ドランだけはガチガチと歯を鳴らし、目を見開いて震えていた。


「こっからいきなりデカくなるとかないよな? 責任問題になるから、そういうの本当に勘弁してほしいんだが」


「アレイン……それ、フラグって言うんだよ?」


「フラグ……?」  


カイトの言葉に、ヴェルナが不思議そうに首をかしげた。  


その時、アレインの頭上でブルーナがハッと身を硬くした。


「……思い出したのじゃ!」


「思い出すな! 思い出した内容がろくでもないことだったら、俺のせいになるだろ!」


アレインのツッコミが響いた瞬間、小柄な魔物が天を仰いで咆哮を上げた。  


直後、周囲の魔力が渦を巻き、一気に一点へと集束していく。


「ギャオォォォォォォン!!」  


地響きとともに魔物の体躯が膨れ上がり、筋肉と甲殻が爆発的に増殖していく。


「やべえ、逃げるぞ!」  


アレインの怒号に、フェリスたちも顔色を変えた。


「私たちもここから離れるわよ! 急いで!」


魔力の爆発は頂点に達し、祠があった小さな山ごと吹き飛ばした。  

土煙が収まり、更地となったその場所に立っていたのは――。  

百メートル、二百メートル……山そのものが動き出したかのような、文字通りの「山嶺」がそこに現れた見上げるようなビルの如き巨躯を誇る、歩く要塞だった。


「でっか……」  


シェリーが呆然と呟く。


だが、フェリスの瞳には狂気じみた歓喜が宿っていた。


「……素晴らしい。こいつを倒せば、バッシュはS級……いえ、本物の、真の英雄になるわ!」


「なあカイトよぉ……祠も山ごと消滅したし、これ証拠隠滅ってことでいいよな?」


「今そんなこと言ってる場合じゃないよ!」  


アレインが現実逃避気味に呟くのを、カイトが必死に引き戻す。


「アレイン、礼を言わせてもらうわ。封印を解いてくれてありがとう」


「おい、俺の傷を抉るな」


「礼を言うぞ、アレイン。よし、こいつをバッシュにぶつける。ガザへ誘い込め!」  


カトリーヌが即座に指示を出す。


シェリーが不敵に笑い、影を走らせた。


「アレイン、サンキューね。囮は任せて」


「全然嬉しくねえ……」


「安心なさいな。こいつもバッシュ様が倒してくださるわ」


「フェリス、行くぞ。バッシュの元へ!」  


フェリスは「ではごきげんよう」と優雅に一礼し、嵐のように去っていった。


地響きを立てて歩き出す巨大な魔物の背中を見上げ、アレインは深いため息をついた。


「ブルーナ、思い出したってのは、あれのことか?」


「そうじゃ。めちゃくちゃ硬くてデカい化け物が暴れまわっておったと、昔聞いたのじゃ」


「ゴジラかよ……」


「ゴジラ?」  


ヴェルナが再び首をかしげる。


「おいドランよぉ。都合よくアレを再封印する方法とかねえのか?」  


だが、ドランは力なく首を振った。


「……口伝など、ない。祠の管理をしてきた我が一族の本家は、かつてヴァルドリアに併合された際、この封印の危うさを説いた。だが当時の王は『迷信だ』と相手にせず、本家は役目を解かれたのだ。彼らは『必ず戻る』と言い残し、分家の我らに整備を任せて去ったが……千年経っても戻りはしなかった」  


ドランは膝をつき、絶望に暮れる。


「もう終わりだ……ガザも、ヴァルドリアも……」


その背中に、アレインは苦笑い混じりの声をかけた。


「しょうがねえ。てめーのケツは自分で拭かねーとな。……行くか」


「僕も行くよ。放っておけない」  


カイトが力強く頷く。


ヴェルナは溜息をつき、髪をかき上げた。


「はぁ、仕方ないわね。元の姿に戻って、また運んであげましょうか?」


「えっ、あのシェイク状態はもう勘弁……」


カイトが顔を青くする中、ブルーナがアレインの頭から飛び降りた。


「なら、妾が飛ぶのじゃ!」


「そうだな。あのデカブツにみんなの目が釘付けなら、今さらドラゴンが一匹増えても目立たねえだろ」


「アレイン、一応街の逆側に降りた方がいいよ」  


カイトの提案に頷くと、ヴェルナが笑った。


『なら、私は先に街へ戻って状況を見ておくわね』  


艶やかな毛並みを翻し、漆黒の馬へと戻ったヴェルナが風のように駆け抜けていく。


「おい、ポルン。親父の世話は頼んだぜ」


「うん! お兄ちゃんたち、気をつけて!」  


アレインの言葉に、ポルンが力強く返事をする。


その時、ブルーナの小さな体が膨れ上がり、荘厳なドラゴンの姿へと戻った。


「この姿も久しぶりじゃの。……どうじゃ、惚れ直したか?」


「でかい! かっこいい!」  


ポルンの歓声に、ブルーナは鼻高々だ。


「これこれ、そんなに褒めるでない。……もっと褒めてもよいのじゃぞ?」


その光景を呆然と見ていたドランが、ようやく正気を取り戻したように声を震わせた。


「お前たちは……一体、何者なんだ……?」


アレインはブルーナの背に飛び乗り、不敵に笑った。


「ただの通りすがりの魔物使いだぜ」


「ただの通りすがりの魔法使いです」


「ただの通りすがりのドラゴンじゃ!」  


三者三様の答えに、ドランは思わず吹き出した。


「なんだそりゃ……。……行くのか?」


「ああ。封印を解いちまったのは俺のせいでもあるしな」


「……すまん。ガザを、頼む」


「任せろよ」


ブルーナが力強く翼を羽ばたかせ、空へと舞い上がる。  


虚空に浮かぶ、不可視の観測席。  


そこには、再誕した魔物を見下ろし、愉悦に肩を揺らす「管理者」がいた。


「ハハハ! まさか僕の送り込んだ主人公を、こんな形で破綻させようなんて。アレイン、君は本当に面白いなあ」  


管理者は空中に浮かぶ魔物のデータシートを指先で弾く。


「こいつはもう少し後に出す予定の敵だったけど、今の彼に倒せるかな? まあいい。バッシュ君が『本物の英雄』になるか、それとも無残に潰されて、ただの馬鹿として終わるのか。……楽しみにさせてもらうよ」


管理者の嘲笑が、誰もいない空間に冷たく響いた。

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